ルース
何だか少し、気まずくなっちゃったな。
馬で送ってくれたけど、ルースは何だか怒っているみたいだった。
「ミノリ、スマホ?はちゃんと持っている?」
ポケットを探すけど、ない。
「あ、あれ?」
「もしかしたら盗まれた?あそこはそういう事をする連中ばかりだから」
スッとミノリの手元にスマホが戻る。
「そういえばこれ、なくしても私の所に帰って来るって言ってた」
ルースはふと目を逸らす。
「誰が?」
「トー…神様」
「まあ、どのみち私以外にとってはただの板だし」
「君だけが使えるって事?」
「そうだよ?ほら、表面が黒くしか見えないでしょ?」
「そうだね。君には何が見えているの?」
「色々?」
「…ふうん」
そういえばルースは、結界碑を建てる時も興味深そうに見てた。痛い子を見る視線じゃなくて。
あの町の人は、私に近付いていない。
「ミノリ様、そのスマホという板を盗ったのは、その者です」
「どうにも信用ならないのよね」
(そう…なのかな?)
「アンタみたいな子はコロッと騙されちゃうんだから、気を付けなさいよ?」
あんまり疑いたくはないんだけど、少し変だと思う所はあった。
「何だか、今日はごめんね。僕のせいでミノリが嫌な思いをしたみたいだ」
「別に嫌ではないよ」
「なら、またこうして会ってくれる?」
「いいけど…どうして?」
「君が御使い様としてだけじゃなく、魅力的な女性だからさ」
もしやロリコン?
「あれ?疑ってる?ちゃんと色々考えている所は凄いと思うし、今は可愛いって感じだけど、大人になったら絶対美人になる」
ちょっと!そういう事に免疫のない私にいきなりそんな事言わないでよ!
「ふふっ、慌てているミノリも可愛い」
「だって、そういう事言われたの初めてだもん」
「ねえ?いっそこの町に住まない?そうすれば僕は、毎日ミノリに会える」
「別に住まなくても、顔は出すよ」
「ミノリは、ふいっといなくなっちゃうから、心配なんだよ」
「私は、色々忙しいから」
「ミノリは僕の側にいてくれないの?」
「この町よりも心配な所は沢山あるから」
「ミノリは他の町にも一瞬で行けるの?」
「行った事ある町なら」
「なら、僕も行ってみたいな。まあ、ここが一番の町だと思うけど」
「それは無理。神様に譲ってもらったスキルだから」
「ええー、何とかならないの?」
マイラでさえ入れなかったんだから、信用できない所のあるルースは、絶対無理。
「私に言われても困る」
「冷たいな、ミノリは。神様に頼んでくれるとかさ」
「会いたい時に会える人じゃないし」
「なら会えた時に頼んでみてよ。ミノリが許可した人なら、移動できるようにとかさ」
「無理だと思うけど、会えたら?」
トールって気まぐれだし、あんまり干渉できないみたいだからな。
「それでいいよ。楽しみにしてる」
「他の町はここと違って生きるのに精一杯なんだから、楽しめはしないよ?」
「それでも、この町のいい所を伝えれば、同じようには行かなくても、発展はすると思うな」
それはどうだろう?
「ねえミノリ、ミノリは領主様の事を誤解してると思うな」
「え?」
「領主様は町の人達の事を一番に考えてくれる立派な人だよ?」
「私はそうは思わない」
「それは、ミノリが領主様の事を知らないからじゃない?」
疑いたくはない。でも…。もし違ってたらごめんなさい!
ミノリはルースにリードをかけた。
「最初から、全部嘘って事?ルースにはちゃんと恋人いるじゃない!」
「いきなり何を?」
これ以上見たくない。でも止まらない!
カメラの早回しフィルムのように、映像と記憶が流れる。もう、嫌だよ!
「ルース、もうあなたとは会わない。領主が他の町を支配しようとするなら、私が全力で阻止するからって伝えて」
「ミノリ!別に僕は、領主様とは何の関係も…」
「嘘つき!もう町で見かけても声かけないでね!」
「何を証拠に!」
「自分の胸に聞いて見なさいよ!」
ミノリは亜空間を開き、飛び込んだ。
そのままベッドに潜り込んだ。
「ちょっとミノリ!何落ち込んでいるのよ!むしろ早めにあいつとの関係が切れたんだから、喜びなさい!」
「ミカル、それは少し無神経よ」
「だってアイシクル!もしかしたらミノリに何かされていたかもしれないわよ!」
「それは…」
「何かって?」
「いいからお子様は黙ってなさい!」
なんでちっちゃなミカルにお子様呼ばわりされなきゃならないの?
「相手が魔物なら、俺達が強制排除出来たけど、人間相手じゃな…」
「トール様は、そこまで見越してリードを授けたのでしょうか?」
「そうだと思うわー。ミノリちゃんて、しっかりしているように見えても、どこか抜けているわよねー」
「ドライアドの言う通りよ。まだまだお子様って事ね」
「ちょっとシルフィ、シルフィの方が見かけはお子様だよ?」
「ミノリしゃま、私達は、創世の時代から生きていましゅ」
「あっしらは生まれた時からこの姿でやんすよ。人間より前に、ホトス様に作られたでやんす」
うわー、マジですか。
「およそ千年て所かしらね?数えてはいなかったけど」
「1521年ですね。もう一つあった世界の方はもっと長かったでしょうね」
「アンタって無駄に細かいわよね、シャドー」
「ご、ごめんなさい」
それに比べたら、私なんてたったの13年だもんね。あ、でもあと4か月で14か。
精霊達のおしゃべり聞いてたら少し元気出てきた。
今日こそエビフライにしようかな…それともやっぱりマグロかな?