その一
私は当時、美術系の大学に通う学生だった。
その日は紅葉をスケッチする為に、近くの山に入ったのだがーー。
「……参ったな」
山の天気は変わりやすいとは本当のことだったようで、晴天だった空はあっという間に厚い雲に覆われ、大粒の雨が降り出して来た。
正直山を舐めていた私は、雨具など持って来ている筈もなく。
濡れ鼠になった私は、早く帰ろうとしていたのだがーー。
「……ん?」
私の視界に、大きな洋風の館が見えた。
紅葉のように真っ赤な館だった。確か噂では、とある資産家の別荘だとか。
「……行ってみるか」
この時、私は何故あの館に行こうとしたのだろうか。濡れながらさっさと帰ってしまえば良かったのに。
玄関に着いた私は、呼び鈴を鳴らした。暫くすると、一人のメイド姿の女性が扉を開けた。歳は五十代といったところだろうか。無表情だからか、キツイ印象を受けた。
「何か御用でございましょうか?」
「あの、この雨に降られてしまいまして……出来れば雨宿りをさせて頂ければと……」
しどろもどろで応える私をじろりと見た後、『少々お待ち下さい』と言ってメイドは一旦中に入る。
やはり無茶なお願いだったか……と諦めかけていた時、再び扉が開いた。
「どうぞお入りください」




