傀儡王の章 王を説得したい
―城にいき王を喜ばせパレードをやめてもらえばきっと街の人も救われる。
そう思いゲルンガァについていくと、壊れた王の心を癒してほしいと言われた。
「きっとやりとげてみせます」
――彼が傷ついて鬱ぎ込んでいるからパレードも暗いのだ。彼を喜ばせれば、明るい城下になるだろう。
「陛下」
「なんだ?」
私がゲルンガァに視線をやると、私を人形使いだと紹介してくれた。
「そうか、ならもっと余の近くに来るといい」
言われた通りに近づいて、足元に跪く。すると彼はその長い髪を手を使わずに私の腕に絡めていく。
「い……」
痒みと痛みの間を綱渡りしている感覚が腕に続いた。
「陛下、そのように戯れては彼女が劇を始められません」
ゲルンガァがたしなめると、ようやく巻き付いた髪がほどける。
「今宵は芝居など観る気分ではない。他のことで我を楽しませろ」
王の雰囲気が先程とは一変し、豪胆で自信に溢れている。
「我に服従を誓うのであれば、貴様を生かしてやってもいいぞ」
「陛下に服従せぬ人間などおりません」
「それもそうか」
王は私の頬を指でなぞり反応を楽しむ。まるで物のように扱われ私だけが恥ずかしい感覚に耐えている。
彼には恥じらいが欠落している。誰か助けてくれないか、早く止めてくれないものか、そう考えながらじっと彼を見た。
「なぜ僕はこんなことを……!」
目が合うとおびえだして別人の用にはずかしがりだした。
「すまない。私はどうかしていたね」
「いいえ」
王様らしからぬ低姿勢の謝罪に違和感を覚えつつ解放に安堵する。
「お腹はすいていない?」
「ええと、昼食を頂いていないので空腹ではありますが……」
そういうと彼はどこかへ行き、しばらくして暖かい料理を運んで来られた。
「まさか、陛下が調理なさったのですか?」
「そうだね」
王が料理なんて有り得ない。ましてやそれを私のような平民に出すなんて!
「さあ、食べてくれ」
「陛下はお召し上がりになられないんでしょうか?」
一人分しかないようだ。もしかして昼は食べないタイプかしら?
「私は食べなくても平気なんだ。液体しか接種できない体質でね」
「そうだったのですか」
料理を口にしてみるとお世辞抜きにおいしくて、彼は食べられないなんてかわいそうだと思った。
「とてもおいしいです。ありがとうございます」
「よかった。今までだれも食べてくれないから、初めて言われたよ」
陛下は嬉しそうにしている。そこの宰相は命令したら食べるはずなのに、私が最初なんて意外だわ。
「ところで今日はどうして城へ?」
「ゲルンガァ宰相から陛下を楽しませるようにと命じられました」
正直に話すと彼の表情が曇る。どうしたのかしら、心配だわ。
「彼はともかく私は宰相のような考えの読めない人が苦手なんだ」
彼とは誰を指すのかわからないが、陛下はおびえている。
◆なんて声をかけようかしら?
→〔大丈夫です〕
〔私は味方です〕
「きっと大丈夫です。宰相は陛下のことをご心配なさってましたから」
「そうなのかい?」
半信半疑で“そうは思えない”とでも言いたげな顔だ。
「それに私は陛下の味方です。信じて頂けはしないでしょうけれど……」
「ありがとう可愛らしいお嬢さん」
陛下は感極まったのか私を抱き寄せて泣いている。どういうわけか、彼は鼓動の音がしていないのだ。
「ふ……」
「あの?」
この雰囲気は最初にあったほうの陛下ではないか、いくら心が壊れているといえ苦手なのよね。
そんな気持ちが伝わったのか、彼は黙って視線を送ってくる。
「お前、何か用があるのだろう」
「あの」
私がパレードについて話そうとすると、唇を指先で抑えられた。
「大方、パレードの苦情なのだろう」
「は、はい」
「ははは……!」
彼は怒りもせずにどういうわけか高笑いしだした。
「面白い女だ。名はなんという?」
「アネッタと申します」
名乗ると彼は目を見開いて、何やら考えだした。
「懐かしい名を聞いた」
◆どういうことか気になるわ
→〔黙っている〕
〔聞く〕
「目は口ほどにモノを言うというのは本当だな。知りたければ聞かせてやろう」
私が黙っていると、彼は部屋に私を入らせてベッドに座らせた。
「昔にな、妃候補の貴族の娘の中に同じ名の女がいただけだ」
「そうなのですか?」
遠い目で過去を思い出して、哀しげな表情を浮かべている。
「お前には余がどう見える?」
「どう、とは?」
彼は己の肩を掴んで、震えている。彼は……いいえ、二人の王は何を恐れているの。
「余は一人ではない」
「はい」
彼にも自覚があったのね。どうして彼は壊れてしまったのかしら。
「ああ、もう時間切れだ」
「あ……」
強引な王が引いて、穏やかなほうが現れたようだ。
「私はいったいどうして、君とベッドに座っているんだろう?」
真っ赤になり、私から距離をとる様子から、こちらは常識的なんだと理解する。
そしてもう片方が対照的に遠慮なく恥じらいもなく偉そうな人だ。
「私はあまりこういうことには縁がなくて……意識を向こうにとられて申しわけないね」
「いいえ」
なんだかこちらの陛下は身近で例えると師匠のようなタイプだわ。
「あの、君と彼はどんな話を?」
「パレードを開いているという話についてです」
そういうと、今思い出したように“ああ”という顔をしている。
「それについては私もわからないんだ」
「ではもう一人の?」
首をふって否定する。仮に王がやらせていても咎めるものはいない。
偽りを言う必要が彼にはないので、パレードの開催者は他にいることになる。
「陛下でさえも対処に苦しまれるなら、お手上げのようですね……」
「ごめん、不甲斐なくて」
それにしても、どちらが本来の陛下なのかしら。
「はあ……早く元にもどりたい」
それはもう一人を消したいのか、それとも自分が消えたいのか……彼をよく知らない私では判断はつかない。
ゲルンガァにどちらが過去の陛下なのか問いかけると、10年前に彼が来たとき既にああだった。
つまり正確には断言できないものの、吸血蜘蛛がグリスで大王がゼルスタールということだ。
「どちらが本物だろうと、私には関係ないがな」
ゲルンガァの冷たい視線で陛下のあの脅え様を納得した。
◆私はどちらが本物だと思うのかしら?
〔ゼルスタール〕
〔グリス〕
〔わからない〕
◆どちらが好きかしら?
〔グリス〕
〔ゼルスタール〕
〔どちらでも〕




