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共通・序幕Ⅰ 謎の失踪


『ヒャッハー!』


強盗の襲撃、金品を奪われる。屋敷は燃やされ、壁から火は広がりゆく。子供の足では間に合わず。逃げ場を塞がれる。


私は持っていた人形を抱き締め、その場に座り込み、ただ火が消える時を待った。


意識をうしなって、目を開けたとき、全てがなくなっていた。

あるはずの焦げた屋敷や、人のナキガラもない。


『はじめまして、お嬢さん』


一人の美しい青年が、私に手を差しのべた。

もしかしたら、彼が私を助けてくれたのだろうか。


『君のお名前は?』

『アネッタ……』


『帰る家がないなら、私についてくるかい?』


挿絵(By みてみん)


―――――――恐ろしい夢をみた。それはまだ私が幼い貴族の娘だった頃の記憶だ。

寝ようとしてもなかなか寝られない。しかたがないから水でも飲むことにしよう。


「師匠……?」


リビングにはランプの灯りがついていて、同居人がまだ起きていた。


「どうしたんだい?」


優しくといかける彼はクルスニード。銀髪の長い髪をバレッタで固定した優男。

私は糸でドールを操るマリオネット使い。彼はギニョール。

扱う人形の形式は異なるが私の師匠で保護者。


「怖い夢をみて眠れないの」

「そうか、それならお茶を淹れようか?」


そんなこと師匠の彼にはさせられない。


「いいえ、お世話になっている貴方にそんなことはさせられない。お茶を飲んだらそれこそ眠れなくなってしまうわ」


私はグラスに水を入れて飲んだ。


「眠れなくなるのはいけないね」

「水も飲んだから、おやすみなさい師匠」


「おやすみ、アネッタ」



「え?」


早朝、リビングへいくと彼の姿がなく“さようなら、探さないでください”という手紙を残して、姿を消してしまっていた。


私と彼は幼い頃から一緒にいて、今まで彼がこんな風に一人出掛けることはなかった。

なにか事件にでも巻き込まれたのではないか、不安でしかたがない。


そういえば一週間ほど前に帝都でパレードがあると聞いたが、まさかそれに参加しているわけではないだろう。

とにかく私は彼を探すことにした。


**


「もう……師匠ったらどこいっちゃったのよ!」


クルスニードを探しに出てしばらく道を歩いていると、ある小さな村があった。


「すみません」


村人にクルスニードを見かけなかったかたずねる。


「どうしたんだい」


恰幅のよい中年女性がとう。


「このあたりで、長髪の美しい青年をみかけませんでしたか?」

「まったく記憶にないね。顔のいい兄ちゃんなら一度見たら忘れないんだがね」


「そうですか、ごめんなさい」

「探し人なら村の長老のところにいくといいよ」


長老が住むという村の中心部にある家へつくと、丁度その人は在宅していた。


「私は人形師をやっているマリアネッタです」


アネッタという真名にマリオネットを合わせた仕事用のネームを名乗る。


―――このあたりで人形師はあまりメジャーではなく、知る者がそういない。

その上クルスニードはあまり表に出ないので、さらに知名度が下がる。


「ふむ、人形師か……この村の子供達はハルメンに拐われ、年寄りしかおらんが」


ハルメンは別件だろうから私が関わることではない。スルーしておこう。


「私の師である青年を探しています」


彼の写真があれば説明できるが、生憎持っていない。

そもそも彼がいなくなることを拾われて数年考えたことがなかった。

なぜ彼がいなくなったのか検討もつかないので、お手上げではないだろうか。


「そういえば、帝都には人形師が住んでいるそうだ」

「帝都ですか」


皇帝が住む大きな都市、そこならクルスニードを知る人形師がいるだろう。


子供の沢山いそうな広いところなら、金を稼ぐに丁度良さそうでもある。


私は帝都へ向かうことにした。




ここが帝都ジュグジュプスね、遠くに大王ゼルスタールの城が見える。

その周りには貴族階級の住まう屋敷が広がっているようだ。

ただこの辺りにあるのはレンガ作りの一般家庭用の家。

おそらくは爵位を持たない平民の家だろう。しかし路地に浮浪者や飢えた子供の姿は見られない。

この国の民の生活水準は他国、私のいたヨウコクに比べて高いようだ。

いや、もしかすると住むには一定の立場が必要なのかもしれない。


―――なんだろう。すぐ近くからフルートのような音が聴こえる。

すぐ横を見ると宿泊施設のガラスの向こうに青年がいた。

目があって青年はそれを吹くのを止め、こちらに歩き窓をあける。

彼の姿がはっきりとわかった。

民族衣装のような黄色い刺繍の入った緑の丸帽子をかぶり紺髪の三つ編みを後ろに流し、銀縁眼鏡をかけている。

彼は機嫌悪そうにこちらを見て、何か言おうとした。


「……俺に何か用か?」


音を聞いていただけだが、用があると思われたらしい。


「いいえ、邪魔をしてごめんなさい」


私は青年が気を悪くしているだろうと思い謝る。


「……お前が何者かは聞くつもりはないが、この国は敷居の高い貴族様用の街だ。入れたということは許可された一定の人間なんだろうが旅芸人が金を稼ぐには向かないぞ」


やはりそれなりの身分が必要な国のようだ。けど特に入口に門番のような人はいなかった。



「大変だあ!!」


人々が次々に家の中へ入っていく。いったい何が始まるというのだ。


「お前もどこかに隠れたほうがいいぞ」


音楽家はさっさとカーテンをしめる。


「パレードが通るぞ!!」


パレードといったら皆が楽しんで見物に来るものなのに、なぜ彼等は家に隠れたのだろう。


ギギィという油の切れた錆びた車輪の音を鳴らす馬車。

血のようなどす黒い風船を飛ばすのは奇抜な格好をした緑髪のピエロ。

当然受けとる子供などいないその場にあるのは破壊と無だった。


そして極めつけにピエロのひいたアコーディオン。


それはとても賑やかに耳をいたぶって蹂躙していったのは壊滅的な音波と不協和音、すなわちオン・ザ・デスパレード。


さりぎわに上にいたピエロは私を見ておぞましく笑っていた。


あまりの衝撃に、私は意識を手放した。


「……おい」


目が覚めると、私は知らない部屋にいた。

私を助けたのは先程の音楽家で名は‘ジェント=シャゴンス’というらしい。


「……で、お前は何をしにこの帝都へ?」

「私は人形使いのマリアネッタ。置き手紙を残し消えてしまった師匠を探しにきたの」


私は事の経緯を軽く説明した。すると彼は怪訝な顔になる。


「お前それ、どう考えても捨てられたんじゃないか?」

「え……家をおいて私を捨てるなんてありえないわ」


彼はなにをいっているのか、唖然としてしまう。自分の家をおいたまま、彼が私を捨てるはずがない。


それに――――


『私は君を置いて死んだりはしないよ』


彼は私より先に死なないと約束したのだ。


「金があるならお前がごねると思って家ごと捨てて別の女のところにでもいったんじゃないか」


なぜ彼はそんなに私が捨てられたことにしたいのだろう。

だけどクルスニードに恋人がいるなんて知らない。

そんなそぶりはなかったし、聞いているはずだもの。

今まで彼が親しい女性と歩いているのを見たことはない。


「まあお前が捨てられていようが、どうでもいい。その男が行方不明だろうが俺には関係ないからな」

「助けてくれたのは、ありがとう。さようなら」


「待て、この辺りは危険だ。最近は子供を誘拐する不審者がうろついているからな」

「街の人がいっていたハルメン?」


子拐いなんてもう17歳の私には関係ないと思っていたのに、またその名を聞くとは驚いた。


「ハルメンの誘拐対象ではないにしろ、うっかり現場を目撃して口封じなんてこともあるぞ」

「ずいぶん親切なのね」


他人のことなんて興味ない関係ないと思っているくせに、どうして私を助けたのかしら。


「それとこの国の傀儡王ゼルスタールと宰相ゲルンガァには気を付けろ。ついでにパレードのマタドール=ピエロにもな」


彼は去りぎわに要注意人物の名まで教えてくれた。



「……」


彼の部屋を出ると優しそうな紫髪の青年が路地から私をみていた。

青年は私が近づこうとすると、スタスタと向こうに走っていく。

話しかけられたくなかったのだろうか、それとも単に移動しようとしていたとか。

―――そんなことを気にしてもしかたがないので街の人間に再度クルスニードを知らないか尋ねにいく。


「ようそこの嬢ちゃん可愛いなあ」


厳つい髭のゴロツキチンピラが現れた。どうしよう物語のように人形が巨大化して戦ってくれないだろうか?


幼い頃私の家族を奪った盗賊に比べれば何も怖くないので、あまり恐怖感はない。

むしろ私は異常なまでに冷静になっていた。


―――いや、でもやっぱり怖い!!

これは冷静になっているんじゃなくてピンチのあまり何も考えられないだけのようだ。


「おい、何をしている?」


いつのまにか金髪の男性がゴロツキの後ろにたっていた。


「はあ?なにって―――」


ガツり、金髪の男性はゴロツキを壁に叩きつけた。


「マスター」


生気のない少年が、金髪の男性を呼ぶ。


「始末しておけ」


とだけいって彼は去ろうとしている。


「ありがとうございました!!」


背を向けた男性へ私はお礼を言った。


男性は振り向くことなく歩いていった。その先には城が見える。

もしかしたら彼は城に遣えている人なのかもしれない。

細身に見えるのに屈強な男を一撃でおさえ込むなんてすごい。


―――それにしても、彼に指示された少年は何者だろう。

私の後ろで延びている大男を運ぼうとして抱えている。


信じられないし、あの無機質な目が怖くて少年をまともに見られない。

あの子の襟元の隙間から、うっすらと首に線が見えた。

よく目をこらすと少年の背から細く透明な糸が見える。


―――それはまるで人間のように動く人形だった。

人間が操られているのか、それはわからないけれどこの街はおかしい。

早くクルスニードを見つけて逃げなくては。


◆何もこの街に彼がいると決まったわけじゃないわ。


→〔それでもこの街にとどまる〕

〔もう街を出る〕


すぐにでもこんな場所を逃げ出したい。

だけどここから出てはいけないとなにかが告げている。


★優先すべきなのはなにか?


【師匠探し】

【ハルメン探し】

【ピエロ探し】


挿絵(By みてみん)

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