共通Ⅱ-A 師匠探し
確認するまでもなく私はクルスニードを探すためにここに来たのだ。
他のことに構っている暇はないはず。
たぶんどこかの悪い組織、もしかしたらかつて私の家を襲撃した盗賊団が報復クルスニードを連れ去ったのかもしれない。
奴等は肌が褐色でおそらくアラビン人だから、きっと大きな盗賊組織のラム・ラマーの一味だ。
きっと今頃は奴等に拷問されてつらい思いをしているに違いない。
だけど盗賊団を倒すにはは仲間が必要だわ。私のようなただの小娘は一人では何もできないのだから。
「きゃーあの人かっこいい~」
突然あがった黄色い声、何事だと思って取り囲む女性達をおしのけ中心人物を見る。
「はいはい、おさないで。サインならいくらでもあげるからさ」
濃いピンク色の髪をした燕尾服の若い男。シルクハットにステッキを持っている。
もしかしてこれが流行りの手品師とかいう奴だろうか?
「さっすが売れっ子マジシャンはちげーなあ」
「どうせ顔だけ野郎だろ。女子供しか騙せねーんだから」
街の男達はやっかみながら通っていった。
「ん?」
男性は私を観ると、パチリと片眼を閉じた。なんてキザな男だろう。
やがて馬車も移動し、女性達がはける。私もそろそろ―――
「そっちは危ないよ」
「え?」
この声、さっきのマジシャンでは。そう思っていると後ろから目を塞がれる。
「俺の名前わかる?」
「わかりません」
さっきの彼だと核心したが、姿を知ったばかりで名は知らない。
「俺もまだまだってことか」
ようやく解放され、向き合う。あっちが危ないとはどういうことなのかたずねようとすると、路地の裏からビンや缶などが割れる音がした。
「すみませんすみません!!」
「返せねーなら借りんなってんだよ!!」
「一週間まってください!!」
「次はねーぞ!!」
借金とりと金を返さない男が口論になっていたようだ。
「さっきのどう思った?」
「なにをですか?」
「あれ、可哀想とは思わなかった?」
「思いません」
金貸しについてなら金銭を借りたほうが返さないほうが悪いだろう。一週間も待ってくれるなんて逆に優しいと思う。
ただ利子を倍にしたりする闇の高利貸なら話は別だ。
「けっこうシビアなんだね」
「私は困っている人間に優しくするタイプに見えますか?」
たしかに周りからすればピンクの髪をしている私の頭は軽そうな印象だろうけど、同じくピンク頭の男にそう思われていたら心外だ。
「君は可憐だからそう見える。人は外見の印象に理想を押し付けるからね」
「貴方はこのあたりにきて長いですか?」
「うん、二週間くらいにはなるかな。見る予定だった西洋のサーカスや中東の踊り子達、東方の田楽師達も来ていたらしいけど入れ違いだったし」
そんなに人の出入りが激しいなんて、さすがは大王国だ。
「まあ、次こそは観ようと思ってここに張ってたんだよ。だけど大王国なら金儲けにうってつけだと踏んでいたらごらんの有り様で……」
マジシャンは車輪に油をさした。あのパレードのことね。
「あれ、さっき反対に走った馬車がどうしてここにあるんですか?」
「実は彼女達を巻こうと思って二台用意していた馬車をね」
彼は別の馬車と入れ替わって御者に空走りさせ移動したフリをしたのか。
「あの、貴方の名前は」
「ギュールだよ。知っての通りマジシャンをやってる」
「ではギルさん。長い銀髪の男性を見かけませんでしたか?」
「それって君の彼氏?」
◆クルスニードは彼氏?
【彼氏と嘘をつく】
【違うと正直に話す】
【いいえ師匠】