傀儡王 終幕A-1 ゼルスタール
私は真実を知りたくてお城を探した。すると、手書きの日記を見つけた。
これが誰の手記かはわからない。とにかく手がかりになるものがあるかもしれないから開く。
「中を見させてもらうわね」
全ての文字を目で追うのは効率が悪く時間が惜しい。
流し読みで適当にパラパラとめくっていると、それらしい王の事が書かれていた。
「えー、城にきて20年、とうとうおれも50代~王様はいつ嫁さんもらうんだ?
王様は気難しそうだから大変だろうな。もうすぐ長期休暇で息子に……」
どうやらこの日記の持ち主は妻子持ちの使用人の年配男性みたいね。
……彼は息子さんに会えたのだろうか?
「まあとにかくゼルスタール王は気難しいのね……」
私のやるべきことは人形と物語を魅せることだ。
「そなたならば余の偽りの生を終わらせてくれよう?」
「はい、ゼルスタール陛下」
彼から剣を受け取って、目を閉じて心臓へと向けた。
「それでは聞いてください」
あるところに、孤独な大王様がおりました。
若くして大国の王となった彼は家来、名使い、民、お金、なんでも手に入ります。
しかし彼には唯一、手にできないものがありました。
それは誰でも一人は持つであろう気の置けない対等な友人です。
王は友人を募りましたが彼の友人になるというものは一人もいませんでした。
中心国を支配する多大な権力を持つ彼と対等な人間はいないからです。
王は普通ではないので、凡人のように寂しいなどと口にはしませんでした。
「寂しさなどあるはずがない……10年焦がれていたお前がここにいて……今、逝けるのだ」
「……おやすみなさい」
私の方へ倒れ込んだ彼をゆっくり玉座にのせる。目をつむって動かない。
きっとグリスに憑かれている時点で彼は死んでしまっていたのだろう。
◇◇
『どの貴族の娘も気に入らぬ』
『陛下……』
『……だが、この女は悪くないだろう』
王がめずらしく写真一つで気にいったのはピンク髪の少女。
『なんと珍しい……早急に知らせねば』
『……気の早い』
今のうちに結婚までこぎつけなければという使命感が働く。
『近頃は盗賊の話で持ち切りだな』
『なんでも地方の屋敷ばかりを狙っているようで』
『なんと……』
連絡を取ると、彼女の屋敷に盗賊のラマー集団が襲撃に入ったのだそうだ。
『あれから一週間が経つが?』
『あれ、でございますか?』
『ボケたか? あの写真の……』
はぐらかす為の方便だとばかり……まさか覚えているとは思わなかった。
『彼女は襲撃により亡くなられました』
◇◇
「私は最初、穏やかなほうを大王だと思っていたの」
「悪かったな好みの男でなくて」
「そんなこといってないでしょ?」
「彼の朝食、乾いたコッペパンでいいかな?」
手をパンパン叩いて機嫌が悪そうに師匠は笑顔で問う。
あれからどういうわけかゼルスタールは生き返った。以来まったく現れないグリスが命をくれたからなのだろうか?
そのあと私達は帝都をめぐり師匠と再会して国を出た。いまでは正式な廃城になっている。
「これが嫁いびりか」
それがどうしたことか、嘲笑うかのようにゼルスが鼻を鳴らした。
「どうしてうれしそうなの?」
「嫁じゃないだろう」
「つまり婿だな」
「ところで、10年というのはどういうこと?」
「……気にするな。結果的に丸く収まっただろう」
意味はよくわからないが、大したことではないようだ。気にはなるけど話してくれそうもない。
せっかくのスープが冷めてしまうし、それ以上の追及はしないことにした。
「さあ、食べましょう」
騒がしくも和やかな朝を迎えられて、それだけで十分すぎるほど幸せ。
【架空都市バロビニアの王】




