表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

その六


私はまず、竜平の部屋を調べた。あまり整理整頓は得意ではなかったようで、服や雑誌などが散らばっていた。


部屋の内側のドアノブには血がべったりと付いていた。竜平の身体を良く見てみると、右手が血に染まっていた。これは何を意味するのだろうか?


次に桜の部屋を調べた。

ドアノブには血は付いていない。

綺麗に片付けられた部屋の机に、スケッチブックが置いてあった。

私はそれを開いてみる。どうやらクレヨンで描かれているようだった。


一枚目は、狼のような獣に襲われている女性の絵。桜のペンダントをしていた。


二枚目は、獣の赤ん坊を抱き抱えている桜のペンダントの女性。


三枚目は、獣に襲われている長い黒髪の女性。



その絵を見た時、私はとても恐ろしい想像をした。まさか、そんなことが。

それを確かめる為に、私は龍太のもとを訪れ、その絵を見せた。


「……桜が母親に瓜二つだったのが、桜の父親が、自分の妻を溺愛していたことが、不幸を呼んだのだ……」


龍太は項垂れながら、語り始めた。

十数年前の、不幸を。




私は新一郎の元へと訪れた。龍太に手伝ってもらい家具を退かし、部屋へと入った。


「新一郎さん。私の話を聞いてもらえないでしょうか?」

「……」


無言は肯定の証とした。


「今から話すことは、全部私の推測です。推理なんてもんじゃない。証拠もない」

「……」

「始まりは、十数年前、貴方たちの母親が亡くなった。

貴方たちの父親は妻を溺愛していた。桜さんは妻に瓜二つだった。だからーー」

「……父は、桜姉さんを犯した」


呪詛を吐くように新一郎が呟く。私は例のスケッチブックを見せる。


「この獣は父親を現しているのでしょう。桜さんにはケダモノに見えた。

……そして、桜さんはその時のショックで心を病んでしまった」

「龍太さんから聞いたのか?その通りだ」


私はページを捲り、二枚目を見せる。


「このページには獣の赤ん坊がいます。抱いているのは桜さん。……つまり……」

「その獣は竜平」


新一郎の言葉に私は頷く。

そして、最後の三枚目。


「この獣は竜平さん。女性は恐らく撫子さんでしょう。つまりこれは昨日の出来事を描いたものでしょう。

……これが、今回の事件のきっかけだとしたら?」

「何?」

「撫子さんに言い寄る竜平さんを見て、桜さんはパニックになった。

獣の息子は獣。撫子さんが同じ目に合う前に殺そうと考えたら?」

「……成程。確かに無茶苦茶な推理だな。まあ良い。それで?密室の件はどう説明する?」


煙草に火を付け、新一郎が私を見る。


「あれは、竜平さんが自分で閉めたんです。ドアノブに血がついていたり、ドアのすぐ側で死んでいたことから、鍵を閉めた後力尽きたのでしょう」

「姉さんの場合は?」

「やはり、自分で閉めたんです。その後自らをナイフで刺した」

「……」


新一郎は煙草の煙を吐き出す。

新一郎の言う通り、無茶苦茶な推理で推測だ。そもそも桜さんにそこまでの思考能力があったのかーー。


「……私の話は以上です」

「君の話より、俺が二人を殺した方がまだ皆は納得すると思うがね」

「……貴方が殺したんですか?」

「さあね。

ただ、これだけは言っておこうか、探偵くん」




ーー真実とは、時に闇に葬った方が幸せな時もあるーー。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ