傀儡王 終幕C-2
〔わからない〕
「……」
このままでは埒があかない。彼に名を尋ねてみようかしら?
◆名前を問う?
〔問う〕
→〔問わない〕
彼自身でも制御できないのに、聞いてどうなるというの。
「お前はどちらが蜘蛛だというんだ?」
ゲルンガァは単なる興味本位で問いかけてきている。それでも私が大王だと思う相手はどちらなのかは決まっていた。
〔ゼルスタール〕
「グリスは化け物らしく豪胆……であればゼルスタール様こそ大王様だと私は思うのです」
優しいあの方を疑うことなどありえない。私は冷静に思いの丈を告げる。
「ほう……同意見だ」
私を除き咎める者は残っていなかったので、ゲルンガァはグリス討伐の大義名分を得たと標的の元へ向かう。
■■
「吸血蜘蛛グリス、貴様に喰われた者達……いや、我が一族の仇」
日の差さぬ玉座の間に白銀の刃が煌めく。剣が振りかざされ、彼は脆き杖で応戦する。
「ゲルンガァ……!」
「どうした……お得意の糸は使わないのか」
暗がりで互いの表情の機微は伺えないながら、男は怒りに任せて杖をゲルンガァの胸部へ叩きつけた。
「ぐぅ……!」
鍛錬を積んでいる彼は、常人であれば立つこともままならぬ衝撃に耐える。
再起不能の攻撃を与えた気で、油断しきっていた男の腹部に刃が突き刺さった。
「ぐああああああ!」
男が悶え苦しみながら倒れ込んだため、、見かねたアネッタは彼に駆け寄った。
「陛下!」
ゼルスタールか、グリスなのかと気を揉んでいると姿は赤い髪でなく、薄い茶の髪へ変化していった。
「う……」
「あれはグリスを葬ることのできる唯一の宝剣だ」
そう回復したゲルンガァがアネッタに告げたことで、彼がグリスではなくなったと判断できた。
「余は生きているのか……」
「え……?」
彼の雰囲気は想定していた相手のものではないので、アネッタは目を見開く。
「もしかして、グリスが生き残って……」
「……何を、余こそゼルスタールだ」
どう考えても本物の化け物よりそれらしかった。
アネッタとゲルンガァは口に出さないものの、事実を受け入れがたい。
そして食事を振舞ってくれた優しい彼が、もう存在しないことを、アネッタは一人悲しむのだった。
【大王の生還】




