魔法の考察その一
ちょっと短いです。
「魔法って使えへんの?」
ある時テルが言った。
「どうなんだろうな?」
「け、剣と魔法のファンタジーなのにね……」
だな。
それは同意する。
「神さん、俺達オリジナルの魔法とか言っとらんかったか?」
「……言ってたな……」
「ど、どんな魔法なんだろ?」
「期待するだけ無駄だろうがな」
「し、身体強化とか、ば、バフとかもなさそうだよね」
何だかんだで魔法に興味のある俺達だ。
使えるものなら勿論使いたい。
ただ、どうすれば使えるのかはわかっていない。
俺達オリジナルの魔法を用意するとか言っていたから嘘ではないのだろうが、それが何だかわからないからどうしようもない。
それに、この世界の知識ってのもあるはずだが、一体何だ?
分からん事が多すぎるな……
「異世界ファンタジーのお約束だと、マナ、か」
「世界に満ちるマナに働きかけてっちゅうやっちゃな」
「じ、自分の中の、魔法力を使うのも、あるよ?」
「詠唱が必要ならおしまいか……」
魔法の考察は進まない。
「ま、魔石が必要なだけ、とかだったらいいのにね」
「せやな」
「どこにあるんだ、魔石」
「さ、さあ?」
魔石を用意するだけで魔法が使えるのなら楽だが、その魔石に見当がつかない。
テンプレでは地中にある特定の鉱石だ。
それか魔獣の体内に、か。
どちらもゴリラには意味が無さそうだ。
「後は精霊の力を借りて、か?」
「精霊なんて見た事あらへんな」
「だ、だね」
俺達はゴリラである。
実際にはウホウホ言っているに過ぎない。
世界に満ちるマナにしろ、体内の魔力を使うにしろ、真名による詠唱、つまり特定のキーワードによって発現する魔法体系ならば、それを知らない限り魔法の使役は絶望的だ。
イメージが具現化する系の魔法ならば、ゴリラのままでも使用は可能だろう、多分。
魔石の媒介を必要とする場合は、魔石がなければ不可能だ。
精霊との契約によって魔法を行使するのならば、精霊との契約は欠かせない。
で、その精霊ってどこにいるんだ?
「試してみるか……」
「せやな」
「で、でも、どうやって?」
「まあ、見てな」
「いくでぇぇぇ」
俺とテルがそれぞれの考えを試してみる事にした。
「我が左手に封じられし煉獄の炎よ、我が命に従い、その力を現世に示せ!」
「イメージ、イメージ。そしてシンプルに、火球!」
「世界を流れ行く風の精霊よ、契約に基づき、その力を示せ!」
「魔力が体内を巡るイメージ。防護!」
しかし、何も起こらない。
「だめか……」
「やな……」
「て、テルのはまだしも、た、タカのって中二……」
「何も言うなぁ!!」
分かってても、口にしたら駄目な事ってあるよな?
それから俺達が知っている限りに挑戦したが、結局何も起きなかった。
「駄目だな……」
「そもそも体の中に魔力があるんかもわからへん」
「あ、後は、魔石を探す?」
「どこにあるんだ?」
「さ、さあ?」
もう、どうしようもねぇな。
「じゃ、じゃあ、他を探す?」
「それしかないだろうな。見当もつかねーがな」
「あー、もう、なんでこないに面倒やねん!」
「全部アイツのせいだろ?」
「う、嘘は言ってないみたいだけど……」
「神様が嘘をつかへんっちゅーのも、思い込みやあらへんの?」
「それを疑い出すと最早どうしようもねぇな」
俺達は当てにならない神の言葉を半ば信じ、半ば疑いながらも、憧れの魔法を使うべくその方法を探してゆく。
そして、俺はある事に思い至った。
俺達オリジナル、というヤツの言葉についてだ。
アイツの考えそうな事が頭に浮かび、思わず顔を顰めてしまう。
しかし、試してみない事にはいつまで経っても分からないままだ。
「ちょっとトイレに行ってくるぜ」
俺は席を外してその考えを試してみた。
……
呆気なく成功しやがった!
俺の推測は正しかった様だ。
やはりあのボケは、いつか痛い目に遭わせてやらないと気が済まねぇ!
そして、この結果を二人に伝えねばなるまい。
どんな魔法かとワクワクしながら考えている所悪いが、俺と一緒に気落ちしてもらおう。
「なあ、テル? ドラゴンボールで敵の目を欺く技って何だっけ?」
「は? 太陽拳やろ?」
「そう、それだ! あー、でも、どんな振り付けだっけ?」
「あー、それは、こうやないか?」
テルが両手をおでこの前に構え、太陽拳のポーズをしてみせた。
「そう、それ! で、そこでセリフ。」
「太陽拳!」
するとそれに合わせ、テルの頭が薄ぼんやりと光った。
やっぱテルは太陽拳だったぜ!
クソ!
マジでやりやがったなあの野郎!!
「ほ、本当に太陽拳?!」
「何や?」
テルは気づいてないのか?
伝え辛いが仕方無い。
「テル、お前の頭が光ってんだよ」
「何やて?!」
「え? ま、まさか、これがテルの魔法?」
だよな。
じゃ、俺も披露しとこうか。
「目を見開いてよく見とけ! コポルク!!」
俺は金色のガッシュで、キャンチョメが使う体の小さくなる魔法を唱えた。
それに伴い俺の体が少しだけ小さくなる。
そうだよ、クソ!
これが俺のオリジナル魔法だよ!
「なんや、タカ? 少し小さくなったか?」
「え? で、でも、ちょっとだけ?」
そう、テルの薄ぼんやりした太陽拳と同じ、俺の魔法も小さくなるのはほんのちょっとだ。
魔法の錬度が足りないってか?
「これが俺のオリジナル魔法らしい」
「ワイが、太陽拳?」
「え? じゃ、じゃあ、僕は?」
フータが聞く。
こうなったら皆で落ち込もうぜ!
「フータ、お前は多分、倍化の術だと思う」
そう、ナルトのチョウジが使う忍術だ。
「ま、まさか……。ば、倍化の術!」
フータの言葉と共に、フータの体が大きくなった。
フータも倍にはなってない。
ほんのちょっと大きくなっただけだ。
これで決定した。
これが俺達のオリジナル魔法だ。
……
アイツは絶対泣かす!!
すると、そんな俺達を煽る様に「パンパカパーン」と気の抜ける音が鳴り響いた。
まさか、アイツか?!
そして突然、俺達の前に一冊の本が現れた。
百科事典くらいの重そうな本で、表紙は黒い。
「何や、これ?」
「と、取り扱い説明書って書いてあるよね?」
「ま、想像はつくが、こうなったら読んでみようぜ」
眺めていても仕方無い。
俺達は取説を開いた。
ゴリラの指だがこの頃は随分と器用になっていたので、少し苦労しただけで本をめくれた。
『オリジナル魔法の使用おめでとう!』
表紙をめくった途端、憎たらしいアイツの声が本から流れてきた。
ドラゴンボール、金色のガッシュ、ナルトの中の技名を使わせて頂きました。
二度は使わないので、ご了承願います。