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クルスニードの章 彼氏と嘘をつく

「私の彼氏なんですが……探さないでください。という書き置きを残していなくなってしまったんです」


彼氏というのは嘘だが、後半は正直に話す。


「状況から察して振る勇気がないから失踪したんだね。そんな最低な男、探す必要はない。別れたほうがいい」


ギルさんはにっこりキッパリといった。いや、彼氏じゃないんだけどはじめから正直に言えばよかった。


「たしかに探す必要はないよ。―――ここにいるからね」


――――この声は。


「師匠!?」


あ、まずい。つい癖で呼んでしまった。


「あれー彼氏じゃなかったの?」


ギルさんはニヤニヤとしている。


「ギュール」

「はいはいすみませんでしたー」


二人は知り合いだったようだ。もしかして最初から私がクルスニードの弟子と知って近づいた?

つまりクルスニードは私の彼氏じゃないこと気づいていたのね。


―――超絶的に恥ずかしすぎる。



「……とにかく会えてよかった」


私はクルスニードに飛び付く。


「こんな街に一人でくるなんて危険だ」

「……だって私には頼れる人もいないし、この街が危険な場所なんてしらなかったわ」


ここにクルスニードがいて会えたのは奇跡だ。


「そうだね、ちゃんと言ってから出掛ければよかったんだ。ごめんよアネッタ」


クルスニードはこまったように眉を下げ、私の頭を撫でた。


「あのさ、俺がいること忘れないでくれる?」

「なんだまだいたのか、こうして彼女も見つかったのでもう戻って結構」


クルスニードは用済みと言わんばかりにギュールへ微笑んだ。


ギュールはため息をついて去っていった。


「というわけで師匠、帰りましょう?」

「いや、そうしたいのは山々なんだけどね。まだ用が終わっていないんだよ」


そういえばクルスニードがなんのためにこの街にきたのか聞いていなかった。


「どうしてあんな書き置きを?」

「朝早くに速達で手紙がきたから起こすのも忍びなくて」


城からの招待状のようだ。


「もしかして王様によばれて?」

「そうなんだ」


―――だけど数日たったのになぜクルスニードは城へいっていないのだろう。


「もしかして道にまよっていて城の場所がわからない?」

「……まあ、そういうことになるのかな」


クルスニードははずかしさから目をそらした。


「じゃあ城にいきましょう」

「だがアネッタを王に会わせたくないな」


クルスニードは城にいくのを渋っている。


「どうして?」

「王は独身で、その上好色の噂があってね。アネッタのように愛らしい少女を見たら放っておかない筈だ」


いきなり愛らしいと言われてなんだか気恥ずかしくなる。


「師匠ったら、私じゃなかったら勘違いをするわ」

「なにを?」


―――彼の場合は確信犯か天然なのかわからない。


「絶対に王と目を合わせてはいけないよ」

「わ、わかったわ」


目で落とすとかそういう感じかしら。


「ここがお城……」

「よく着けたね」


クルスニード感心している。


「いや、大きい城がいたるところから観えるじゃない」

「……城が見えていてもなぜか迷うんだよ」


昔から彼は方向音痴の気があると思っていたが、やはり本当に道を探すのが苦手らしい。


「遅い……」

「あ貴方は」


ゴロツキから助けてくれた彼だ。


「初めまして、しがない人形使いのクルスニードです」

「……ああよく参られたな、人形使い殿。」


彼は一体何者だろう。クルスニードをあまり歓迎しているようには見えない。


「その少女は?」

「私の恋人です」


―――いまクルスニードは私を恋人といった!?


訂正する前に城へ入って王の謁見があった。


「お前が噂の……」


王の血のように真っ赤な髪は天井までのびている。とても人間とは思えない恐ろしい雰囲気を持っていた。


「時間はたっぷりある。せいぜいくつろいでくれ」


二人は金髪の男に部屋へ案内される。


「あの、貴方は?」

「宰相・ゲルンガァだ」


普通は宰相がこんなことしないはずだけど何故誰も城にいないのかしら。


「ところで二人は知り合いなのかな?」

「なぜ?」

「顔をあわせたときそんな感じだったじゃないか」


私は彼に助けられたことをクルスニードに説明した。


「それはそれは、私の恋人の危機をを救ってくださってありがとうございます」


なんだかわざとらしいくらい恋人を強調している。


「ふん……」


馬鹿馬鹿しいと彼は去ってしまった。


「師匠どうして恋人なんて……」

「アネッタだってギュールにそう言っていたよ」


たしかに私はクルスニードを彼氏だと嘘を言った。だからといって彼まで私のように嘘をつく必要はないと思う。


「どうせ周りから見れば師と弟子より恋人だと思われるし、たまに偏見の眼差しで見る人もいるからね」


たしかに若い男女が一つ屋根の下なのは傍目で見れば如何わしい関係にしか見えないことだろう。


「恋人ってことにしておけば王も遠慮するだろう?」

「ええ……でも」


私が躊躇しているとクルスニードは心配そうにしている。


「師匠の恋人になる人に悪いわ」

「……アネッタに良い人が出来るまで当分それはないよ」


そう言って彼は息をついた。


「近くに人がいないときはともかく城にいる間はクルスニードと呼びなさい。いいねアネッタ」

「わかったわ」


「私は隣の部屋にいくわ」


いくら師弟でも同室はまずい。


「だけど彼は恋人だと勘違いしてくれているんだから、一緒の部屋にしたほうがいいんじゃないかな?」


たしかに恋人のフリをしている手前、部屋を分けたら不自然だ。

貴族ならともかく平民のカップルなら尚更。


「……それはさておきこの城、何か食べるものはないのかしら」


何も食べていないのでお腹がすいた。


「城だというのにおかしなほどに人がいないが、さっきの彼に聞こう」


ゲルンガァを探し、厨房で何か適当に作ることになった。


しかし厨房は長い間使われていないのかホコリで汚い。

材料を見るとパンはカビだらけ、冷蔵庫には腐った肉や魚。


「はあ……なんというか、この城は不自然なまでに人の住む場所ではないよ」


厨房を使わないでどう食事をするのか、王はもはや人間じゃないのではないかと震えた。


「お部屋……一緒の場所に戻りましょうね」


私は真顔でクルスニードの腕を掴む。


「おやおや仲がよろしいんですね」


緑髪の長身男が私達を見て下卑た笑いを浮かべた。


「おや、貴方はもしや人形使いピエロ=ドールさんですか?」

「ええ、世間ではそう呼ばれています」


ピエロ=ドールはたしか音楽家がいっていた要注意人物の一人。

つまりここには危険な人間が三人揃っている。

私はとんでもないところに来てしまった。だけどクルスニードがいるのだからきっと大丈夫。


「あの、厨房がびっくりするほど汚いのですが、皆さん食事はどうしてるんですか?」


私はなにより食事のことで頭がいっぱいなので彼へ率直にたずねた。


「ああ、城はごらんの通りなので、私や宰相殿は外食をしているんですよ」


店を案内されてついていくとなんだか別の意味でいかがわしいところだった。

さすが迷惑パレードをしているだけあって変わった人ね。


「料理が運ばれるまで時間があるようですし、せっかくですから人形について話しましょうか」


ここにいるのは指人形を扱うクルスニード、傀儡人形を使う彼に糸人形の私。

奇妙な縁で私達は皆人形使いなのだ。


「宰相も人形を使うんですが、残念ながらいませんねぇ」


彼がペラペラ捲し立てるので私達は黙る。

彼は情報になるし、このまま何故あの城に人がいないのか話してくれないものか。


「宰相殿はどんな人形を?」

「等身大の人のようなドールで、最近流行りの機械式だそうですよ」


機械式ということは自分で動く人形ということか。


「それはたしかマージン国の人形師がオートマトンのドールを作ったという?」


たしかマージン国は機械人間に支配されていると聞く。

人形は人間が操る道具なのに人間じゃないのに動く人形など怖い。

機械や人形が自ら動くなど人間と機械の差などないと言っているようではないか。


「昔まだ若く純粋な人形使いだった私はとある屋敷で人形劇を披露したのです」

「はあ」


まだまともだった頃が、彼にもあったのか―――


「そのお屋敷には可愛らしいお嬢様がいたんですが、あれからもう数年立派なレディになっていたことでしょう……」


過去形だからそのお嬢様は故人なのか、彼の話を追求する前に食事が運ばれてきた。


というかここは隣国のパレッティナ帝国のスパイシェ・エリアだ。

なぜ大王国の城下にはレストランがないのか、いや……あるのにあえて避けた?

やはり、大王やあの街は普通ではないということなのだろうか。


「あれは……」


店で食事を終えた私達は外に出る。見知った青年をみかけたのでかけよった。


「貴方は!」

「なんだお前か」


私が名を呼ぶと相変わらず眉をしかめ、腕を組みながらこちらをみている。


「探し人はみつかったのか?」

「ええ」


私はクルスニードのいるほうを見た。すると彼らがこちらへ歩いてくる。


「アネッタ、彼は?」

「音楽家さんよ。街に来たとき会ったの」

「ジェントだ」


ジェントは不機嫌なまま、彼と目を会わせようとしない。

もちろんクルスニードもにこにことしながら眼は笑っておらず。


「御話し中すみませんが~音楽家さんはハルメン事件をご存じですか?」


ピエロドールは同じ音楽家のジェントに事件をたずねるというより―――彼を犯人と疑っている。

むしろ疑っているなんてもんじゃなく確信していそうだ。


「噂程度でしか知らないな」


ジェントは動じることなくピエロドールの目を見て真摯に答えた。

彼が犯人だなんて私は信じられない。


「そうですか、ならしかたありませんね」


ピエロドールはにっこり、この様子では疑いは晴れていなさそうだ。

―――突然、後ろから抱き締められた。


「どっどうしたのクルスニード!?」

「恋人なのだから、このくらい動揺することはないよ?」


クルスニードは彼等に見せつけるように囁いた。


◆もしかして―――

→《ジェントに嫉妬》

《話を反らした》


私がジェントを見ていたから面白くなかったのかもしれない。

クルスニードはジェントと合わない性格なのかもしれないし。

なんて思っていると、ピエロドールが去っていく。


「やっといなくなったな。まあ助かった」


ジェントはその場を凌げて、クルスニードへ礼を言った。


「恋人とイチャつきたくなっただけですから、勘違いしないでください」

「師匠ジェントにはもう私達の関係バレてるの!」


この街に来たとき彼に師匠を知らないかとたずねたわけだし。


「……大の大人がちょっとの会話で嫉妬。そして往来で密着し困らせるとはな」


ジェントはトゲのある言葉で彼を詰る。


「私の目が黒い内はアネッタは渡さない」

「え!?」


ため息をついてジェントも去った。


「師匠、彼は別にそういうんじゃないの!」

「そうかな、職業はともかくお前に年も近くていいんじゃないかい?」


さっきまで敵意むき出しだったのに、急に持ち上げるなんて変なの。


「そろそろ帰ろう」

「ええ」


クルスニードは手を繋いだ。以前はあまり繋がなかったけど、これはきっと王やゲルンガァを謀るためだ。



◆◆


『どうして私を拾ってくれたの?』


幼い少女は青年に抱えられながら彼を見つめた。


『むかし君くらいの少年を拾ったことがあって、ほうってはおけなかったからさ』


青年は遠くを見つめ、昔を思い出すように語る。


『その人は?』

『去年一人立ちして、もう17歳くらいにはなるんじゃないかな』


少女は青年は若いのに、おかしな話だと思ったが気にしないことにした。


『元気にしているといいが……』

『ここが貴方のお家なの?』


少女がたずねると青年は笑顔でうなずいた。


『そう、これからは君と私の家だよ』


◆◆


「昨日はよく眠れたかいアネッタ」

「ええ」


クルスニードはこの様子だと一睡もしていないようだ。

たぶんこの城が油断ならない危険な場所だから。


「今度は私が起きているから少し仮眠をとって?」

「ならそうしようかな」


ゲルンガァが部屋を尋ねてくるとクルスニードは私の膝に頭をのせる。


「さっそく陛下に人形芝居を観せてもらおう」


彼はクルスニードの腑抜けた態度に眉を寄せ、鋭い目でこちらを見ていた。



「―――それでは始めさせて頂きます。珍妙、不可思議、有象無象、虚像虚栄の刹那を貴方へ」


クルスニードが台と人形を用意すると、閉じられていた傀儡王の目がカッと見開かれる。


彼の髪が生き物のように動き、そして部屋の壁一面から紅い糸が張り巡らされた。


「なっなに……!?」


私の足元に髪の毛が近づいてきた。

クルスニードがそれを立ち斬ると傀儡王が立ち上がった。


「貴様はただの……いや、人形使いですらないな」


傀儡王は血で真っ赤に濡れたように朱い糸を指に絡める。


「お戯れを、今は人形使いですよ」


クルスニードはブレードを振りかざし、糸を次々に斬り進んだ。

―――そういえばゲルンガァはどうしたのだろう。


「……ゲルンガァ!」


傀儡王が名を呼ぶとゲルンガァが現れた。


「はい」


そして彼はブレードで背中から貫いている。敵のクルスニード――――――――ではなく、傀儡の王を刺しているのだ。


起きていることに驚愕するアネッタの横で満足そうに微笑むクルスニード。


「お久しぶりですね、師匠」

「ああ、本当に強くなったものだ」


剣を抜かれ、傀儡王はその場に崩れ落ちた。

そしてゲルンガァはアネッタ、クルスニードの元へ。


「ちょっと待って、話が見えないわ」


ゲルンガァはクルスニードの弟子であること、それをアネッタは知らなかった。


「事情は後で話す」


ゲルンガァは誰もいない場ををにらむと、くうを斬る。


「……やれやれ、まだ私にも信頼という心があったのか」


虚ろな目をした上半身裸の薄茶髪の男が傀儡王を引きずりながら現れた。


「貴方の劇は終幕を迎えますゼルスタール=ジュグ大王」

「あれがジュプスの王ゼルスタール?」


見たところ貧弱そうな青年で、傀儡王より威厳が感じられない風貌だとアネッタは思う。


王はこちらを見ると、幻のごとく姿を消した。


クルスニードは17年前にヴァンパイアを狩るハンターをしていたことやゲルンガァをハンターとして育てていた事をアネッタに語る。

ゲルンガァが一人立ちし十年のこと彼の追っていた傀儡王こと吸血蜘蛛グリスがゼルスタールに成り代わったことを知り協力を要請されたのだ。


「傀儡王の糸が張り巡らされたこの街だから、奴に計画がバレることを考えて言わないほうが都合がよかったんだ」


クルスニードはアネッタの手をとり、すまなそうに言った。


「これからどうするんだい?」


クルスニードはゲルンガァに問う。


「奴を倒すために城にいたので、奴が逃げたなら追うしかないでしょう」


クルスニード、アネッタは乗り掛かった船だと思う。

そしてゲルンガァの旅に動向することになった。


「このあたりで小さな女の子と男の子をみかけませんでしたか!?」


街を出ようとした三人に、中年女性が焦ったように声をかけた。


格好からして貴族の屋敷の人だろうか。アネッタがそう考えていると「いいえ」クルスニードは淡々と答える。

どうやら子供が迷子になったようだ。ハルメン事件のこともあるし心配。


「では人形をもったドレスの少女と少年を見かけたらひきとどめていただけませんか!?」

「はい、わかりました」


女性が走り去るのを見て探すことにした。


―――私とクルスニードは行方しれずの子供を探すことにした。

ゲルンガァはグリスを逃がさぬようにヴァンパイアの聖地とされる村【スリープス】へ一足先に向かってグリスの情報を集め後から合流するそうだ。


「……どうしたんだいアネッタ」

「なんでもないの」


クルスニードはなぜ自分がヴァンパイアハンターだと隠していたのかしら。

城内で言えないのはわかるが、10年暮らしていて自分は人形使いである。としか教えられていなかった。

今頃にサラリと言われるくらいなら少しくらい自分がしていたことを事前に話してほしいと思う。


「怒っているのかな、これまで黙っていたこと……」

「ええ、まだ隠していることがあるなら話して」


クルスニードは息をついて、私に向き合った。


「元ヴァンパイアハンターってこと以外に隠していることはないよ」

「本当に?」


◆だが他に私がとてもきになるのは―――

→《クルスニードの恋愛事情》

《ゲルンガァの旅》


「師匠には恋人はいないの?」

「吸血鬼ハンターをやったり、ドール遊びをする男にまともな女性がよってくると思うかい?」


クルスニードは職業を隠せばとても女性から好かれそうだと思う。


「なら私はまともな女性ではないの?」

「そんなことはないが、アネッタが自分から私に着いてきたわけじゃないからね」


うまくごまかされた気がするがそういうものだろうと一旦納得する。


「子供たちが行きそうな場所を当たろう」


といわれても、このあたりは活気がない。


「ドールショップは?」


女の子は人形を持っているらしいからそれでピンときた。


私たちがドールショップへを探すと、寂れた一件の店があった。


「ダルグマス=マオネリ……」


クルスニードが店名を呟くとハッとした。


「知ってるの?」

「ああ、知り合いの人形師がいるんだが、その彼の師にあたる男の名だよ」


まさかこんなところで見かけるとは、とクルスニードが言った。

そういえば伝説の人形師がこの帝都にいるという話を聞いていたが、もしかして―――――


なにやら店の方から動く影があり、私たちは店に入ることにする。

――だが、やはり店内には誰もおらず。


「確かに人影を見た。どこかに隠れているに違いないよ」

「そうね」


私達はカウンターが怪しいと思ってサイドから挟み撃ちにしようとする。


「逃げろ~」

「……きゃ~!?」

「まって!」


予想の通り、二人の子供が逃げようとした。


「人形劇がみたくはないかい?」


クルスニードがドールを取り出すと、子供達は走るのをやめた。

そして夢中で劇を見て疲れて眠った。


「おやおや……さて、探そう」


カチャリなんだか変な音がしたけど、少女の人形が落ちた音だろう。

クルスニードは二人を背負う。子供とはいえ重いだろうに、彼は意外と力があるのね。

さっきの女性を探すと暫くして合流することができた。


「ありがとうございました!!」


中年女性と使用人の若い男性が二人を連れて帰る。


「よし、ゲルンガァのところへいこう」


村へつくと、意外にさっきの街より人が賑わっていた。


「きゃはは!!」

「もっと劇見せてよ!!兄ちゃん!」


けっこうな人だかりができていて、何事だろうと寄ってみる。

そこには緑髪をした男、というか知り合いがいた。


――――ついさっきまで忘れていたピエロ・ドールである。

傀儡王がやられたのにまったく現れなかった彼は、いったい何をするために城にいたのだろう。


人がはけていくと、ようやくこちらに気がついたのかピエロドールが手招く。


「なにをしてるの?」

「見ての通り、そこらでお金を貰う仕事ですよ」


いや見ればわかるが、子供から金をとるななどは自分に帰ってくるから言えないが―――


「私達はつい先程傀儡王と戦ったんだ」

「へえ……倒したんですか?」


ずいぶんあっさりとした反応をする。


「傀儡王は貴方の上司だけどいいの?」

「私は金で雇われていただけの旅芸人のような下っぱですしねぇ」


下っぱのわりにド派手なパレードの主役をやっていたが。


「傀儡王は死んでいないが、この村に逃げたようなんだ」

「……そうですか」


なぜピエロドールは都合よくこの村にいたのだろう。


「ここは吸血鬼が多くいると噂の村だけど、なぜきたの?」

「貴女が来ることを知って先回りしました」


私達は彼はまだ傀儡王の部下で私達を狙って先回りしたと考えていた。

おまけにピエロドールは私達の考えていた事をつく答えを言っている。


「……」

「これは嘘です。実はこの村は私の故郷で長らく留守にした家へ久々に帰ろうかと」


にわかには信じがたいような。


「そうなの?」

「これも嘘ですよ。本当は吸血鬼に会いに来たんです」

「それも嘘なんでしょう」


はい、と云うようにピエロドールは目をふせた。


「まずはゲルンガァを探さないと……」

「……誰かガイドはいないものか」


私とクルスニードは目的なく村を徘徊するのは無謀だと考えた。


「お困りのようですね」

「あ、ピエロドールさん」


道案内がいるのはある意味ラッキーかもしれない。


「どちらに行かれるんです?」


ピエロドールにとわれ、私はクルスニードのほうを見る。


「彼がいそうなのは宿とか?」


私がそういうと「ああ、間違いなく宿だろうね」同じく宿だと思っていたようで頷いた。


「……あの」


私は着いた場所に驚愕した。


「いらっしゃ~い」


右から美女、美女、二つ飛ばして美女がクルスニードを取り囲んだ。


「彼女たちはなんなのピエロドールさんをスルーしていったわ」

「はあ……綺麗なお姉さんがお酌をする大人のお店のようですね」


スルーされてかなりヘコんだらしい。―――というかこんなところにゲルンガァがいるわけないじゃない。この胡散臭い男を信用したのが間違いね。


「なにを騒いでいるんですか」

「ゲルンガァ!」


まさかこの店から出てくるなんて思わなかった。ゲルンガァも男なのだから仕方ないかとうなずく。


「英雄色を好むというからね」


クルスニードは美女をはべらせつつゲルンガァをからかう。


「誤解するな」


この店は昔ゲルンガァが世話になった人がオーナーをしているらしい。


「あのような男はほうっておいて、普通の店で食事でもどうですか?」

「……ええ、ご満悦のようだし」


外へ出ようとすると、クルスニードに腕をつかまれた。


「外出するなら私がいこう」


というわけで私はクルスニードと村を徘徊することになる。


「占い屋だってー」


若い村の女達はかしましく通りすぎた。


「入らないのかい?」


クルスニードは占ってもらう気があるようだ。


「お客さんカップルだね、恋愛運を占ってしんぜよう」


有無を言わさずカップル扱いされ、紫髪のまがまがしいオーラを放つ男が水晶玉で私を占った。


「前途多難だね。道がないこともない」


曖昧な反応だが、占いなど所詮こんなものだ。


「あの占い師さん、私たちをカップルだなんて……」

「気になっている男がいるのかい?」


クルスニードに問われ、私はびくりとした。


◆気になっている人

→〈いない〉

〈ギュール〉


「そんな人いないわ、なぜそんな事を聞くの?」

「私が過保護すぎるばかりに、アネッタがいつまでも独り身では申し訳ないから」


宿へ戻ると深夜になり、敵の根城を突き止めたゲルンガァと倒しにいくことになる。


「クルスニードさん、なぜ彼女まで危ない所へ連れていくんですか?」


ピエロドールがもっともらしい質問をしたので、言われてみればと私も疑問を抱く。


「彼女が傍にいれば私は強くなれるのさ」

「いい加減に解放してあげてくださいね」


クルスニードは返事をせず城へ向かった。


「調べによれば奴は城に眠る銀の剣で魂のある頭を貫けば死ぬらしい」


ゲルンガァは私に言った。


「なら銀の剣の在処は私達が探そう。ゲルンガァは来るべき時まで体力を温存するといい」


かつての弟子にそういった彼はまさに師という感じがした。


◆どこにいこう

→[城の奥]

[地下]


私達は城の奥を探してみることにした。


「これが銀の剣?」


短剣と長剣が祭壇に飾られていた。私達は無事にそれをゲルンガァに渡す。


「……祭壇の間に人が入れるはずがない……なぜそれをもっているのだ!?」


ヴァンパイアの弱点であるが故に扱いに困った吸血蜘蛛のグリス。

剣を人間にもヴァンパイアにも近づけない決結界をはったらしい。

どういうわけか、私達は問題なく持ってこられたわけだ。


そして彼は抵抗をやめたグリスを倒すことに成功。

王の死体(ネクロ)は今度こそ事切れ二つは灰となり消える。

ゲルンガァは月を見に行くと外へいき古城の広間、空の棺がただその場に鎮座している。


「なに?」


クルスニードが飾りの短剣をその場からとって私に持たせた。月あかりに照らされ、刃がひかる。


「さあ、その短剣で……ここを刺してごらん」


クルスニードは私の腕をつかみ、奥に眠る生命の紅玉を抉らせようとしている。


「やめて!」

「……(ゲルンガァ)が両親の仇を討ったら、私は死ぬ決意をしていたんだ」


「なぜ、どうしてなの!?」

「私はかつてこの棺に眠っていたヴァンパイアを倒した日に、呪いをかけられ年もとらず怪我もせず。病ですら死ねない身体となったんだ」


にわかには信じがたいはなしだが、私と会った日から十年、彼は姿が若いままだ。


「吸血蜘蛛は呪いをかけたヴァンパイアの血脈、奴の血のついた剣とマスタードールのアネッタ。お前に殺される日をずっと待っていた」


「落ち着いてクルスニード!」


腕を離そうとしても、正気ではない。


◆私はクルスニードを殺さないといけないの?

【殺す】

【そんなのいや】

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