第9話 我流と黒
―黒の騎士団本部―
「作戦の内容は把握できたか?」
低い声がホールに響き渡った。
「第弐騎士隊が今から偵察がてら、あの華蓮がいるタワーを破壊して来い。そして、目新しい能力を持ったものがいたら、そいつを生け捕りにして来い。あれを完成させるためだ」
そう言うと低い声の者は扉から出て行った。
周りにいた者も何も言わず解散した。
―雅也の寝床の場所―
「おはようございます」
明るい声が響き渡った。
その声はジンだ。
雅也は布団の中に包まっていた。
ジンは布団をひっくり返す。
雅也はベットから落ち、目を覚ました。
「うっう何だよ。まだ朝じゃないだろ・・・」
扉からジャロックと虹鈴も入ってきた。
「やる事はいっぱいあるんです。でも時間がないんです。だから朝早くからします。」
ジンは嬉しそうだった。
ジャロックはニヤニヤしているし、虹鈴は無表情だった。
「さっ着替えてください。ご飯は用意しときましたから」
ジンはテーブルにご飯を並べ始めたのだが、雅也は驚いた。ご飯の色といい、形といい、匂いといい最悪だ。これは・・・そうたとえるなら、紫色に輝くナメクジの色とおからの塊のような形と60歳くらいの親父の頭皮の匂いが混ざってしまったような感じだ。
「こ、これは・・・なんですか?」
ジンはにっこりするとこう言った。
「これは、サラダとトーストとハムエッグですよ。美味しそうでしょ」
ジンにはどんな世界が見えているのだろう?
雅也はそう思った。
その時ジャロックが隣に来てこっそりと言った。
「ジンは神だぜ。あれが旨いと思っている。多分この第二部隊で一番料理が下手だぜ。後全部食べるまで見てるぜあいつは」
本当に神だ、そして鬼だ。もうそうしかいえない。
雅也は思い切って一口目を口に入れた。
雅也は初めて死ぬかと思う味を味わった。
ジンはにっこり笑っている。
なんだこんだで雅也は食べ終わった。
「ごちそうさま・・・」
声のトーンはがっくり落ちていた。
「はい、よく食べました」
ジンはそういった。
ジャロックも馬鹿にするように、隣でこそっと言った。
雅也は着替え終わると、修行の説明が始まる。
「えーっとでは修行を始めますが、雅也さんは能力をだせますか?」
「この前この世界に来た人が出せると思いますか」
雅也はさっきの恨みをこめて嫌味を言う。
「そうですよね。まぁ出し方は人それぞれなんですよね。私の場合は、空気中にシャボン玉を出すような感じでやると能力を出す事ができました。ジャロックさんは?」
ジャロックはのどを鳴らすと
「俺の場合は、自分の気を糸のように出すような感じだな」
どれも、あやふやなものばかりだった。
「まぁ簡単に言えば我流ですよ」
ジンは笑って誤魔化した。
「頑張ってくださいねっと言いたいのですが、時間はあまりないので、実戦を交えてやらせてもらいます。なら最初は私がしましょう。この後はジャロックさん、虹鈴さんの順で行きましょう。『コンピューターシステム・オン』」
ジンの前にコンピューターシステムが現れた。
「今からちょっと実戦したいから場所を出してくれる?」
『かしこまりました』
さっきまでは、机と椅子とかしか無かった場所が、広々とした殺風景の場所になった。
「ありがとう。それでは準備はいいかしら?」
「ちょっと、待った」
雅也はそう言った。
「この実戦の意味は?」
ジンは髪の毛をなびかせると
「この実戦の意味は、まず一番最初に能力の解放です。能力が出せないと、この弱肉強食の世界では生きていけません。二番目に実戦の勘を身に着けてもらいます。それが今回の目的です」
「武器はないんですか?」
「武器はまず基礎を身につけてからです」
「わかりました。なら、早くやりましょう」
雅也の顔にはちょぴり笑みが凝れはじめていた。
そして、この後とんでもない事が起き始めた・・・