傀儡王 終幕C-1
〔問わない〕〔グリス〕
「化け物とは言い難いですが、優しい雰囲気の彼は王らしくないように感じます」
不本意ながらもグリスは堂々としていて、皇帝らしい振る舞いをしていることは認めざるを得ない。
「そうか、どちらが本物か……これで貫けば決まるだろう」
ゲルンガァは美しい白銀の刃を持った剣を握り、玉座の間へと向かった。
「それは……どうやって封印を解いたのかな」
「聞いてどうする」
切っ先を向けられてもゼルスタールは怯まずに、無としか言いようがない目でゲルンガァを見据える。
あんな冷たい顔表情ができるとは想像していなかったが、彼はただ優しいだけではないという事だろう。
「確かに聞いてもしかたがないね」
愚問だったなとゼルスタールは額を抑え、怒りを鎮めようとしている。
ゲルンガァがその隙を律儀に待つ筈もなく、彼に刃を振りかざした。
「貴様は余になんの恨みがあるというのだ」
グリスは杖で剣を受け止め、抵抗を試みている。
しかし、あっけなくも白銀は真紅の雫に彩られた。
「ぐ……あぁ……」
グリスが事切れたのか灰が散らばって床に溜まる。
これでゼルスタールの意識は呪縛から解放されるだろう。
「……なぜ私が生きているのだろう?」
彼は目を覚まして、起き上がると髪が短くなったことで肉体がグリスのものでないことに気がつく。
「これでようやくこの国に大王が戻ったな」
ゲルンガァは役目を全うできたと、安堵している様子で剣を納めた。
「残念ながら、私はゼルスタールではないよ」
「なんだと……?」
あの剣は吸血蜘蛛を倒すものの筈、なのに今ここにいる彼は大王ではないという。
「どうやら本物の彼は私の代わりに死を選んだ……いや、元から死んでいたけれど」
ゼルスタールをグリスだと思っていたので、ただただ驚くばかりの私。
ゲルンガァは仕留め損ねたと静かな怒りを見せて剣を握る。
今度こそ葬ろうと彼が再びそれを引き抜こうとするがびくともせず。
「何故だ……このままでは奴を倒せないではないか」
ゲルンガァは落胆しつつ、剣を私に預けて、どこかへと去っていった。
【怪物の生還】




