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君が思い出になる前に  作者: 砂糖
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道の先

俺はサキと過ごすのが楽しかった。

一緒に映画を観たり、俺の好きな野球を観たりしたんだ。サキは元々、野球に興味はなかったんだけど、広島東洋カープを一緒に応援してくれるようになった。

サキはピアノを習っていたから、俺も挑戦してみたんだ。好きな人がやっていることなら自然と興味がでたんだ。サキが好きなスピッツやMr.Childrenを弾いたんだ。

二人で居るとあっという間に時間が過ぎていった。

順調過ぎて、マイナス思考の俺らしくなく、楽しい日々がいつまでも続くような気がしていた。


ある日、サキから聞いたんだ。

「私、転職しようかな。本当に自分がやりたい仕事は別にあるんだよね。」

サキは銀行に勤めていたが、学生の頃は新聞記者になる夢があったそうだ。

「純一と一緒にいると、楽しいだけじゃなくて色んな事を前向きに考えるようになったんだ。

やっぱり、新聞記者になる夢を捨てきれない。入社試験受けてみようかな。」

もちろん、俺はサキが夢を追うことは、賛成だし精一杯応援することにした。


「私、新聞社の試験に合格したよ!嬉しいよ。」

サキは頑張り屋さんで本当に努力していたんだ。俺は自分の事のように嬉しかった。これまで以上に二人の絆は深まったように思えた。


サキは新聞社に転職してから、とても忙しくなったけど充実しているようだった。俺も仕事を頑張っていたんだ。


でも、二人で逢える時間は少なくなった。俺は、サキへの気持ちは変わらなかったし、やっぱり逢いたくなった。


「サキ、最近二人の時間があまりないし、たまには逢いたいな。」

「うん……。そうだね、何とか時間作るよ。」

俺は、サキに逢えて嬉しかったんだけど、好きだから逢いたいっていうのは少し俺がバカだった事を後で思い知るんだ。


「純一は元気そうだね。」

久しぶりに逢えたサキは、少し疲れているようだ。

俺は、逢えた事がすごく嬉しくて何を話したかあまり覚えていないほどだった。


この頃からだろうか、サキに少し変化がでてきたんだ。


二人で逢っても、どこか上の空という感じだった。俺はサキの変化を感じながらも、あまり深く考えていなかった。

ある日、サキのラインに俺は落胆した。

「純一、最近ちゃんと向き合えなくてごめんね。少し距離をおきませんか?」

「どうして?俺はサキが好きなんだよ。」

「純一の気持ち嬉しいよ。少し聞いてもらっていい?」


サキは切り出してきたんだ。

「私は新聞社に転職してから、新たな職場で未経験の仕事を覚えないといけないし、本当に大変だったんだ。

純一と逢う余裕は正直言ってなかったんだ。でもね、純一の事は考えていたんだよ。もちろん好きなんだよ。だから、少し落ち着いてから時間を作りたかった。」


ここまで聞いて、初めて俺は自分の愚かさに気づいた。

サキは転職したばかりで余裕がないのに、俺は自分の気持ちを優先させてしまったんだ。サキに逢いたい気持ちを彼女に押し付けていた。サキは疲れていたのに……


「私の気持ちが、少しずつ純一から離れて行くのが自分でも分かったんだよ。それでも私は、やっぱり純一が好きだし嫌いになりたくないよ。だから、少し距離を置いてお互いよく考えてみたいよ。」


俺は、あまりにも子どもだった。気づくのが遅過ぎた。サキの考えを受け入れるしかなかった。

「サキ、本当にごめんな。嫌な思いをさせてしまった。これからの事はサキが決めてくれていいよ。」


それでも、俺は言いたかったんだ。

「俺は今までもこれからもサキが大好きだよ。いままで本当にありがとう。もう逢えなくても、陰ながらサキの幸せを祈ってるよ。」


俺は、いつかサキに聴いてもらおうと思って最近ピアノで弾いていた曲を一人で弾いていた。


スピッツ、君が思い出になる前に。


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