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Amour Eternel~果てなき歩み~  作者: 永久発狂マン
幕間Ⅰ
6/11

マーテルの日記

『五月十日 火曜日

 突然、大災害が起こってから四日が経ちました。町は悲鳴でいっぱいになって、心が締め付けられるようです。私に何が出来るのでしょうか。ただ怯えていても意味はありません。これから町の為に、皆の為にできることを探してきます』


『五月十一日 水曜日

 災害から五日。私にできることは二つありました。一つは備蓄していた食料品を分けることです。これから過酷な道を歩いて隣町の避難所に行く皆さんにとって、命と気持ちを繋ぐ食料品は重要ものです。幸い、こんな時の為に日々の生活費の半分を備蓄物に回していた甲斐がありました。もう一つはストレスの放出です。抗えない災害に精神的負担が溜まっている皆さんに少しでも楽になってもらう為なら、なんだって受け入れますから』


『五月十三日 金曜日

 災害から七日目。町からどんどん人が居なくなっていきます。でも私は、この町から離れようとは思いません。生きるも死ぬもこの町で。なんてカッコ良く言っても、皆さんは呆れてしまいますけどね。でもいいんです。そう言えば、昨日は酷い腹痛に襲われました。変なもの食べちゃったのかな? 生理ではないみたいですし、ちょっとしんどいかも』


『五月十六日 月曜日

 災害から十日が経ちます。町にはもう私しか居ません。皆さんの無事を祈りながら、ここで生きていきます。もう私にできることは無さそうです。だからここで生きて、死にます』


『五月二十日 金曜日

 十四日目。町の入り口辺りで倒れている、同じ年くらいの男の子を見つけました。酷く衰弱していたので、今はベッドに寝かせています。彼は荷物を古びた本しか持っていませんでした。着ていた白いローブというのでしょうか、それも珍しいです。早く目を覚ますと良いなあ』


『五月二十四日 火曜日

 災害から十八日。彼が目を覚ましました。キャロルという名前だそうです。私の作ったクリームシチューを美味しいと言ってくれました! 嬉しいです。キャロルは私とお喋りをそてくれました。だからもう少し残ってほしいって思ってしまいました。帰ろうとするキャロルを引き留めてしまいました。あの腹痛で倒れた私を看病してくれました。目を覚ますと私の為に料理をしてくれていました。美味しかった。美味しかったです。あんなに美味しいスープは初めてです。今、その美味しさの余韻に浸りながらこの日記を書いています。キャロルは残ってくれるそうです。嬉しい。でも、私はこれでいいのかな?』


『五月二十五日 水曜日

 キャロルは手品師さんです。お湯を作ったり、髪を一瞬で乾かしたり、手品で銀のナイフを複製したり、すごい人です。私には出来ないことが出来る彼はすごい人です。

 すごい人だから、変な私のワガママを受け入れてくれました。初めてです。だからなんだから不思議な気持ちです。ふわふわしています。初めてのお友達なのです。

 夢をたくさん叶えてくれたキャロルのことを、大切にしたいです。何があってもキャロルを助けたいです。苦しんでいる彼を助けたいです。私に出来ることはまだあったということなのでしょう。何が出来るか分からないけど、キャロルの辛い顔を笑顔にしてあげたいです。これまで出来なかったことだけど、何かが変わる気がします。だって、だってですね! お友達だもん! 私に出来た、初めてのお友達なんですもん!

 だから折を見て、聞こうと思います。キャロルが苦しんでいる理由を

 災害発生から十九日目。この日は、初めてでいっぱいのキラキラした一日でした』


 彼女は今日の日記を記して、手帳を閉じる。大切そうに、愛らしそうに、まるで愛し子を包むように優しく手帳を胸いて、その光を噛みしめて、また明日と囁くように呟いた。

 眠りにつく彼女のすぐ傍で。

 寝室の机に置かれた日記帳は、僅かに差し込む隙間風によってひらひらと捲れていく。

 それは、何ページ目だったのだろうか。この調子で書き進んでいけば、何日目に該当するであろうページだったのか。白紙であるはずのそこには、一文だけ。


『      寝起きが悪いのはダメよ、お父さん      』 


 そう、記されていた。

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