ジェント終幕A 信じるものは救われる
〔ジェントを信じる〕
「貴方がやってもらえないかしら?」
私はジェントに頼んでみる。
「失敗したらお前も死ぬんだぞ。会ったばかりの俺をアテにしていいのか?」
「そんなことを言ったら貴方も私のことも信用できないでしょ?」
ジェントはやれやれと、楽器を構え、すぐに城内には笛の音が響き渡る。
「く……なんだ、これは!」
王は耳を塞ぎながら力をなくして、その場に崩れ落ちる。
「これで満足したか傀儡王ゼルスタール。……いや、吸血蜘蛛グリス!」
王の後ろに現れたのは布をかぶった男。そしてその声には聞き覚えがある。
「師匠!?」
男はローブを取り去り、姿を露にした。
先程までクリュトラと相対していたゲルンガァは駆け寄る。
「さあ、今だ!」
師匠の合図とともに、ゲルンガァは赤毛の傀儡王の首を跳ねた。
「え!?」
どうして師匠がここにいるのか、なぜゲルンガァが王を殺したのか等ききたいことが多過ぎる。
●
「暫く会わない間に恋人がいるなんて」
師匠が私とジェントを交互に見ながらため息をついた。
「誤解よ!!」
「本当に?」
師匠が私の頭を撫でようと手を伸ばす。
「さて今日の演奏代、首謀者のアンタに払って貰おうか」
「首謀者?」
ジェントは私の気になっていた事をすぐに想像がついたらしく話してくれた。
師匠は人形使いになる前、実は吸血鬼ハンターのゲルンガァと同業クリュトラとも知り合いだった。
だから王に寄生した吸血蜘蛛グリスを討伐するべく今回の作戦を計画したらしい。
「ジェントは知っていたの?」
「いや、利用されてから気がついた」
「どうしてグリスは笛の音に苦しんだのかしら?」
「ジェントの持つ笛は特別で、よくヴェレーメン音楽隊とネズミ退治をしていたんだ」
つまりネズミだけでなく化け物にも効果があったのね。
「ちなみにジェントは超絶音痴で、その歌声は城を傾けるほどだから音楽の国シャープナーバから追い出されたんだ」
「おい嘘を教えるな!」
「ふふ……」
「なにがおかしい」
「友達の友達のわりに仲がいいじゃない」
「で、その友達についてなんだがジェント」
「なんだ?」
「あいつならこの村に来た時に会った。来月中女道化師と結婚するらしい」
「はああああ!?」
「ちなみにオレはもう結婚している」
「ええっ!?」
「初耳だぞ」
「というわけだからお前も早く嫁を見つけて幸せになれ」
「フン、馬鹿なことを……結婚は人生の墓穴だぞ」
「彼女はどうだ?」
「なんで私!?」
「……まだふざけたことを言う気か。さっさと吸血鬼でも狩りにいけ」
ジェントの血管が心配になる。
―――これから師匠と村へ帰るのだが、ジェントは私達に着いてきて村で稼ぐつもりらしい。
「ああ、そうだわ。ジェントの笛はやっぱり素敵だった」
「そうか」
ジェントは当然と言わんばかりに生返事だ。
「魔笛は無敵ってことね」
「ふ……」
「あ、ジェントが笑った」
「笑っていない」
【ハッピーエンド:初々しい恋?】




