神様(詐欺じゃありません)
バルス再生が終わったら私は、用済みなんじゃないだろうか?
勿論まだ先生として重宝されてるし、精霊達のご飯でもあるから、役目がない訳じゃない。
言いようのない不安。
みんなにとって私はこの世界の住人ではなく、
″御使い様″なのかもしれない。
どこかの町に住めば変わる?…どこに?
小麦粉を麺棒で伸ばしながら考えていたら、結構な量になってしまった。
うどんは勿論、春巻き、シューマイ、ギョーザ…無駄にはならないけど、ちょっと手を動かしていたい気分だったからって、作り過ぎた。
大人はこんな気分の時、呑みたくなるんだろうか?
久しぶりにゴブレットを出して、魔力を注ぐ。
一口飲むと、染み渡る美味しさ。
「ふーう…ん?」
精霊達とは違う気配に顔を上げると、トールがいた。
「貴様、不安の原因が、どっから沸いて出た」
「へ?…何か凄く不機嫌?」
トールが引いている。
差し出される空のゴブレットを敢えて無視したら、凄く悲しそうな顔をした。
でも今日は、優しくなれる気分じゃない。
仕方なくトールは、自分で魔力を注いでいた。
「何かあった?」
「別に」
トールが料理を褒めてくれるけど、味オンチの言葉なんて信用出来ないし。
もしかしたら甘いのが苦手かもしれない…よし!
「クッキーも食べて」
収納庫から出したクッキーを、目の前に置いてやる。
「うん。酒には合わないけど、ミノリって感じの味がする」
…えー、食べられるんだ。普通に。
ちっ
「もしかして、僕にミノリの不満の原因がある?」
大ありだよ!
「…元の世界に帰りたい…」
私はバルスでは普通に生活出来ない。それに現代医学なら、何らかの異常があれば、対処できる。
涙が頬を伝う。
「ミノリ?」
大きめのテーブルの割にソファーが一つしかないのは、この空間が個人スペースだったからだろうな。
餃子をまとめて口に入れて、お酒で流し込む。
ふわっとした感じに、ようやくお酒が回ってきたと思う。
「あーあ。こんな気持ちになるなら、生き返らなければ良かったのに」
「何故そんな事を?生活はうまくいっているように思えるけど?」
「!あ、また記憶読んだ!プライバシーの侵害だって言ってるでしょ!ていうか読んだなら不満の原因も分かるでしょ!」
「いや…普通にあった事のトレースしかしてないから。心まで読むのはさすがに僕でもしないよ?」
「そうなの?」
それはさすがに神様的にもルール違反なのかな?
「それに、心を読んだらさすがに心が折れるかもしれない」
何でトールの心が?
心が折れてるのは私なのに。
「私の体は、異常は無いんだよね?」
「何?何かあった?」
「何もないけど…」
むしろないから困っているんだけど。
ミノリは最後の一口を飲み干した。
トールが驚いてそれを見て、嬉しそうに笑った。
「へえ、いつの間に。これでやっとミノリも一人前だな」
…は?
「新しいバルスの管理神て事」
…どういう事?
「つまり、アルティメットスターズの管理下に入ったから、もう心配ないよ」
「私は、用済みって事?」
「何を言ってるのさ。これから僕の傍で頑張って貰わなきゃならないのに」
「つまりは大会社に吸収合併された零細企業経営者のようなもの?」
「んー…ニュアンス的には合ってるけど、微妙な言い方」
「私の寿命が終わるまで、管理人になるって感じか。今までとどう違うの?」
「寿命はなくなるの。神なんだから」
「おのれ、新手の神様詐欺か」
「ミノリ、詐欺じゃないよ。きちんとは言わなかったけど、バルスを救う条件に、新しい管理神を決める必要があった。
本当はバルスの住人から決めるのが一番なんだけど、適した魂がなかった。
邪神だけは僕の加護を与えた勇者に倒してもらったけど、再生には向かなくて、ミノリの世界から、魂を譲り受けた」
「私に管理神になる素質があったっていう事?」
「うん。だから精霊達との相性も良かったし、ちょっと子供過ぎるのが気になったけど、行けると思った。魂には進化の力も入れたし」
「何で今まで何も言わなかったの?」
「絶対になるとは限らなかったし…確率的には二割位かなと思ってたから」
「バルスが助かる確率も?」
「そう。神を失った世界の崩壊は早いから。ミノリが間に合って良かった」
「12で死んだのを良かったみたいに言わないでよ」
「ああ、ごめん」
「じゃあ、もう私には普通の人生を歩めないって事なんだね」
「まあ、そうなるね。そこの所は申し訳なく思うけど、ミノリの考える普通の人生って?」
「そりゃ、結婚して子供産んで、みたいな?」
「子供は無理だけど、結婚…僕とする?」
…は?
そろそろ最終回になります。