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祠の守護者スバル

「・・・・・・お前はアカツキ様の祠に何しに来たです?」

 狼、もとい、スバルと呼ばれた少女が俺を見下ろしたまま訊ねてきた。その声はコロコロと、見た目よりも高い。

「お、俺は連れてこられただけで・・・・・・。え? アカツキ様?」

「スバルはアカツキ様の祠を守護する者です。・・・・・・お前は悪さをしに来たわけではないのですね?」

「ない、ないです!」

 このシチュエーションに混乱しつつ答えると、彼女はふむ、とそれを請け合って、俺に向かってのしかかっていた体を起こした。

「じゃあスバルが悪者のあいつを殺そうとしても、お前は邪魔しないですね?」

 その視線がウェルラントの方に向けられる。

 それに大きくため息を吐いた男は、やれやれといった様子で剣を腰から引き抜いた。


「何度も言うがスバル、私とお前の目的は祠の開放で、ほぼ一緒だと思うんだが」

「嘘をつくなです! アカツキ様の祠を荒らそうとする不届き者! スバルが成敗するです!」

 スバルが俺の上から退いて、ウェルラントの正面に対峙する。

「全く、話が通じないから面倒臭いんだこいつは・・・・・・。おい、ターロイ、巻き込むと危ないから少し離れていろ」

「おい、ターロイとかいうの、あとでこいつの死体回収するの忘れるなです」


 え、ちょっとこれから戦うの!?

 俺があたふたしている間に少女が再び狼に変化する。ウェルラントが両手で剣を構え、途端にその刀身がふわりとほのかな光を帯びた。

 なんだ、あの武器。

 それを見たスバルが少し警戒したようだった。

 ていうか、そもそもあの子も何者なんだ。

 いろいろ頭が混乱している。けれどとりあえず、今は二人から離れるのが最優先。

 俺は慌てて距離を取り、木陰に隠れるしかなかった。







 しかし、すぐに戦火は離れたところに避難していた俺の近くまでやってきた。二人の破壊力がすごいのだ。おまえら終い屋か。

 ブロードソードと獣の爪牙の一対一の戦いだというのに、大木が何本もなぎ倒されていく。なるほど、森のあちこちにあった倒木は以前の二人の戦いの跡だったわけだ。


 スバルがウェルラントに飛びかかり、それを彼が剣の刀身で受けるたびに、見えない爆発が起きたような衝撃波が来る。周囲をなぎ払う狼の咆哮が地面を伝って、俺の内臓をビリビリと下から震わした。

 俺はそれに追い立てられるように二人とさらに距離を取るべく走る。


 今はまだ牽制しあっているのか互いに無傷だが、この先流血は避けられないだろう。それを見て卒倒したら、そのまま倒された大木の下敷きになって死ぬかもしれない。

 ああ今さらだが、ウェルラントに俺が血にすこぶる弱いことを告げておくんだった。そしたら戦闘を回避する選択もあったかもしれないのに。


 後方でウェルラントが何か妙な言葉を唱える声が聞こえ、次の瞬間轟音と共に空気と大地が振動した。キャウン、と狼の悲鳴がする。

 双方とも攻撃の威力は半端ないが、男の方が一枚上手のようだ。刃が絶え間なく草木や空をなぐ音に手加減がない。何度か戦っているのに彼女が生きているところを見ると、殺すつもりはないのだろうけれど。


 俺は彼らを中心に放射状に倒れていく木々を避けて、仕方なく再び岩戸のある草原に出た。ここなら少なくとも木に潰されて死ぬのだけは避けられる。

 あとは血を見ずにすめばいいのだが、刃物と爪牙の戦いではその望みは薄そうだった。

 とりあえず今できることは、卒倒回避のために後ろを振り返らずにいることくらいか。


 そうして前だけ見つつ森から少し離れると、すぐにさっきの方陣が視界に入った。

 またぞわぞわと鳥肌が立つが、背に腹は替えられない。俺はそこを慎重に視界から外しつつ、耐えられる範囲で岩戸との距離を詰めた。


 そう言えばスバルはこれを『アカツキ様の祠』と言っていたが、あれは本当だろうか。

 アカツキと言えば、グランルークと同じ旧時代の・・・・・・。


 先ほどの少女の言葉を思い出し、つい思考を後方の戦いから前方の方陣へ移していたら、不意にウェルラントに声を掛けられた。

「ターロイ、避けろ!」

「へっ?」

 戦火がいつの間にか近くまで及んでいたらしい。言葉が脳に届く前に一瞬で巻き込まれ、振り返る間もなく何かが背中に当たって、一緒に吹き飛ばされた。俺の耳のすぐ後ろで「キャン!」と狼の声がする。

「うがっ!」

 しばしの浮遊の後、正面から目の前の岩肌に叩き付けられた。咄嗟に両腕で顔面は守ったけれど、これは痛い。衝撃で目の前に火花が飛び散った。


「いってぇ~!」

 あまりの激痛に自分で自分の体を抱きしめて、うずくまって身もだえる。背後でスバルも身動いだ気配がした。彼女は俺がクッションになったおかげで、いくらかダメージが減ったのだろう。すぐにグルル、とうなり声を上げた。


「大丈夫か、ターロイ。・・・・・・っ!? これは・・・・・・」

 俺の様子を見に駆け寄ってきたウェルラントが、スバルを警戒して少し離れたところから声だけ掛ける。しかし、すぐに俺から意識を逸らしたようだった。

 そして何故か狼のうなり声も止み、その場から殺気が消える。

 何があったのだろう。

 俺は痛みをこらえて顔を上げた。


 すると目の前には先ほどのアカツキの祠の入り口があって、・・・・・・何故か魂方陣が白く淡く光っていた。

 未だそこに破壊点は見えないけれど。

 俺の中の誰かが、これは『俺』が解放を一段階進めたのだとこっそり告げた。


「これは、このニンゲンの仕業? ・・・・・・お前、何者です?」

 俺が何者か? 訊かれた言葉にびくりと肩が揺れてしまった。

「な、何者もなにも・・・・・・」

 俺には関係ない、と突っぱねようと振り返る。

 するといつの間にか狼から人型に姿を変えたスバルが俺を見ていた。


 途端に目に入った赤に絶句する。しまった、見るんじゃなかったと思ってももう遅い。

 そこには額から腕から足から血を流すスバルと、さらにその後ろに肩口から腕の先まで血まみれのウェルラントがいた。


 すうっと頭から血の気が引いていく。

 こんな量の血を見たのはあれ以来だ。・・・・・・ん? あれって、何だっけ・・・・・・。


 次の瞬間、俺の意識はふつりと途切れたのだった。


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