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ギュール 終幕C 待つ


「教えてくれるまで待つわ」

「そっか、じゃあ代わりに友人の物語でも聞いてよ」


ギュールは自分の過去を話さない代わりに他人の悲しい話をするという。


「友、名前を仮にディル彼には幼い頃から幼馴染、名をペトラトシェ。彼女は地主の娘でね」

「なんかどこかで聞いた話のような……」


犬が出てくる世界的名作のような気がするような……。


「二人は将来結婚するんじゃないかと村では囁かれてた」

「二人は引き裂かれてしまうの!?」


つい口を出してしまって慌てて覆う。


「二人が16になった頃、ペトラトシェが都会からやってきた市長の息子に見初められる」

「……」


――そんなの悲しすぎる!


「そして彼女は市長の息子と結婚して村を去った。おしまい」

「ええ!?ディルはどうなったの!?」


「さてね、今頃は村で畑仕事じゃないかな?」


友人なのに他人ごとのように投げやりな答え方。


「冷たいのね、友人の不幸に何も思わないの?」

「まあ一言でいえば幼馴染からペトラトシェを奪った市長の息子はクズって感じかな」


――市長の息子は所謂、物語のライバルのようなイヤミ金持ちなのかしら。


「ベタなドラマチックな話に盛り上がっていた君はどう思うの?」

「え!?」


◆いきなり聞かれても

〔地主の娘が最低〕

→〔市長の息子が最低?〕


「市長の息子がディルのペトラトシェに対する気持ちを知ってたのかによるわね」

「年の近い異性はディルだけだったらしいから、確信犯なのは明らかだよ」


――やはり金持ちに善人はいないイメージ通りらしい。


「わーどいて! どいて!」


後ろからローラーシューズを履いた子供二人がやってきているのでなんとか避けるが靴の片方が私の脚に軽く当たった。


「ふぎゃっ!」


男の子は尻餅をついた。


「だらしないわね兄さん」


女の子は少年の手をとって立たせる。


「君達、彼女に靴が飛んでいたよ。平民だからともかく、もしもお忍び貴族だったら危なかったね」

「うわ……ごめんなさい!」


少年は顔を上げて、涙目で靴を受けとる。


「……!」

「ギュールさん、どうしたの?」


彼は一瞬、思考が停止していた様子だった。


「いや、なんでもないよ」

「あれギュールさんってあの有名なマジシャンの!?」


少女はギュールのマジックを見たことがない様子。


「そうだよ、有名かは知らないけどね」


自信たっぷりに手から花を出すと、少女へプレゼントする。


「ところで二人はこの街の人?」

「ううん、今朝パパとママとで観光に来たんだよ」


なるほど、この街の住民は存在が薄いから子供がいきなり現れるのはおかしいと思ったのよね。


「パパとママは好き?」

「うん!」

「パパはおもちゃを買ってくれるしママはとってもキレイなんだ!」


子供らしい屈託のない微笑みだ。


◆ふと、気になった

→〔怪我は大丈夫?〕

〔観光について〕


「とても痛そうだったけど、大丈夫?」

「うん! ちょっと痛いけどもう平気だよ」


少年はうったところを撫でながら頷く。


「またね!」

「ええ、さよなら」


ギュールさんは二人を茫然としながら見ている。


「ギュールさん、いつか自分も可愛い子がほしいなあ……なんて考えていたの?」

「それは、まあ……誰しも両親がいて幸せな家庭を描きたいものだよね?」


もしかして彼は違う事で悩みがあるのかしら。


「そうね」

「きっと君は彼等のように優しい両親がいて、暖かい家庭だったんだろうね」


悪気はないのだろうけれど、理想の家庭を羨むように言った。


「よくそう思われるけど、私は両親の顔を知らないのよ」

「そうか、勝手なこと言ってごめん」


私達は会話が浮かばず気まずい空気になる。


「はあ……ようやく見つけた……」

「あら師匠」

「また道に迷ったんですか?」


私とギュールは師匠の方向オンチに呆れる。


「師匠……ギュールさんにまで方向オンチを知られているのね」

「もう会って10年くらいだからね」


――そんなに前なら今まで彼の話題が出たこともあったのかしら?


「あのね……迷惑かもしれないけど、私は師匠のこと父親みたいだと思ってるわ」

「いきなりどうしたんだい?」


クルスニードは心配そうに、私の言葉の意味を考え出す。


「とりあえずパパって呼んでもいいですか?」

「お前はダメだ。いや、アネッタも、私にこんな大きな子がいる年じゃないだろう見た目が!」


師匠は若作り、しかし――


「じゃあ、一度お兄ちゃんとか、お兄様って呼んでも?」

「兄さーん」

「アネッタはいいが……ギュール、お前はダメだ」



【君はいつまでも純粋でいて】

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