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RING!  作者: tamikoo
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焼き鳥でも食べませんか?

 気がつくと、知らないところにいた。


 あまりにも突然すぎる展開に、ついていけない。

 なんでここ最近はこんなことばっかりなんだか…

 俺の記憶が正しければ、さっきまで殺されそうになっていたのに…

 それで、ここはどこだ?

 天国か、地獄か、それとも別の場所か…

 俺には、こんなによくわからない場所が地球上にあるなんて想像できなかった。

 なんてったって今分かることといえば、俺はなにかサクサクしたものの上に立っている状態だっていうこと、辺り一面真っ暗だっていうこと、やたらと広い洞窟のような場所にいるってことぐらいだ。

 出口がどこにあるのか、ここまで情報がないと、推理もできない。

 …走り続けたり、戦ったり、何してんだろう俺。


 カァッ…カァーカァーカァーカァカァー


 突然、鳥の鳴き声が鼓膜を突き破るくらい、大音量で響き渡った。

 どんな鳥だろう…と一瞬も悩まずに答えをだせてしまう聞き覚えのあるもので、きっとみんな小さい頃から、こいつと言えばこういう声が出るって知っているはずだ。

 でも、なんでこんなところに?

 実際、俺自身ここがどこなのか分かっていないのにこんなこと言うのはどうかと思うが。

 俺はいったいどこに行けばいいのか…こんなのは小学生が大学入試問題解くようなもんだぞ。

 それより、今の鳴き声が聞こえた方向だ。

 ヒントが何も無い以上、鳥の手でも借りたい。

 …鳥に手なんてないな。


 コッチ…キテ…ヨオ…


 またまた突然、今度は気味の悪い人間の声がどこか遠くから聞こえてきた。

 壊れたマイクのようにノイズが入った低い声だ。

 俺はよそ見もせずに勢いよく…って勢い強すぎた…

 仕切り直して、俺はよそ見もせずに勢いよく声が聞こえた方向を見た。

 その方角には、周りの黒さより、圧倒的に黒い場所があった。

 色の違いがはっきりとしているため、黒い絵の具で塗りつぶされた扉があるみたいだ。

 そして、扉は俺を見下し、威圧し、拒絶し、こう告げている、『そこから1歩も進むな』と…


 もちろん、扉がそんなことするはずがない。

 でも、どうしてもそう感じてしまう、恐怖という名のいたずらは本当にタチが悪い。

 それでも、さっきまで殺されそうだったんだ、それに比べたらこれくらい、たいしたことないと思っている自分がいる。

 もしかしたら、もう既に死んでいたりして…

 まぁ、どうなるかわからないけど行こう。

 俺は、クッキーのようにサクサクしたものの上を歩いて、黒い扉へ向かっていった。


 サクッ…ザクッ…サクッ…サクッ…ザクッ…

 15分、いや20分ほど歩いた。

 今はさっきまで黒い扉と呼んでいたところの奥にいる。

 ここだけ黒く見えたのは、緩やかな下りの通路になっていて、先が見えないほど奥行があり、僅かな光も届かないからだろう。

 現に、俺の眼球はもう使い物になっていない。

 洞窟の壁を伝って歩かなければ、前に進めない。

 ここまで罠みたいなものはなかったが、例のクッキーが細長い棒と丸っこいのの2種類あるため、少し足元が悪い。

 それにしても、この道はどこまで続いているんだ?

 土でできたような冷たい壁は、まだまだ先が長そうだ。


 と思った次の瞬間、俺の体が一瞬ふわっと持ち上がる。

 どうしたことか、これ以上前に進めない。

 足元は良好すぎて、もはや何も無いというのに。

 ん?何も無い?


 慌てて下を見たが、そこには何も無く、だだ暗闇が大きな口を開けているだけだった。


「…冗談だろ?」


 俺の体は奈落の底へと向かっていた。

 下からぼうっと強い風が吹いてきて、首が縮んでいくように感じながら、投げられたダーツの矢のように真っ直ぐ進んでいく。

 手の甲が冷え、血液が頭に集合しているのがはっきりとわかった。

 今自分は落ちているのに、底の方から強い風が吹くたびに下から押し上げられているみたいだ。

 まるで、足は下から持ち上げられているのに、髪の毛は上から引っ張られているような感覚だ。


 そして、そんなことを思っていたら、なにやらサクサクした山にズボッとささってしまった。

 クッキーの細かいカスが制服の隙間から侵入してきて、背中がくすぐったい。

 俺が立ち上がったとともにクッキーのカスはズボンや下着を経由して足元へと滝のように流れていく。

 その場でジャンプを何回かして、滝の流れが止まるのを待ち、先程まで俺がいたはずの頭上を見上げる。

 そこには某ドーム球場一個分ありそうな大きな穴があり、ここから俺は落ちたのか、と簡単に予想ができた。

 そしてここで俺はあることに気がついた。

 ここから真正面にある通路の奥から、光が漏れていたのだ。

 行くしかない。


 そう思った矢先、光のほうから黒い塊がすーっと、糸で引っ張られているかのような動きでこちらへ向かってきた。

 ドゴッ

 黒い塊は勢いそのままに俺の胸元へとぶつかってきた。

 さらに今度は地面に引っ張られているかのように真っ逆さまに落ちた。

 …いや、なにしてんだよ。

「オイオマエ、タスケロヨ!」

 うわぁ、なんかこいつ喋った、とかベタな態度をとるほど俺はできた人間じゃない。

 そんなことよりも、こいつには聞かなければならないことが多すぎるため、ベタな態度をとっている暇もないのだ。

「お前がさっきのカラスか?」

 こいつはこの洞窟の入口のあたりで俺を呼んでいたやつに似たノイズの入った声をしている、高さは違うけどな。

 だからこそ、俺は何かを知っていると心のどこかで確信していた。

「ソノマエニタスケロヨ!」

「…そういう茶番はいらないから。」

 だいたいお前、さっきまで飛んでただろ。

 すると、カラスはとんでもなく高い声でこう言った。

「ちぇっ、せっかく笑いとりにいったのによ。あ、気づいたか?今のは俺様が『鳥』だから『とりに』って言ったんだぞ?」

 カラスは何やらもぞもぞと動きながら言った。

「いや、知らねぇよ。」

 うるさいのはどこかの美少年と一緒だな…ってそうだ。

「おいカラス、ここはどこなんだ?」

「ここか?地獄の端くれだぞ。」

 地獄、そう聞いた途端どうしても気になってしまったことがある。


「…俺は…死んだのか?」


 ゴクリ、と唾を飲んだ。

 その瞬間だけで、窒息してしまいそうなほど空気が重苦しい。

 さっきまでベラベラと喋っていたくせに、こんな大事な質問に対して何も言わずに黙っているのが煩わしい。

 何か口に出してしまったら、もう真実は闇の中へ溶け込んでしまうような気がして、冷や汗が出ていることにすら気づかなかった。


「…」


 相変わらず、カラスは何も言わない。

 そういうことか…そういうことなのか。


「…ZZZ」


 俺は黒い厄介な鳥のどこかを適当に掴んで下へ叩きつけた。

「いってえな、何すんだこの人間風情が!」

「てめぇ、この状況で寝るとはいい度胸してんな。」

「そんなこと言うなら、もう元の世界に戻してやらねー」

「すいませんごめんなさい人間風情が出すぎた真似を致しました。」

「わかればいいんだ、わかれば。」


「…お礼に今度焼き鳥でも食べませんか?」

「お前やっぱりわかってないだろ!」

 そりゃ理解するつもりなんてない、こんなタンパク質に、ごめんなさいを言っただけましだと思っていただきたい。

「それで、俺は死んでるのか?生きてるのか?」

「生きているといえば生きているし、死んでいるといえば死んでいる。」

 ほっとしていいのかわからず、余計に不安になってしまった俺の心を見抜いたのか、カラスはこう続けた。

「ここは地獄だから、お前には1回死んだことになってもらっただけだから、お前はちゃんと生きている、そういう意味で言ったんだ。」

「なんだ、そういうことか。」

 これで本当に一安心。

 それでも俺はさらに質問を投げかけた。

「お前はなんの用があって俺をここへ連れてきたんだ?」

「なんでって、お前が俺と契約しているからだよ。」

「は?なんの?」

 もうよくわからないことが多すぎる。

「左中来飛に言われただろ?お前が使用者だって。」

 そうそう、それってなんなんだ、と口に出すより前にカラスはくちばしで明かりのある方を指し、こう答えた。

 「その話は後でな。」


 鏡餅を上下逆さにしたような影が前をよちよち歩いていく。

 俺はそれをぼうっと眺めながら地面をしっかり踏みしめて進んでいた。

 しばらく歩いたところで、カラスはこう切り出した。

 「いつかは忘れちまったが、俺様はある人に頼まれたんだ。お前のことをよろしく頼むってな。」

 前を歩く影はこちらを向こうともしなかった。

 だから俺は、ただ、黙っていた、

 「よろしく頼むって言われても、俺様にはどうよろしくすればいいのか、わからなかったからよ、お前が死にかける寸前で助けてやろうと思っていたんだ。」

 俺は浅く頷いた。

 「そして、お前を助ける時が来た。そしてそれは、今のことじゃない。お前は覚えていないはずだが、俺様と昔、すでに会っていたんだ。」

 少し距離の開いた先導者の影が、僅かに揺らいだ。

 「つまり、お前がここに来るのは今回が二回目ってことだな。」

 俺は一瞬、立ち止まって顔を上げる。

 壁を沿って並ぶ炎の点は、視界の遠くの方で一本の線になっている。

 でも、たったひとつ、消えかけた炎がどうしようもなく、気になってしまった。


 「なぁ、カラス。」

 「なんだ?」

 いつの間にか、カラスの影は遠くの方で小さいが、濃いものになっていた。

 「俺はいったい、何者なんだ?」

 「何物でもない、所詮ただの人間だ。動ける細胞の集まり、だよ。」

 そんなのわかっている、つもりだった。

 足元で大きく揺らいだ自分の影が、走り出してどこかへ行ってしまいそうだ。

 「でもさ…」

 「答えが出た問題を何回も掘り返すのはバカのすることだ。それでも掘り返すなら、俺様に答える義務はない。」

 遠くから聞こえる声は、どこか懐かしいものに思えなくもなかった。


 「さぁ、もうそろそろだ。」

 カラスが立ち止まって、俺の方を見る。

 「いいかい?約束は守った。もう俺様はお前を助けられない。前回は不手際があったから許して欲しいが、本当に次はない。」

 「なんの、話だ?」

 話の流れに置いていかれた俺をよそに、偉そうな鳥は口を開いた。

 「大事なものはお前の右手に託された。これは、今ここで横たわっている先人達からの贈り物だ。」

 「右手?先人?贈り物?」

 ここでまた専門用語が飛び出してきて、もう理解が追いつかない。

 「あぁ、知らなかったのか?ここの地面にあるもの、全部先人達の骨を埋めて出来ているんだよ。入口の方はまだ整備していないんだけどね。」

 え…あのクッキーみたいなやつ、全部骨なのか…

 「まぁとにかく、もう時間が無いからここらでお別れだ。じゃあな凛。」

 最後にちょっとしたドッキリをしつつ、憎めないカラスは、昔を懐かしむおじいさんのような優しい口調で俺を見送った。


 闇が、光に飲み込まれた。






























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