どうやら私は天使なようです
暇つぶしに昔考えていたネタを文字にしてみました。
更新は不定期ですが頑張っていこうと思います。
私のお父さんは酔うと必ず「お前のお母さんは天使だったんだ」と口癖の様に言っていた。
普段はそんな素振りは全く見せないが母を亡くした事がよほどショックだったのだろう。
そして母をどれだけ愛していたのかがその一言で十分すぎるほど伝わってきた。
だからそんな時は静かに相槌を打つのである。
会ったことのない母を想いながら…
カーテンの隙間から差し込む光がベッドの上に置いてある目覚まし時計を照らし始めると待ってましたと言わんばかりにアラームを鳴らすのであった。
私はその毎日聞き慣れた音を布団を被り耳に入ってこない様に遮るのであった。
「う〜ん…あと10分だけ」
誰に言うでもなく、誰が聞いているでもない言葉が自然と出る様になったのはいつ頃からだろう。
しかし、目覚まし時計はそんな言葉などかき消す様に私に起床を促す。
「わかったよ〜起きます、起きますってば!」
そう言って重い身体を起こし眠い目を擦りながら朝の光に身を包む。
何だか背中に違和感を感じるがそんなことは大して問題ではないのである。
1階から「早く起きなさ〜い」という父の声が聞こえてくるので「もう起きてるよ〜」と少し大きめの声で返事をしながらまだ慣れない高校の制服に袖を通す。
そんな私の名前は愛野紬
あいの つむぎ
今日4月16日で16歳になりました。
1階に降りて父が用意してくれた朝食を食べていると「誕生日おめでとう。話があるので今日は早く帰ってきなさい」と父が言う。
私は「誕生日プレゼントなら今くれてもいいんだよ」と少し冗談混じりに返してみると壁に掛かった時計を指差しながら「そんな事を言ってる時間はあるのかな?」と微笑みながら言う。
時計は8時を指していた。
「あぁー遅刻しちゃう!お父さんの作るご飯が美味しいのがいけないんだからね!」と悪態をつきながら茶碗に残ったご飯を掻き込み学校へと急いでかけて行く。
っとその前に母の仏前に手を合わせ「今日で16歳になりました!行ってきます!」と言って父にも行ってきますと返事をして家を飛び出す。
………始めにおかしいと感じたのは、紬ちゃん今日も元気だねと朝の挨拶をしてくれた近所のおばちゃんの小指に赤い糸が結んであった事だった。
大通りに出て走っていると通り過ぎる『女の人』の小指に赤い糸が見える。流行ってるのかな?くらいに思っていたのだが、遅刻を免れギリギリで教室へ入った私に「あんたはいつもギリギリだねぇ」と声をかけてきた親友の指にも結ばれていたので「それって流行ってるの?」と聞いてみると「なんの事?」と返ってきたので「その小指の赤い糸の事だよ!」と正確に聞き直すと「あんた熱でもあるの?大丈夫?」と言われて
『これは私にしか見えて…ない?』と当然の様にそう思った。そう思うと何故かこの疑問に対するモヤモヤがスッキリしたからだ。
「ごめん、私の勘違いみたい」と話をはぐらかしその日の授業を受けていると朝に「話があるから今日は早く帰ってきなさい」と言っていた父の言葉を思い出した。「お父さんなら何か知っているのかもしれない。
そう思い学校が終わると朝来た道を朝と同じ様にかけて行った。
家に着くと人の気配がしない。父はまだ帰って来てないみたいだ。「もーなんで帰ってないのよー」と小さく愚痴を零しながらダイニングのいつもの席に腰をかけうつ伏せる。
伸ばした手に何か硬いものが当たり床に落ちる音がして何かと探してみると弓矢の形をしたネックレスが見つかった。
手に取りこれは誰のだろう…もしや父に新しい恋人でも出来て家に忘れて行ったのかな?などと下衆な想像をしていたら、突然ネックレスが輝き大きさが変わって行く。
わわわわわッと焦っているうちに目の前に実物大の弓矢が現れた。
どうしていいのか分からず呆然としていると、玄関の方からドアの開く音がして父がダイニングへと入ってくる。そして目に入ってきた光景を目にして驚くでもなく頭を掻きながら一言「どこから話せばいいのか…」と困った顔をしていた。
テーブルを挟んでお互いがいつもの場所に座り父が話し出す。
「紬はお母さんの事は覚えているかい?」
写真の中の母は知っているが母の記憶があるかと言われると無いと言うのが正しいので首を横に振ると
「お母さんと出会った時僕は人生に絶望をしていて死のうと思っていたんだ。だけど、いざ死のうと思ったら『人生を諦めないで!』と何処からか声が聞こえて周りを見ても誰も居ないから遂に幻聴まで聞こえてきたかと自分が嫌になったもんさ。」
若き日の父の話を聞くのは初めてで今の父からは想像もできない内容で少し戸惑っていると私を見た父が少し微笑みながら続ける
「後ろに気配を感じたから振り返ると女の子が立って居てその子がさっきと同じ言葉を言うんだ『人生を諦めないで!』ってね。君は誰だと問おうとしたけれどそんな暇を与える間も無く『あなたの事を愛している人が悲しみますよ』って言うもんだから言ってやったんだよ『そんな人間はいない』ってね。そしたらその子は『誰にだって運命の赤い糸で結ばれた人が居るんですから!勿論あなたにだって!』と僕の左手を取って『ホラ!』って言った後に、驚いた顔をして『赤い糸が…無い』って言うもんだから思わず『君は何なんだい?』って言葉が出てきてね。
本当は誰なんだいって聞きたかった筈なのに出てきた言葉がそれだったんで驚いたのと見ず知らずの女の子に自分には運命の人なんて居ないって遠回しに言われたようで何故だか笑っていたら『私は天使です。ほら、羽だってあるでしょ?』とその場で一回転したんだ。」
「ちょっと待って!天使って何?今はお母さんの話をしてるんだよね?」
「そうだよ、君のお母さんはその女の子なんだ」
突然あなたの母親は天使です。なんて言われて直ぐに理解できるほど出来の良い頭はしてないので多分今の私はたいそうマヌケな顔をしているに違いない。そんな私を見て
「僕には赤い糸が無いって言った彼女は…」と続きを話し出す。
「『あなたを愛してくれる運命の人が居ないなら私がなります!』って言うものだから怪しくて、始めは彼女を拒んでいたんだけれど僕が何を言っても笑顔で『だって私はあなたの運命の人ですから』って返されて、そんな彼女と過ごすうちに死んでしまおうなんて気は何処かへ消えてしまって気づいたら彼女に恋をしていたんだ。そして君が産まれた。」
少し間を置いてからまた父が話し出す。
「母さんは君を産んで直ぐに亡くなってしまったけれど、亡くなる前に君が16歳になったら天使の力に目覚めるだろうからそのネックレスを渡してくれって言い残したんだ。」
「本来天使の弓矢というものは神様が作ってくれるみたいなんだけど紬は人間と天使のハーフだからこれが必要になるだろうって」
私はテーブルの上の弓矢に目を向ける。
これが…天使の弓矢…?
信じられる筈はないが実際目の前でネックレスは弓矢に変わった…
「私が天使…」