ゲルンガァの章 彼を楽しませたい
私が楽しませたいのはゲルンガァだけど、お城にいけば騒音パレード中止に近づく。
彼についていくと傀儡の王と対面する。王を楽しませられるかと問われるが、とにかくやってみよう。
―――師匠の行方はわからないし、人拐いのハルメンを捕まえることはできなくても、人を喜ばせることならきっと私にもできる。
ゲルンガァの様子をみると、彼は目を閉じてただその場に立っていた。
「……先程からゲルンガァばかりみているな」
「え?」
王は機械的に笑っている。自分が話そうとしているのに別の相手に興味を持ったから、きっと怒っている筈だ。
「宴は明日でいい」
王に命じられると、ゲルンガァは私を城の部屋へ案内した。
掃除をするはずの使用人や兵士の姿は見えないが、室内はとてもきれい。
「……」
「どうした」
―――お腹がすいたけど、いうのは恥ずかしい。
なんというかあの人間離れした雰囲気のある王が食事をする姿が想像できない。
だからこの城にまともな食べ物がなさそうというか、人間の血肉を食らうようなイメージがある。
人なのに食事をするのが想像できないなんておかしい話なのだが。
「あの、他にも演劇者たちが来ていたのにどうして私をこの城へ?」
「彼等ではだめだったから、ありとあらゆる者を城へ呼び寄せたのだ」
もしかして、師匠も呼ばれてこの城へ来ていないだろうか?
「ではクルスニードという銀髪のギニョール使いを知りませんか?」
「……奴がギニョール使い。それは聞いたことがないな」
私は彼が言っている事の意味がわからなくて、話を流した。
この城はどこもかしこも恐怖を煽る雰囲気がある。
空き部屋を宛がわれたが、とても眠れそうにない。
「おはようございます」
「ああ……昨夜は眠れなかったと見える」
「……陛下に捧ぐ物語を考えておりました」
「ふ……人形使いよ、褒美はなにがいい?」
「いえ、何も」
「欲のない娘だな……」
私は演目の支度に取りかかる。
「あ」
「どうした」
――願いはなんでもいいならば騒音パレードを止めてほしいと願えばよかった。
「おそれ多くも、陛下にお教え願いたいことがあるのですが……」
「もうしてみるがよい」
ゼルスタール王は機嫌よさそうにしている。
「陛下はパレードがお好きなのですね」
「……!」
私がそういうと、王ではなくゲルンガァのほうが大きく反応を示した。
「ふ……あれは配下が余の意向とは関係なくしたことだ」
「くだらぬことを……もうしわけありません!」
王を怒らせればただではすまない。
「気にすることはない。余の趣向を疑われるのは侵害だからな」
準備を再開し、あることに気がついた。
この城は閉ざされて、光が差し込まない。
よく壁を見ると蜘蛛糸がびっしり張りついている。
「よし……」
台座を組み立て終え、ドールを持ち、劇を開く支度が済んだので、さっそく始めよう。
息を吸うと玉座の間のドアが開いた。
「……何者カガ城ヲ襲撃シテイマス」
おそらくは城の臣下なのだろうが、彼が歩くと機械音がする。
それにどことなく人間とは違って感情の起伏が薄く淡々としている。
「飛んで火に入る夏の虫とはこのことか……」
王は襲撃者を鎮圧に向かうようで、当然この準備は無駄になった。
「陛下の援護へ行かれないんですか?」
「城を開けるわけにはいかないからな」
宰相ゲルンガァは言わば最後の砦なのだろう。
しかし彼には二度も浮浪者から救われたことで、頭脳というより武力派の印象がある。
◆手持ち無沙汰なのでどうしよう?
→〔劇を披露する〕
〔黙っている〕
〔臣下に声をかける〕
「……よかったら襲撃者が来るまで余興がてら劇をいたしましょうか?」
「ああ、見せてもらおう」
冗談のつもりで言ったのに、彼は意外と乗り気らしい。
「え、本気なんですか?」
「披露すると言ったのはお前なんだが」
たしかにそうなのだけど城を攻められているのに人形劇を観るのは変だと思う。
「てっきり戦の最中にふざけるなと言われるかと……」
「他の領地から多勢の進軍が来たならとっくに建物の崩壊やら民衆の騒ぎになっているはずだ」
そういわれてみると不気味なほどに静かだ。
「お前は戦が起きていると思っていたようだが、ここまで敵が来たらどうする気だったんだ」
◆ゲルンガァの質問になんてこたえよう?
→〔身を護る〕
〔背に隠れる〕
〔逃げる〕
「大した力はありませんが、敵兵に襲われたら自分の身は自分で護ります!」
「期待はしていないが、その意気込みは悪くない」
ゲルンガァの表情が少し柔らかくなった。
「……お前はもしも大事な存在を殺されたら、そいつをどうする?」
ゲルンガァは脈絡なくいきなり漠然とした問い掛けをした。
私にとって許せない相手は、屋敷を焼いて家族を殺した盗賊だろう。
◆私は盗賊をどうするのかしら?
〔罪は法に裁かせる〕
〔復讐したい〕
〔泣くだけ〕




