海岸ダンジョン 1
探されているかもしれないので、マントを着てフードをかぶり、気配を隠して町を歩く。
漆喰の白壁の建物を見つけた。中を見ると、教会のようだ。祭壇の上に立っている壮年の男性がホトス様だろうか?どっかの誰かさんと違って、凛々しい姿だ。
「おはようございます。お祈りですか?」
目元が涼やかな、爽やか系青年だ。
「あ、ごめんなさい、勝手に入ってしまって」
「いいえ、僕も近所の者ですから。ルースと申します」
名乗ったらばれるかな?
「綺麗な銀の瞳ですね。伝承では、ホトス様も銀の瞳をしていたそうです」
へえ。まあ、所詮は像だから、正しい姿が伝わっているとは限らないけど。
「じゃあ、失礼します」
「見た所、ブーツが随分と痛んでいる様子ですね。近くにいい店を知っています。行ってみますか?」
「でも私、お金を持っていないので」
「素材の買い取りもしていますよ?」
スマホから買ってもいいんだけど、靴は履き心地も大事だよね。
防具屋の一角に、ブーツが置いてある。
ロングタイプもあるけど、防具と被るので、ショートブーツを見る。
中にラビット系の皮で裏打ちしてあり、先端は魔物の骨で強化もされている。
サイズも丁度いい。軽く跳ねたりして、フィット感を確かめてみる。
「気に入ったかい?5000マルクトだ」
「皮の買い取りもしていると聞いたんですけど」
収納庫から、ワーウルフの皮を出す。
「うーん、いい皮だが少し小さいな」
「おじさん、少し位ならサービスしてよ」
「ルース、お前がここに来るなんて珍しいな」
「ぼ、僕だって、色々行くさ」
何か、口調が違う。
収納庫から、この前狩った蛇を出す。
「お!こいつはグリーンバイパーじゃないか。酒のアテには最高だな!こいつを譲ってくれるのかい?」
「いいですよ」
美味しくても、蛇なんて食べたくないし。
「これじゃ貰い過ぎになっちまうな。さっきの皮はいい。逆にこっちから払うようだ」
蛇のくせにやるな。
ブーツを買って逆にお金を貰う。変な感じ。
「このまま履いて行きますね」
「毎度あり!」
「良いのが買えて良かったですね」
「別に敬語使わなくていいですよ?明らかに私の方が年下ですし」
「あ、確かに。僕にも敬語なしで。ミノリって呼んでいい?」
「いいよ、ルース」
あれ?名前教えたっけ?…ま、いいや。
「じゃあ、私、ダンジョンに行くから」
「一人で?危ないよ」
「平気だよ。じゃあね」
「また…僕は教会辺りにいるから」
角を曲がるふりをして亜空間へ。
ダンジョン前には、槍を持った男がいた。
「おー、子供は一人で入るな?」
「どうして?昨日は入れたよ?」
「最近子供だけで入って事故が多いんだ。昨日は偶々誰もいなかったんだろ」
一人じゃないんだけどな。沢山精霊いるし。
「何なら俺が付いて行ってやろうか?もうすぐ交代の時間だし」
「いえ…領主の差し金ですか?」
「は?確かに雇い主はそうだが、町の子供全員を止めてるぜ?」
うーん?違うのかな?
「とはいえ、未来の冒険者を育てる為にも、たまにタイミングが合えば付いて行く事もある」
「でも、そうは見えなくても、それなりに強いですよ?」
「腕前を見て、大丈夫そうなら俺も口出ししないさ。どうだ?」
「はあ、なら5階層から」
「よろしくな、俺はゴードだ」
頼れる兄貴って感じの人だ。
白海老もある程度捕って下の階層へ。
赤い海老?茹でる前から?
鑑定 アカビー 虫系魔物だが、肉質は柔らかく美味
うん。これも美味しそうだ。
10階層まで大した魔物も出なかったので、ゴードさんも見ているだけだった。中ボスは巨大亀?
水が少なかったので、雷の魔法を打ったら、あっさりと甲羅を残して消えた。
鑑定 ブラックトータスの甲羅 硬く、水を通さないので、靴の裏地に使われる。
何かに使えるかな?とりあえず収納庫へ。
「い、今のは何だ?」
ん?魔法?収納庫の事?でも海老をしまった時は突っ込まれなかったよね?
「あ、私、魔法が使えるので」
「あ…あれが魔法」
「私、心配ないですよね?」
「い、いや…まだ強いのが出るのはこれからだからな」
次の階層では、顔に角の生えた魚が襲ってきた。
鑑定 ソードフィッシュ 淡泊な味だが柔らかく美味 角は素材として使える
倒したら、身が開きになって出てきた。親切なんだか微妙に外しているのか。
階段を下りたらワニが口を開けた。貫くように刺すと、黒い石?を落とした。
鑑定 オニキス ブラックワニーの落とすレアアイテム
運150の力?別に宝石は欲しくないんだけどな。
次からはワニ肉と、たまに皮が出てきた。肉は美味しいらしいから、有難く頂く。
次は、ピラニー。囓られると痛そうなので、空歩で水の上を歩いて通過。ゴードさんのブーツは金属製なので、全く問題なし。
次は…ちっ、カエルか。しかも毒持ち。結界魔法を使い、一応ゴードンさんにも結界魔法をかける。
次は、ウォーターベアという熊の魔物。皮はなめされて出てくるので、積極的に採取する。
ふと通路が気になり、剣で叩くと、石壁がスライドした。中には宝箱があった。
「ついてるな。だが罠もあるからきをつけろよ?」
開くと…木?いやこれは!
鑑定 カツブシ 出汁として使う
やっぱり、鰹節だ!嬉しい。ねこまんまが食べたいな。
出入り口にいたウォーターベアは、ゴードさんが槍で突いて倒した。皮を拾って私に渡してくるけど、それは貰えない。
「それはゴードさんの物ですよね?」
「あ、いや、俺は仕事だし」
「持ってても邪魔だろうから、預かっておきますね」
「なあ、アンタは何で色々持てるんだ?」
「収納庫っていうスキルですけど」
「今日だって、何もない所から出てきたよな?」
「それもスキルですけど」
「いや、そんなの聞いたことないんだが」
確かに亜空間を利用して一瞬で移動出来るなんて普通はないよね。
「別に嘘はついてませんよ。てか、もういいじゃないですか?」
「いや、強いのは分かったが、逆にどうしてここまで強いのか」
「レベルですけど?」
「魔法も?」
「スキルですね。もう、いいかげんにして貰えませんか?」
「い、いや…気を悪くしたなら謝るよ」
「領主に伝えて下さい、あなたの言いなりにはなりませんて」
「!く…」
「じゃあ私は、まだ下に行くので」
ミノリは、預かった毛皮を渡してその場を去った。