転生一代目ウホッな日々
文明を発展させて欲しいとか言ってたし、当然人間に転生すると思うじゃん?
剣と魔法とドラゴンとか言ってたし、異世界転生物のテンプレ通り、中世ヨーロッパくらいの時代に転生すると思うじゃん?
誰が予想するよ?
ゴリラに転生するなんてさ。
何ていうか、俺だって実はワクワクしてたんだぜ?
テルとフータの手前、クールぶっちゃいたが、剣と魔法とドラゴンとか、ファンタジー世界に転生キターーって感じでさ。
楽しんでこいとか言われりゃさ、やっぱ期待しちゃうじゃん?
チートは貰えないにしても、テルとフータもいるし、どんな冒険が待ってんだってさ。
そうだよ、俺だってそんな年頃なんだよ悪いかよぉぉぉ!
しかも、異世界に転生する初めての回だぜ?
神だって力が入ってるはずだろ?
誰だって気合を入れて転生先を選ぶよな?
何事も初めが肝心だしよ。
じゃねーとやる気を失っちまうよな?
俺って間違ってないよな?
な?
それが何だよ。
ゴリラだよ。
所謂マウンテンゴリラってやつだよ。
全身真っ黒の毛まみれだよ。
両手をついてのナックルウォークだよ。
前世の記憶を思い出したと思ったら、目の前には子供のゴリラが二匹だったよ。
再会の喜びを分かち合う間もねーよ。
初めは状況を理解できなかったよ。
記憶を思い出したから転生したんだなってわかって、なら二人はどこだってキョロキョロと探しちまったよ。
転生してんだから前の姿じゃねーだろとは思ったけど、目の前にはどう見てもゴリラしかいねーし、あれ?ってなったよ。
もしかして俺もかと、自分の手を見ちまったよ。
そしたら真っ黒の毛に覆われた、ゴリラの手だったよ。
三人共にゴリラだったよ。
何でゴリラなんですかねぇぇぇ?
人ですらないって、どういう事ですかねぇぇぇ?
転生したらドラゴンでしたって、人外転生物のラノベは多いけど、あれって大抵偶然じゃん?
なんでわざわざ神様が異世界に送ってくれたのに、転生先がゴリラってどういう事ですかねぇぇぇ?
ああ、そうか、これって嫌がらせか。
入念に転生先を選んだんだろうな。
選びに選んでゴリラに転生させてくれたんだろうな。
何やってくれとるんじゃあぁぁぁぁ!!
持ち上げといて落とす、期待させておいて裏切る。
初対面での直感って正しかったりするよな。
やっぱあの神はクソだったわけだ。
何だかんだで期待してた俺達のことを、わかっててやりやがったな!
今頃、あの敷きっ放しの布団の中で、テレビを指差しながら枕を抱えて笑ってんだろう!
その様子がはっきりと目に浮かんでくるぞ!
殺すぞ、ボケが!!
「ウホッ(クソ)!」
悪態もつけねーよ。
仕方ねーよな、ゴリラだもんよ。
あ、でも三人でなら会話できんのか?
「ウホッ!(よう!)」
「オホ……(やっぱタカかいな……)」
「ゴ、ゴホ?(ひ、久しぶり?)」
よし、普通に会話できるぞ。
ゴリラ語がすげーのか?
聞こえてくる音はウホウホだが、何故か意味はわかる。
これがアイツの言ってた事かよ。
「夢とかじゃあなかったんだな」
「現実がゴリラって何やねん?!」
「せ、折角の、初めての転生なのに……」
フータが落ち込む。
俺だって落ち込んでるんだぜ?
「折角、だからなんじゃねーの?」
「ど、どういう事?」
「折角だからゴリラなんだろーよ」
「せやな。なめとんな」
「か、神様なのに……」
「神故にじゃねーの?」
俺達は腹立ち紛れに直ぐ傍の木を登った。
登れるのかを疑問に思う事なく、体が勝手に動く感じだ。
あっという間も無く、頂上へと出る。
流石ゴリラなのか、これが加護の力なのか……
「で、そのゴリラだが、どう思う?」
「どないもこないも、ゴリラやん」
「ご、ゴリラで、に、人間の文明を進めるってこと?」
「いや、それは今はおいといて、今後の方向性っていうかさ」
そう、ゴリラにされちまったことは今更変えられないだろう。
絶対にあのボケの悪巧みだろうが、生まれちまったからには生きていかねーとな。
今後も輪廻転生するのかもしれねーが、簡単に死にたくは無いしな。
痛いのはやっぱり御免だ。
今となっては、あのボケの言った、人間の文明のことなんて知ったことではないだろ?
第一、ゴリラに何が出来んだよ?
ていうか、何であんな奴の言う事を守る必要があるんだよ?
ここまでされて、今更アイツの希望なんて聞く訳ねーよな?
こうなる事も、アイツはわかっててやったんだよな?
そもそも、アイツが言ったことがどれだけ守られているかもわかんねーじゃねーかよ。
ていうか、悪魔なんじゃねーの、実は。
神も悪魔も人間には如何ともしがたいのは変わらないしな。
ああ、認める。
ここは異世界であって地球じゃない。
奴の言ってたことは正しい。
実はアフリカの熱帯雨林で、ゴリラに輪廻しただけとかも考えられるが、地球の空に月は二つも浮かんでねえもんな。
巨木の上から天を仰げば、青と赤に輝く、二つのお月様らしき星が浮かんでやがった。
こんなとこだけテンプレかよぉぉぉ!
だったらテンプレ通り、貴族の子供でいいじゃねーかよぉぉぉ!
生まれながらに魔力が多くて、魔法学校では天才扱いで、現代知識で無双して、キャッキャウフフなハーレム築いて、魔王っぽい敵と戦って圧勝して、やれやれ目立ちたくはないんだがなをして、幸せな人生を送るでいいじゃねーかよぉぉぉ!
ああ、そうだ。
奴の言ってた事は正しい。
三人が揃ったから記憶を思い出した。
それは本当だ。
それまでは普通にウホウホしてた。
おぼろげながらもその記憶はある。
二人に出会った瞬間に、それまでのことは過去になった。
三人だと会話もできたし、同じ時期に同じ場所で、同じ種族に生まれることができた。
といっても人間ではなくゴリラだがな。
あれ?
あの神って嘘は言ってなくね?
ゴリラに転生させられたのはアレだが、騙されたわけではないのかもしれない。
必ず人間に生まれるとは言ってない、ってやつか?
伝えるべき情報の秘匿という事か?
嘘は言ってないが、正確ではなかっただけと。
こちらの勘違いなのか?
いや、こう思うことも含めてあのボケの手だろう。
アイツの眩いばかりの笑顔はそうに違いない。
「どうする?」
「どうするって、ゴリラやん?」
「た、確かに」
いや、フータ、何が確かになんだ?
「ゴリラしてるしかねーか」
「他に思いつかへん」
「に、人間を探しに良く、とか?」
フータは律儀だな。
「止めよーぜ、アイツの言う事なんざ聞くことねーよ」
「賛成や。気にすることあらへん」
「だ、だね。ゴリラに何が出来るか、わかんないし」
やはりフータはフータだ。
こんな状態でも相手の思いを尊重しようとしてる。
出来る出来ないではなくて、やる気にならないなんだがな、俺は。
「ま、話によれば先は長そうだし、そもそも人間を見たこともないしな」
「次のイベントが起こるまでは様子見っちゅうわけやな」
「そ、そうだね」
とりあえずの指針を決め、悩むことは止めた。
前世の記憶を思い出してからのゴリラ生活は、なかなかに刺激があった。
ゲームやネット、残された家族や日本の食べ物のことを思うこともあったが、ゴリラの頭と体には前世の記憶が余り刺激されないのか、思い出して辛いということはなかった。
というか、何故か親の顔を思い出す事が出来ない。
親とのやり取りといった漠然とした記憶はあるのだが、肝心な顔がぼんやりとして曖昧な感じだ。
どういう事だ?
アイツが記憶を操作してる、のか?
親の事を思い出せば転生を後悔するから?
……まあいい。
今の所はそういう事にしておこう。
食って、寝て、遊ぶ。
この繰り返しではあるものの、飽きるようなこともない。
三人だったから、かもしれないな。
この世界が豊かなのかは知らないが、果物は大抵うまかったし、種類も量も豊富にあったため、ひもじい思いをすることもない。
ゴリラという巨躯、といっても俺達はまだ子供のゴリラだが、その膂力を生かせば、人間だった時では考えられない動きも可能だ。
木々が生い茂る森の中では高さを味方に付けることも出来る。
立体駆動というのだろうか?
例の巨人漫画が頭に浮かぶ。
どうしてこんな事だけは思い出せるのか不思議だが……
前世では三人ともに運動が得意な方ではなかったが、ゴリラだからか異世界だからか加護のお陰か、前世では想像もできない運動性能だ。
一瞬で木に登ったり、小柄なサルの様にはいかないが、枝から枝に木々を飛び移ったり。
もちろん、ターザンの様にツルで木々を渡り歩いたぜ?
傍目には「ウホホー」としか聞き取れないだろうがな。
俺達は時間を忘れて毎日遊んだ。
しかも、俺達には加護もあったので、三人が揃っていれば体力、運動能力、防御力等がアップしている。
比較の為バラバラで行動して試してみたし、その影響範囲を調べたりもした。
その結果、加護の力は働いている事がわかった。
一人では普通より少し力が強い子供のゴリラだが、二人揃ってはそれなりに、三人なら大幅に、である。
従って、余程の事でもない限り怪我もしない。
俺達の遊びは、次第にゴリラの遊びという範疇には収まらなくなっていた。