酔っ払いトール
亜空間の中にはトールがいた。
「ミノリー!お疲れー!」
「ちょ、何?お酒臭い!」
「かー!今日は飲まなきゃやってられない気分なんだよ」
コップを傾けて飲み干すと、自動的にお酒が追加される。
「お前も飲め!」
「未成年なので飲めません」
「は?未成年て何だ?」
「私がいた国では、20歳になるまでお酒は飲めない事になっているの!」
「はー。けどここはもう、元の世界じゃないぜ?」
「そうだけど、身長が伸びなくなったら嫌だから、飲まないよ」
「なーんだそりゃ。まあ、確かにミノリは小さいな、色々と」
「うっさい!今私は成長期なの!」
ったくこの酔っ払いは!この人は神の威厳とかどこに置いて来たんだろうな。
「そのコップは魔道具なの?」
「ゴブレットって奴だ。便利だろ?」
「いや、歯止めがきかなくなるだけじゃない?」
「人間と同じに考えるなよ。酔う感覚はあるけど、悪酔いしたりはしないんだ」
そういう所は神様仕様なんだ。酔っ払ってグダグダしてる姿はオヤジって感じなのに。
「そのスマホさ、色々と出来るようにしたじゃん?それが、神器を渡すなんて何事だーって事になって」
「え?これ私のスマホだよ?」
「そうなんだけどさ、色々といじったから、一応神器扱いなんだとさ。魔物のいない世界から連れて来た子供なんて、何かしないとすぐ死んじゃうってーの!」
「スタートはレベル1だしね」
「そー!僕がやった事は間違ってないぞー!」
「はいはい、感謝してるよ」
「ミノリー!ツマミ!」
「はぁ…ちょっと待ってて」
この酔っ払い、何とかならないかな?
オーク肉と野菜を短冊切りにして、たっぷりと唐辛子を振る。
「おー?いいな!ミノリ、料理上手だな!」
ちっ、失敗か。
自分の分は、辛くないのを食べる。
「あん時の賭けに勝ってたら、アイツの名前、イヤミにする予定だったんだぜ?」
シェー!ってする人?
「アイツとか言われても私分からないし」
「なんつーか、細か過ぎる奴なんだよ」
「トールとは正反対って事?」
「そー…っておい、失礼だな」
「スマホ、持ってていいんだよね?」
「外側はお前のだろーが…ミノリ、酒、ついでくれ」
「魔力流せばいいの?」
トールからゴブレットを受け取り、魔力を流す。
「ちょっと!一気に半分近く持ってかれたんですけど!」
「そりゃお前、人間の魔力なんてたかが知れてるだろ?…おー!旨い!もう一杯!」
「魔力一気に減るから嫌」
「どうせ夜だし、あとは寝るだけだろ?それに魔力は使った方がいいぜ?」
「うん。最大量が増えるのは気がついているよ」
「という訳でもう一杯!」
「これ飲んだらもう帰ってね!もう私、寝るんだから」
「なんだよミノリ、冷たいな」
「私は疲れているんですー!お風呂だって入りたいし」
「おー、入れば?」
「…。覗かないでね?」
「んなせこせこしなくても、ミノリがつるぺたなのは判ってるし」
「!変態酔っ払い!」
「んだよ…あれ?いつの間にか属性精霊揃ったのか?」
「見てたんじゃないの?」
「ちゃんと見てたのは、初日位だぜ?」
「あれ?でも確か…」
「ん?ああ、記憶読めるからな」
「!ちょ…何それ酷い!」
「へ?」
「プライバシーの侵害!変態!」
ミノリはトールをペしぺしと叩く。
「ちょ、地味に痛い」
「トールの馬鹿ー!」
「んな事言われてもな…はぁ、分かったよ。帰る」
面白くなさそうに言って消えた。
色々と聞きたい事もあったけど、仕方ない。
残ったトールの分のおかずをつまむと、物凄く辛かった。
「あいつ、味覚おかしいんじゃないの?うー、まだ辛い!」
自家製の飴を口に入れて、辛さを中和させる。
勿体ないけど、処分決定!