共通Ⅱ-C ピエロ探し
この街の薄気味悪い雰囲気はどう考えても異常だ。
あの不愉快なパレードのせいで街の人が怯えている。
師匠を探すのは大事だけどどうしてそんな事をしているのか問い詰めにいこう。
「あ!」
年の頃は五つほどの子供がこちらを見ている。人形劇を見せてほしいのだろうか。
恐る恐る近づいてきたので、かわいい人形をとりだした。
「あのう……」
「どうしたの?」
「ぼくお人形のうごいてるのみたいの」
「ええ、お友だちも呼んでいいのよ」
そういうと少年がしゅんと落ち込んだ。
「みせたげたいけどねお友だちみんないなくなっちゃったの」
「……」
子供が減っているのはハルメンのせいね。事件がおきているのに王はなにをやっているのだろう。
―――人形劇が終わり、少年にピエロを知らないかたずねた。
すると彼は王様がピエロに命令して街の住民を恐がらせているんだといっていた。
それはだいたいわかっている情報なので振り出しにもどる。
考えてもしかたがないのでこれからどうしよう。
「アニキィ!!あいつです!!」
「おいそこの女ァ」
指をパキパキならす音がして、恐る恐る後ろをみた。
「……」
ついさっきのゴツい男よりさらにゴツイのがきた。
「ちょっと仲良くしようと声かけただけなのにおれ等のダチが世話になったらしいなァ」
「そうっすアイツ全治一ヶ月らしいッス」
「今は国の番人様もいねーようだなあ~うけけけ!」
お願い助けて私はピンチ、ドールよ巨大化して!……なんて願っても無駄ね。
やはり私も寂しい一人旅ではなくて仲間がほしかった。
隙をうかがって私は逃げようと思う。彼等の背後をじっと見つめる。
「どうしたよおれにみとれたかあ?」
「ないない鏡みろよアニキ……」
「あはは」
手をふり微笑みかけまるでそこに見えるはずのないものがいるようによそおう。
「なあこいつ見えてるんじゃねえのか」
「アニキこいつやべーやつだ!!」
「街の人に聞いたんですけどこのあたり、出るらしいですね」
予定の通り二人は怯えて去った。
また彼等と会ったらこの手は使えない。次は絶対会わないように、強い人を仲間にしつつ探そう。
そういえば親切な音楽家の彼は宰相や王に気を付けろ。といっていたが、
私は思いっきりその危険な男達に関わろうとしているような気がする。
ピエロのパレードをやめさせたいのは必然的に王に関係があるからだ。
「あ……」
私を助けてくれた金髪の男性が向こうにいる。
「お前は……」
駆け寄ると少しだけ驚かれた。
「貴方を探してたんです」
「なぜだ?」
詮索されるのが嫌だったのか、表情が険しいものになる。
「助けてもらったお礼がしたかったので」
「そういうことなら気にする必要はない」
彼の眉間からしわがとれる。とっさにお礼といってしまったが、私にできることなどほとんどない。
「あの、私は人形芝居をしているんですがよかったら観ていかれませんか?」
お礼は要らないと言われたが、ただこれを見せるだけなら物を買ってわたすより相手の気も楽だろう。
「……人形か」
「そういえば貴方の近くにいた少年は?」
「あいつのことなら気にするな。人形劇で喜ぶような奴じゃない」
「はい」
たしかにあの無機質な少年は何を観ても感動はしないだろう。
私はマリオネットとりだして劇を始めた。
●演目=地上のカメレオンと天空の小鳥
{はじめまして小鳥さん。僕の名前はカメレオン}
{はじめましてカメレオンさん}
{君はいつも空を飛んでいるけどどうしてなの?}
{羽があるからさ。君は飛ばないの?}
{羽がないからだよ}
空を飛べないカメレオンは翼をもつ鳥を羨ましいと思いました。
空を飛べる鳥はカメレオンに翼がないことを可哀想だといいました。
空は飛べるほうがいいことで、飛べないことでいいことなどなく。
だから鳥はとても幸せです。だけどカメレオンは空を飛べなくても地上で生きていけます。
だってカメレオンは一度も羽をひろげて飛んだことがないのですから―――
●
「あの、どうでしたか?」
「よくわからなかったが子供が好きそうな動物の絵本のようだった」
「そうですか……」
もっと大人に向けた話を考えればよかった。
「その演目は聞いたことがない。お前が作ったのか?」
「はい」
たまたま師匠がカメレオンを飼っていて、その近くに小鳥が飛んできたときに考えついたものだ。
「……はじめから飛べないカメレオンは飛べなくても別にいい。といいたかったのか?」
「そうなります」
あれは一日もかからず出来たもので、あまり深く考えてはいない。
「お前、城にこないか?」
「え!?」
王に近づきたかった私には願ってもないことだが、彼は何者だろう。
「貴方はいったい……騎士様ですか?」
「宰相ゲルンガァ……知っているだろう?」
目の前にいる彼が、王を操っていると噂の宰相なんて信じられない。
「ええ……」
「お前のそのマリオネットで、王を楽しませてほしい」
◆王を楽しませてほしいというが―――
【楽しませたいのは彼だけど城へいく】
【王を説得したいので城へいく】
【あの少年の心を癒してあげたいけど城へいく】
「わかりましたいきます!」
ピエロを探すまでもなく城にこられた。王さえなんとかすればパレードも終わることだろう。
「……人間をつれてくるなんて珍しいねゲルンガァ」
赤毛の若い男が玉座にひじをついて王冠をクルクルと指で回す。
「そうですね陛下」
男の長い髪が天上から数本つるされていて―――あれが傀儡王ゼルスタールだと確信した。
「君は私の壊れた心を癒せるかい?」
◆私に王を癒すことは―――
【きっとやりとげる】
【とにかくわかった】
【できないかもしれない】