魔法の考察その二
『遂に魔法に辿り着いたね! 流石だよ!』
アイツは嬉しそうな声でしゃべり出す。
『ありきたりだと面白くないから、必死で考えたんだ! 君達の為に用意した魔法だから大事に使ってね! オリジナルだから、君達で名前を付けてくれると嬉しいな!』
「どこがオリジナルやねん! 完全にパクリやないか!」
テルが吼えた。
まあ、そうだわな。
『あー、聞こえないなぁー。そっちからの声は聞こえないからなぁー」
「嘘つけ! テレビで見てやがんだろうが!」
俺もツッコミを入れた。
『そんなのはどうでもいい事じゃない?』
「やっぱり嘘じゃねぇか!」
「なんやねん、ほんま……」
何なんだこいつは……
白々しい嘘に俺とテルは脱力した。
そんな俺達を他所にフータが話を進める。
「ま、魔法、ありがとうございます! で、でも、威力が弱すぎるんじゃないですか?」
何とフータは倍化の術も喜んでいる様だ。
『フータ君は鋭いねぇ! ヒントを出すと、今はまだ君達のオリジナルになっていないって事さ!』
「ぼ、僕達のオリジナルに?」
フータが首を傾げる。
俺は吐き捨てる様に叫んだ。
「俺達で魔法の名前を考えろって事だろ!」
『タカ君は流石だね!』
どうやら正解だった様だ。
「だったらテルのは”万物を照らす叡智の光”の意味を込めてフラッシュライト(ヘッドライトは流石に可哀想)、フータのは”悪意を遮る高潔な肉体”でミートボール(食べたいだけだ)、俺のは”最小にして最強の意志”でマイクロトロン(特に意味は無い)でいいんじゃないか?」
「フラッシュライト? かっこええやん!」
「み、ミートボール? た、食べたいなぁ……」
『もうちょっと考えてくれてもいいんじゃないかなぁー』
テメェの事なんざ知るか!
『まあ、いいか。じゃあ、取説の中の君達それぞれのページを開いて、その魔法を唱えてくれるかい?』
「それぞれのページやて?」
『それぞれのステータスとか書かれているページだよ』
「何やて?!」
俺達は急いでそのページを探した。
異世界でステータスは必須確認事項だよな。
と言うか、探すまでもなく自動的に開いていた。
「勝手に開いてんだが?」
『ゴメンねぇ、待つのが面倒だから……』
「なんやねんほんま……」
付き合ってられないから次に進もう。
取説を見る。
まずは俺のページだった。
数値がどうなってんのか、期待に胸をドキドキさせて確認する。
名前 タカ
種族 マウンテン・ゴリラ(加護作動中)
年齢 1歳
性別 オス
知力 タカ並み
体力・筋力・持久力・攻撃力・防御力・魔力 ゴリラ1歳程度(加護作動中)
所持魔法 なし
……
「ゴリラ1歳程度って何だよ!」
『ゴメンねぇ、ステータスの数値化なんて無理なんだよ。ゲームじゃないんだからさ』
「テメェは神様なんじゃねぇのかよ!」
俺は吼えた。
『いや、でもさ、体力ってそもそも何なのさ? その日の体調で簡単に上下するでしょ? そんなモノを数値で表して意味があるの?』
「いや、言いたい事はわかるんだが、だったら何で書くんだよ!」
『いやだなぁ、わかるでしょ? 気分だよ、気分!』
「気分って……」
アイツの言いたい事は分かる。
体力なんてのは本来は数字で表せる筈が無いのだ。
仮に表せたとしても、俺の1とテルの1が同じとは限らない。
筋力は機械で測定出来るとしても、その日のコンディションで変わるモノだし、それは特定の部位を計ったモノにしか過ぎない。
ゴリラなら握力はスゲェだろうが……
そんな俺の考えに応えるつもりなのか、アイツが言う。
『じゃあ筋力を図りたい? 握力、背筋、ベンチプレス、垂直飛び、反復横跳び、持久走とか、全部計る?』
「体力測定かよ!」
「面倒やがな!」
「で、でも、ちょっと興味があるかも……」
まあ、フータの気持ちも分かる。
ゴリラの本気の握力とかは興味があるな。
『尤も、今は加護が働いているから測定は無理なんだけどね!』
「消せばいいじゃねぇかよ!」
『えぇぇ? オートにしているから消すのが面倒なんだけどぉ』
「やったら初めから測定とか言わんでええやん?」
何でこいつはこうなんだろう?
「いいぜ、もう。それに筋力を細々書かれても、全部読むのは面倒なだけだしな」
『流石タカ君! ステータスの確認なんて面倒なだけだよね!』
「いや、装備出来る防具とか必要な数値があるから、その項目くらいは確認するだろ?」
『えぇぇぇ? 現実の鎧にそんな制限がある筈ないじゃん? 体格に合えば、誰だってどんな鎧も着れるでしょ?』
「何でそんな所は現実的なんだよ!」
『何言ってんの? 君達がいるのは現実なんだよ?』
「ああ、そうだったな。で? 俺達の現実がゴリラなのは何でだ?」
「ほんまやで! どういうこっちゃ!」
俺とテルは精一杯睨んでやった。
どこを睨めばいいのかは分からないが。
『それはあれだね、誤差だよ、誤差! 初めに言ったよね?』
「言うと思ったぜ!」
「絶対わざとや!」
違う種族に産まれるかもしれないとは言われたが、転生初回でそれは無い筈だ。
「テメェ、絶対あの布団の中で笑い転げてやがっただろ!」
「指さして笑ってたんとちゃうんか!」
テルと共に抗議した。
『良く分かってるねぇ! やっぱり僕は君達が大好きだ! いやぁ、あの時の君達の表情ったらなかったねぇ! もうサイコーだったよ! あ、その時の映像見たい? これだよ!』
悪びれる様子もなく嬉々として言い切り、その時アイツが見ていたであろう映像が本に映し出された。
そこにはポカーンと口を開けた、つぶらな瞳の愛くるしいゴリラの子供達の姿があった。
『これこれ! タカ君が二度見してるのがポイントだよね! 可笑しくって暫くこの映像ばかり眺めてたよ!』
思い出したのか馬鹿笑いを始め、そんなボケ野郎に俺達はどっと疲れてそれ以上構うのは止めておいた。
ひとしきり笑い声が響き、それが治まった所で言う。
「もういい加減、いいか?」
『あ、ゴメン、ゴメン! 魔法だったね? 自分のステータスのページに手を置いて、その魔法を言えばいいよ』
「分かったぜ」
俺は取説の上に手を置いた。
少しだけ緊張したので、息を整えて叫ぶ。
「マイクロトロン!」
途端、取説が光り出した。
「おぉぉ!」
「ちょっとだけ感動や!」
「す、凄い!」
眩しいくらいの色とりどりの光が本から溢れ、森の中を照らした。
根が素直な俺達は、そんな単純なエフェクトにも興奮してしまう。
ゲームを思い出したのかもしれないな。
光が治まりページを確認すると、俺のステータスに魔法「マイクロトロン レベル1」の文字が刻まれていた。
説明には使用者の体を小さくする術とある。
これで使用可能になったんだろうか?
それを考える間もなく、ページがめくられてテルのページに移った。
「次はテルみたいだぜ?」
「よっしゃ!」
テルが手を置き、魔法を唱える。
「フラッシュライト!」
テルの掛け声に同じエフェクトが再生された。
テルのは体の一部を光らせる術となっている。
ついでフータの番となった。
「み、ミートボール!」
一層派手なエフェクトが始まった。
術の説明には使用者の体を大きくするとある。
『三人共おめでとう! これで君達の魔法が完成したよ!』
アイツが祝福した。
「で、何が変わったんだ?」
『それは魔法を使ってみればいいんじゃない?』
「それはそうだな」
「よっしゃ!」
「だ、誰からいく?」
フータが聞いた。
「ほな、ワイからいくで!」
「テルの魔法は体の一部を光らせるとあるぜ? 指先を光らせればカッコいいんじゃないか?」
真っ先に手を挙げたテルに、俺は思いついた事を言った。
「せやな! で、どうやるんや?」
「それは分かんねぇけど……」
思い付きだけで、それからは考えていない。
アイツが助け船を出した。
『イメージすればいいんじゃない?』
「イメージやな? ほな、いくで? フラッシュライト!」
テルは右手の人差し指を突き出し、魔法を詠唱した。
途端、指先が強く光る。
薄暗くなり始めた森の中、テルの指はまるで高輝度LEDの懐中電灯の様だ。
「おぉぉ!」
「ええやん!」
「す、凄い!」
三人で歓声を上げる。
『イメージすれば、光の強さも照らす範囲も変えられる筈だよ?』
「こうけ?」
テルはアイツのアドバイスに従い、光を強くしたり弱くしたり、範囲を広めたり狭くしたりした。
「折角だからそれにも名前を付けようぜ! 強くするのはライトアップ、弱くするのはライトダウン、広くするのはワイド、狭くするのはナローでどうだ?」
「ええな!」
「か、完全に懐中電灯だけど……」
騒ぐ俺達にフータが冷静な感想を述べる。
「次は俺だぜ! マイクロトロン!」
俺の体はどんどん小さくなり、テル達の膝くらいの背丈になった。
「タカ、えらい小そうなったねんけど、これはどうなんや?」
「だ、だね。も、もうちょっと小さくならないと……」
「イメージしたが、これが限界なんだよ!」
俺は叫んだ。
もっと小さくなる様に念じたのだが、これ以上は無理っぽい。
「これで限界なのか?」
神に聞いた。
『うーん、今の所は、だね。初めからそうそう上手くいく筈が無いよね?』
「チッ! これがレベル1っつーことか!」
『そう言う事だね」
という事で残りのフータが魔法を唱えた。
「み、ミートボール!」
詠唱が終わると途端にフータの体は膨張を始めた。
「フータのはほぼ二倍やな!」
「今の俺からすれば山に見えるぜ!」
倍くらいにはなっていよう。
「魔法のレベルはワイ達も1みたいやな」
「だ、だね」
イメージして元に戻り、取説を確認する。
やはりそれぞれの魔法はレベル1だった。
「どうやったらレベルが上がるんだ?」
「モンスターでも倒すんか?」
「い、いないみたいだけど……」
ゲームならばモンスターの討伐、お遣いクエストをこなしていけば良いのだが、この場合はそのどちらでもない気がする。
『さっきも言ったけど、その世界はゲームじゃないよ?』
「だと思った」
「練習あるのみなんか?」
『今はそうだね』
やはりであった。
面倒だと言う俺達にフータが言う。
「れ、練習でレベルが上がるなら、戦うよりもいいんじゃない?」
「ま、そう言われたらそうだが……」
「しゃーないな……」
こうして俺達の日課に、それぞれの魔法の練習が追加された。
魔法の考察は終わりです。