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初冒険、この木何の木

 三人が邂逅して前世の記憶が蘇り、加護の力などを確かめてから数週間が経ったある日、満を持して俺は口を開いた。


 「加護も魔法も一通りわかったし、冒険といこうぜ!」

 「よっしゃ! 待っとったでぇ!」

 「で、でも、何の?」


 フータの疑問に答える代わりに、俺は素早く木を登った。

 二人は慌ててついてくる。

 木のてっぺんへと躍り出た俺は、何も言わずに一点を見つめた。

 その視線の先にある物に気づき、二人も俺のいう冒険という意味を理解してくれた。


 「やっぱ最初はあれかいな」

 「た、確かに、凄いもんね」


 並んだ三人が見つめるその先。

 そこには、圧倒的な存在感で周りの森から孤立した、一本の巨木があった。

 一本の木という表現には語弊があるかもしれない。

 一つの木にして一つの森。

 そう表現するのが正しく感じられるほどに大きな木だった。

 茂った森の中にビルが建っているかの如く、緑に映える白い幹がある。

 俺達の住む森がまるで下草に見える程、幹は天空へと伸び、空の中で枝を広げ、一つの森を形作っていた。


 まさにファンタジー。

 三人の初冒険には最適な相手であろう。


 「ゴリラに転生したとわかった時には凹んだりもしたが、待ちに待った俺達の初冒険だ。気合入れていこうぜ!」

 「せやな。やったるわ!」

 「う、うん!」


 常に目に付き、気にはなっていたが、手にした加護の確認などで冒険は控えていた。

 それもこれぐらいでいいんじゃね?という空気になっていたのだ。

 気合も十分に、初冒険へと足を踏み出す俺達だった。


 とはいえ、相手は数ヶ月も歩かねば到達しえない場所にあるわけではない。

 遠出をすれば辿り着く距離であるが、そこは気分の問題である。

 盛り上がった気分のまま意気揚々と巨木に向かう俺達の足取りは、大地に根ざし、行く手を阻むようにそそり立つ巨木の株元で止まった。


 間近で見上げれば、その木の巨大さはまさに圧巻の一言である。

 まるで大地と一体となったかのような、うねる根っこが幹を支えており、その幹は、ゴリラ100人が手をつないでも届かない様な太さだった。

 見上げれば、幹の先には無数の枝がまさに天を覆いつくさんばかりに広がっている。

 しかも、これは一本の木ではなかった。

 無数の木々が互いに絡みつき、お互いがお互いを支えあい、競い、天へと伸びた姿だ。

 一本の木ではない証拠として、数多あまたの果実が空で実をつけている様で、地上には様々な果実が散らばり、腐った臭いを発している。

 それは幹より外側の果実だけなので、中の方はどうなっているのか想像もつかない。

 誰も登る事が出来ない現状、その実を味わう事ができるのは、翼を持ち、空を飛べる者のみだろう。

 そのため、今は鳥の楽園と化している様だ。

 

 複雑に絡み合った幾多の幹は、不思議な事に境も見当たらず、凹凸もなく、滑らかな表面をしている。

 ゴリラといった大型の猿は言うに及ばず、小型のサルでも登るのは不可能であろうと思われた。

 吸盤を持ったカエル類ならいけるのかもしれない。


 「命名、この木何の木、です」

 「この木何の木って、タカ……」

 「た、確かにこの木は、な、何の木かわかんないけど……」

 

 俺の発案に二人は微妙な顔をした。


 「ぴったりじゃねーかよ。で、どうするよ?」

 「登るんちゃうんか?」

 「で、でも、これ、の、登れるの?」

 「……無理っぽいな……」

 「せっかくの初冒険が、始まるまでもなく終わりって何やねん!」

 「ゆ、指すらかからないもんね……」


 そう、指の一本でも引っかかりがあれば、その身を容易く引き上げられるのが俺達の加護の力であったのだが、指も引っかからなければどうしようもない。

 意気揚々と初冒険に繰り出しておきながら、見上げて終わりではしまらないだろう。

 俺達は、何か突破口は見つからないものかと幹の周りを探し始めた。 


 取っ掛かりはないか、手ごろな枝はないか、ツタの様な植物は巻きついていないかと、何とか登る方法を見つけようと頑張ってみたが、何も見つからない。

 最初の盛り上がりはどこへやら、すっかり意気消沈して頭を寄せ合う。


 「何かあったか?」

 「な、何もない……」


 何一つ手がかりが見つからず、すっかりしょげているテルとフータであった。


 「タカは何かあったんか?」

 「……」

 「何や? 何かあったんか? 思いつめた顔しとるで?」

 

 テルが聞く。

 ゴリラの思いつめた顔というのは何やら哲学めいているが、今問うべきはそこではないだろう。


 「ちょっと考えたんだけどよ」

 「何や?」

 「あいつの事さ」

 「も、もしかして、か、神様?」

 「そうだよ、あのボケの事さ」


 神をあのボケ呼ばわり。 

 しかし、二人も同意した。


 「それがどうかしたんか?」

 「いや、ちょっと気になってな」

 「この木何の木なだけにか?ってやかましいわ!」


 テルのボケツッコミをフータと聞き流し、俺は自分の考えを話し始めた。


 「あれだけ剣と魔法のファンタジーだの、人間の文明がどうのとぬかしておきながらの、このゴリラ転生だけどよ。アイツはぜーんぶ計画してやがったよな?」


 二人に同意を求めるが、テルもフータも完全同意である。


 「でさ、これもそうだと思うんだよ」


 俺はそう言って、この木何の木を見上げた。


 「俺達の生まれたところの目の前だぜ? 嫌でも気づくよな? 気づけば登りたくなるよな? だってゴリラだもんよ。だからさ、ゴリラに転生させてゴリラでも登れない木を作り上げたんだと思うんだよ。これだけ美味しそうな果物を実らせてさ」


 熟れて落下した果実が俺達の周りには大量に落ちている。

 大半は既に腐っているが、甘い匂いを振りまいていた。


 「登る事もできずに、美味しそうな果物をただ見上げてるだけの俺達の今の様子を見てさ、腹を抱えて笑ってやがるんだろうよ。あったまくるよな? そう思わねーか?」


 話している途中から、怒りでヒートアップしてきた。

 しかし、テルもフータも全くの賛成であった。

 異論などあろうはずもない。

 二人共そう感じていたからだ。


 「そうやな! 俺達を馬鹿にしてるだけやん!」

 「そ、そうだね! は、初めから、登れない様に作ってるんだよ!」

 「散々期待させといて、それを裏切るんや!」 


 テルとフータがきびすを返して木から離れようとしたその瞬間、俺は叫んだ。


 「だからだ!」


 思わず二人の足が止まる。

 それに被せる様に俺は言葉をつないだ。


 「俺達がこう結論付けることは目に見えていた。だからこそ、この木は登れる筈だと思うんだ!」 


 一体何を言っているのだろう?

 まるで理解ができないと言う風に、テルとフータは顔を見合わせた。 


 「今の俺達の怒りも、この瞬間への仕込みさ! 期待させてゴリラに転生。凹んだところにまさにファンタジーというべき巨木。でも、登れない。目の前の果実が手に入らずに怒る俺達。全てはあのボケの悪戯さ! 決め付ける俺達。正解は目の前にあるのに、怒りで冷静さを失った俺達はご褒美をもらえない、というわけさ。そこまでがあのボケの仕込んだ事さ。ここですごすご帰ったら、それこそアイツの思う壺だぜ?」

 「なんやて? ほんまか?」

 「で、でも、その通りかも……」


 フータは俺の意見に頷いた。

 

 「必ず方法があるはずだ! 何か見落としているはずだ! それをもう一回探そうぜ!」

 「よっしゃ!わかったでぇ!」

 「う、うん!」


 再び木に登る方法を探す俺達だったが、やはりどれだけ探しても皆目見当もつかなかった。


 「なあタカ? こう思わせといての、やっぱないとかあらへんのか?」

 「だったら俺は二度と期待しねー。今後アイツが喜びそうな事は絶対にしねーよ!」

 「せやな。あの神さんもそこまで馬鹿やないわな。って、フータ、何かあったか?」

 「え、えっと、ちょっと、考えたんだけど……」

 

 何やら思いついたらしいフータ。

 テルが問いかける。


 「何や?」

 「ぼ、僕達の加護に、関係してるんじゃないかなって……」

 「どういうことや?」


 フータの言葉に俺はハッとする。


 「そうか! そういう事か!」

 「なんや、タカもわかったんか?」

 「そうじゃねーけど、ヒントだろうよ」

 「何のヒントやねん?」


 テルには見当もつかない様だ。


 「いや、この木は、ずっと誰も登れないまま、だろ?」

 「そうみたいやな。」

 「それはなぜか? 俺は初め、知恵か何かで道が拓けると思ってた。でも、見つからねーよな? だったら、多分俺達だけが持っているだろう、加護の力も必要になるんじゃねーのか? そういうことだろ、フータ?」

 「う、うん。で、でも、僕達が貰った加護って……」

 「体が強くなる、前世の知識がある、くらいだな」

 「何や、三人揃ったら使える魔法みたいなもん、ないんかいな?」

 「アイツが言ってただろ? チートはなし、ってよ」

 「ど、どうするんだろうね?」


 結局何もわからないままである。

 これは、考えたくない事ではあったが、諦めなければならないパターンなのであろうか……


 「くそ! 悪ふざけが過ぎるで、ほんま!」


 言うなりテルは目の前の巨木の幹を蹴りつけた。

 ボゴンと鈍い音がした。

 加護の影響で少々の事では体は傷つかないので、俺達の蹴りは強力だったりする。

 そして俺達は気づく。

 テルが蹴りつけた箇所から発した異音に。

 

 「何や? けったいな音やな?」

 「も、もしかして……」

 「中が空洞ってことか?」

 「ということは、や……」


 顔を見合わせる俺達。

 やっと見つけた正解らしき答えに、顔も綻ぶ。

 しかし、テルが蹴り上げたくらいでは幹の表面には傷一つついていない様だった。


 「テルが蹴っても壊せていないな」

 「これも三人でってことかいな?」

 「さ、三人で、同じところを、ど、同時に、かな?」

 「よし、それでいこうぜ!」

 「せーの、でいくか?」


 テルが聞く。

 それに対し、俺はウキウキした声で答えた。


 「いや、これも冒険の一つだぜ? 合図を決めよう!」

 「た、タカはこういうの、好きだよね」

 「何やあるんか?」

 「あ……いや、トライアングルメガトンパンチでいくぜ!」

 「ありきたりやな……」

 「ひ、捻りも何もない……」


 二人の言葉に、ならばと当初思い付きた案を口にする。


 「じゃあ、アブソリュート」

 「と、トライアングルでいいよ!」

 「そ、そうやな!」


 俺の言葉を遮り、二人が慌てて答えた。


 「まあいいや。じゃあ、パーンチのパーンで打撃目標にヒットな!」

 

 納得した彼らに、俺は身振りを交えて説明した。

 まずはゆっくりと練習をし、呼吸を合わせる。

 そして迎えた本番。


 「テル! フータ! フォーメーションBだ!」

 「お、おう!」

 「び、ビー?」

 「気分だ、気分! いくぜ? トライアングルぅ!」

 「メガトン!!」

 「ぱ、パーンチ!!!」


 掛け声に合わせ、三人で幹の一箇所を同時に殴る。

 すると、ピシっという音が響き、幹の表面に亀裂が入った。


 「やったぜ!」


 それからは夢中であった。

 亀裂に合わせて更に拳を叩き込み、爪を立て、指が入ると木の繊維を力ずくで引きちぎる。

 牙を突き立て、噛みちぎり、繊維を吐き捨てた。

 それを延々と続けていく。

 そしてついに、俺の放った正拳が木の壁を突き破り、向こうの空間へと届いた。

 見れば真っ暗な闇が口を開けている。


 余談ではあるが、遠くから俺達を見守っていた大人のゴリラ達は、俺達の奇行を生暖かい目で見つめ、隙を窺っていた捕食者達は気味が悪くなり、恐れをなして逃げ出していたらしい。


 「やったでぇ!」

 「よっしゃ! 木のトンネルか、すげーな!」

 「う、うん。すごいね……」


 何の変哲もなかった木の幹を殴って壊し、繊維を引きちぎって開かずの扉を開けた結果、ゴリラが一人通れる程のトンネルが幹の中心に向かって伸びていた。

 俺達が壊したのは、ほんの十数センチにも満たない木の層であるらしい。


 「では、改めまして行きますか!」

 「仕切りなおして初冒険、やな!」

 「で、でも、ここまでも含めて、冒険って感じだったよ?」

 「フータはええ事言うなぁ!」

 「そうだな。それに、アイツの事も少しは見直したぜ!」


 列をなし、意気揚々と暗闇の中に足を踏み入れる俺達。

 その足取りは軽く、初冒険を心から楽しんでいた。


 「テル、フラッシュライトの出番じゃねぇか?」

 「せやな! 任せとき!」


 テルの魔法が早速役に立った。

 まさかこの為だけのオリジナル魔法じゃないよな?

 ……まさかな……

か、勘違いしないでよね!

今はストックを修正して放出しているだけだから、書くのが早い訳じゃないんだからね!


トライアングルメガトンパンチ、略してTMP。

流用してTMKキック、TMD(頭突き)、TUN(ウンコ投げ)があります。

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