フェーズ2
「そ、そういえば風呂を最後に入ったのって…」
あいつだ。
俺の神聖な場である風呂に…。
許さない!
まあ勧めたのは俺だけど。
せっかく男の爆弾を鎮められたかと思えば、
このタイミングであいつが最後に風呂に入ったことを思い出してしまった…。
こうなるんだったら先に入っておけば良かった!
この場にあいつがいないのにあいつの入っている姿をどうしても想像してしまう。
水浴びをしている姿。
艶やかな肌の露出。
体を洗っている姿。
そしてこの風呂へ…。
そして今は俺がこの風呂に入っている。
え、エロすぎるだろ。
しかもそんなわけが無いのに、地味に残り香が…。
女性の体ってこんなに良い匂いがするもんなのか?
それともこれがあの魔王のフェロモンパワーか…。
俺はとんでもないやつをこの場に招いしてしまったらしい。
今まで見てきたどのA〇動画よりも興奮している気がする。
こ、ここで鎮めるか…?
いやダメだ!
いくらあいつのせいで欲情してしまったからって、どう考えても
やってはいけないことだ。
なにより自分でさっき神聖の場所と言ったじゃないか!
そんな神聖な場所で男の汚い儀式を行うなんてできない!
俺は風呂を愛しているんだ!
風呂を汚すなんてことはしてはいけない。
考えることをやめろ。
すべてを風呂に委ねるんだ…。
俺と風呂は一心同体。
はあ、心が浄化されていく…。
魔王にかけられた呪いが今我が家の教会で浄化されて行っているのがわかる。
先ほどの愚鈍な考えをどうかお許しください。
「ねえ大丈夫~?」
「ひゃっ!?」
「ひゃ…?」
「な、なんだよ急に…」
急に話しかけるもんだから恥ずかしい声出しちまったじゃねーかよ。
「様子が気になっちゃって…てへ!」
てへ!じゃねええ!
少し可愛い…いやじゃなくてだな。
一番来てほしくないタイミングで来やがって!
なんなんだ、お前はどんだけ童貞の男を弄べば気が済むんだ。
「用がないならあっち行ってろ」
「えーなんでそんなこと言うの?」
「俺にとって風呂というのは1日の癒しなんだ…。
今日は特に疲れてるしな」
そう、今日は特に疲れた。
心が揺さぶられてばっかりだ。
こいつ本当に俺を学校に連れ戻しに来たのか?
ただ俺をいじめに来たわけじゃないよな?
「なにそれー、まるで私が疲れさせているみたいじゃない」
「その通りでしかないんだが…」
「あー!雅人君ひどいこと言ったー!これは慰めてもらうしかないなー」
も、もうやめてくれ。
普通の女性にそれ言われたら遠慮なく慰めるし慰めてもらうけど、
お前はダメだ。
もう嫌な予感しかない。
散々俺を誘惑しては悶えさせて完全に生き殺し状態だ。
このあとも悪夢しかやってこないなんてわかりきっている。
もう風呂入った後は心も体も綺麗な状態でベッドに入りたい。
ゲームも今日はいい。
お願いだ寝させてくれ…。
「今日は出たらもう寝るから無理だ」
「え?寝ちゃうの?」
なんでそんな寂しそうな声をするんだ…。
まだまだ俺をいじめ足りないのか?
お前に疲れというものはないのか!
「眠いしな」
「そっか…」
やめてくれそんな悲しそうな声は…。
「ごめんね、今日意地悪しすぎたよね…」
「え?」
あ、謝った?
あの魔王こと綾瀬美波が!?
明日は雪でも降るのか?
とそんなことを言っている場合じゃないな。
確かに意地悪しすぎたのは事実である。
「私雅人君のこと傷つけたかな?」
「い、いやそこまでは…」
意地悪しすぎたのは事実ではあるが、
別に嫌ってわけじゃないんだ。
「私といると楽しくない?」
「そんなことはない!た、楽しいよ…」
「本当に?」
「お、おう…。たまにはこんな日があっても良いんじゃないかとは本当に思っているぞ」
「雅人君…」
そんなことを心配していたんだな。
やはり魔王だなんて失礼すぎはしないだろうか?
確かに意地悪されまくっているが、しばらく神経衰弱なんてやってこなかったし、家からも出てこなかった。ご飯だって十分すぎるくらい美味しい。
意地悪されている以上に、俺の中に今まで失われていたものが少しずつ戻ってきている。
嫌じゃない、つまらなくない。
今日も思ったけど、誰かとご飯を食べたりゲームをしたりするのは楽しいのだ。
今までずっとそれを忘れていた。
「少しは学校に戻りたいとも思ったかも…」
「ま、雅人君!それ嘘じゃないよね!?」
「ほ、ほんの少しだけな!? 1%くらい!」
「それでも私は本当にうれしいよ!」
「…」
凄い喜んでくれている。
本当に俺を学校に連れ戻したいっていうのが伝わってくる。
こいつは魔王なんかじゃないな…。
少し意地悪な可愛い女子高生の綾瀬美波だ。
「もういいだろ!あと少しで出るからソファに座ってテレビでも見てろよ」
「うん!早く出てきてね!」
そして綾瀬美波が着替え場の部屋から出ていく音がしっかり聞こえた。
「出たか…」
ふう、また疲れがどっしり後からやってきた。
けど疲れている日こそ風呂というものの素晴らしさをより実感できる。
こんな気持ちよく入れているのもあいつのおかげだな…。
「あ、雅人君!寝間着置いておいたから!」
「ありがとう…」
そういえば寝間着を持ってくの忘れていたな…。
非常にありがたい。
あいつは常に学生服だけど、他には持ってきていないのだろうか?
スペアキーでも作ってあいつに渡しておこうかな。
会って間もないけど、信用できる人ということはわかった気がする。
後であいつのお願いも1つは聞いてやろうかな。
そして俺は風呂を出ることにした。
「あれ、寝間着は?」
風呂場を出たらそこにはパンツしか置かれていなかった。
なぜパンツだけ…?
周辺を見渡してもどこにも無さそうだ…。
「おーい、パンツしかないんだけど?」
パンツ以外忘れるなんてあいつもお茶目なところがあるじゃないか。
…いやパンツ以外を忘れるなんてこと本当にあるのか?
逆ならまだしも。
「あー、そういえば言ってなかったね!」
「言ってなかった?何が?」
なにか言い忘れていたことがあったのか?
てか早く寝間着!
めちゃくちゃ寒いって…。
「今からフェーズ2に入るよ!親密度アップ大作戦だよ!」
「は、はあ?」
急に何を言いだしているんだあいつは。
フェーズ2?親密度アップ大作戦?
それとパンツ1枚が何の関係があるんだ?
「そういうのいいから寝間着は?」
「ないよ?」
「ないって、そんなわけ…」
「今から雅人君は私と裸の付き合いをしてもらいます!」
「は?」
俺は知った。
あいつのとんでもない作戦を…。
そしてこれは俺を学校に連れ戻すための誘惑作戦だということも。
綾瀬美波は俺の童貞を奪おうとているのだ…。