残念サンダー
北の町の作物は実り、久しぶりの野菜だと皆に感謝された。
土を鑑定してみたけど、今の所は大丈夫そうなので、なるべく長持ちしそうな野菜の種を蒔いた。
子供達は、空気にふれないように隔離されて育てられているようだ。大人には大丈夫らしいけど、お年寄りの姿も見えないから、免疫力の差だろうな。
各町には、名前を考えてつけるように言った。北の町だけは、シースクという名前があったけど。
そろそろ次の町も見つけたいけど、どの町にも情報はなかった。
本当は魔物を倒すのが一番なんだけど…トールの世界から来た勇者、こういう厄介な魔物は退治してくれればいいのに。
「もう一度、勇者来てくれないかな?」
「はあ?ミノリ、前に来た勇者がどんな奴か知ってるの?」
「全然」
「もう最低よ!私たち四属性の精霊は従わされたんだけど、ホトス様のかたきだからって。魔法も覚える気はなかったし、ていうか援護魔法は私たちの仕事って言って、自分は剣ばかり振るっていたわね。確かに強かったけど、魔力は美味しくないし、ここに住む人たちの事なんか全然考えてくれなかったわ。守るべき人は別にいるからって、だから雑魚魔物は捨て置かれたのよ」
妻子持ちの勇者だもんね。
「ありゃあ酷かったな。アクアなんかは攻撃向きの精霊じゃないからって殆ど無視されてたし。水が欲しい時だけ呼ばれてたな」
「私、何も出来なかったでしゅ」
「ま、肝心の邪神は倒してくれたからよかったけど」
うーん。そういう人なら再生はしないな。でも、もしその人が再生もしてたら私は死んだままだった。
「で?毒素を振りまく魔物はどうするの?」
「う″」
「ミノリ様、雷の精霊を探すという手もあります。私達属性精霊の中では最強の魔法を使います」
「どこにいるの?」
「それは分かりません。ごめんなさい」
「あ、気にしないで、アイシクル」
雷精霊付きの限定セットっぽいのは売ってないから、自分で見つけないとだめなんだろうな。
「あとは闇の精霊かな?」
「私、あの子苦手だわ。性格も正反対だし」
ミカルと正反対っていうと、大人しくて従順なのかな?
「ちょっとミノリ、あなた失礼な事考えなかった?」
「え、別に…」
「それと原子の精霊がいますが、我々の長なので、全員揃わないと会ってもくれないかもしれません」
「原子って、魔法はないよね?」
「長は特殊な存在なので、ミノリ様と契約するかどうかも分かりません」
「うん。無理強いするつもりはないよ。いたら助かるけど、それに楽しいけど」
「私達も楽しいですわ。ミノリちゃん可愛いんですもの」
「ドライアド?それって…」
「うふふ。私達の姿を視る事が出来るのは、森の民位ですものね」
人が困っているのに可愛いとか、酷い。
「それでどうするの?ミノリ」
「マップによると、魔の森に数件の家の形跡があるけど、住んでいるかは分からない。あとは西の町から更に南西の方向に西の町と同じ位の規模の町があるけど、かなり遠い。あとは海の向こう側にある島に町があるけど、これは今の所どうしようもない」
船も何もないからね。
「とりあえずは南西の町に向かってみるよ。最低限の支援でも、早くしてあげたいし」
「魔物は?」
「私はまだ弱いから…」
「充分強くなったと思うわよ?ミノリは。初めの頃は本当に私達がいないと死にそうだったけど、魔法も上手くなっているし、剣の腕前も、勇者程じゃないけど強くなっているわよ」
「まあ、レベルも上がっているしね」
「とにかく光魔法よ、もう毒素は抜いてあげないからね」
「分かってるよ。結構クリーンとか使っているじゃん」
西の町に移動して、そこから南西へ。切実に自転車が欲しい。
もう三日は歩いている。そこからまた山超えだ。
何故か魔物が強くなってきている気がする。さっきのオーガにも上位種が混じっていたし、このサーベルタイガーも素早くて強かった。
やっと山の麓まで来た。突然、雷が落ちた。見ると、黄色くて丸いフォルムのまるでピ○チュウみたいなのがいた。
「精霊だよね?」
「サンダーだけど、様子がおかしいわ」
「クリーン!ハイヒール!…あ、エクストラヒール!」
「ミノリ、今ので光魔法は極めたわ。聖魔法を授けるわ」
「ピュア!キュア!」
サンダーから靄のようなものがぬけた。
「これは御使い様。とんだご迷惑をおかけして申し訳ありやせん。あっしとした事が、邪神の残した邪悪なオーラに囚われていたようでやんす」
ええ…その姿でその喋り方なの?違和感半端ない。
「大丈夫なの?」
「へい、お蔭様で。あっしはサンダーでやんす。御使い様は?」
「ミノリだよ。よろしく、サンダー」
「へい、お任せ下せぇ」