第九話 幽霊屋敷かな?
「この家だな。」
マーカス団長に何とか張り付いてたどり着いたのは、南東地区にある上流貴族用の住宅が建ち並ぶ区画の二階建ての一軒家だった。
周りの家に比べると小さいが、一人者のモルガスウッド様が住んでいたにしては大きい気がする。恐らく、そのせいで城の自室に寝泊まりするようになったのだろう。掃除や庭の手入れ大変そうだもんなぁ。
庭は雑草が腰のあたりまで伸びていて、玄関にたどり着くまで草をかき分けて進まないといけないという状態で、家の壁は蔦まみれな上に、窓ガラスは汚れて中が見えない。ちょっとした幽霊屋敷のようだ。
「住めるんですかね?」
「住めるようにするしかないだろうな。まあ、頑張れ。」
ドアを開けるとギギギと音がして幽霊屋敷としての演出がばっちりだ。中は薄暗く、蜘蛛の巣やら埃が積もっている。
「それじゃあ。これが鍵だ。今日のところは寝る場所の確保くらいにして寝たほうが良いと思うぞ。買う物が結構あるからな。」
「そうします。食事は台所が使える状態になるまでは、外で食べないといけないですねぇ・・・ベッドのシーツや枕なんかも買っておいたほうが良さそうですよね・・・」
なんだか、色々あり過ぎて面倒くさくなってきたな。いっそ、しばらく宿屋に泊ったほうが良いんじゃないだろうか?
「あの、この家が住める状態になるまで、宿屋に泊るというのはダメですかね?」
「それは良いが、宿に奴隷を泊める事はできないからな。生憎、私も忙しい身でな。今日奴隷を買わない場合は、数ヶ月は先になると思う。そして、監視役の意味もあるからな。買わない場合は拘置所に泊まってもらうことになるな。」
「それはそれで、団長さんに迷惑が掛かりますね・・・わかりました。頑張ります・・・」
「そうそう。飯は宿と併設されている酒場か、高級な店くらいしかない。そして、どちらも奴隷を入れる事が出来ないから、屋台で何か買って家で食べることになるだろうな。」
「奴隷の入店禁止って酷いですね・・・」
「そうか?普通そんなもんだろう。だいたい、奴隷を買えるくらいのやつは使用人が何人も居るような貴族様というのが定番で、平民と関わることがほとんどない。平民がいるところに奴隷がひとりで迷い込もうものなら、何されるかわからんからな。気を付けてやれよ。」
なんだか、奴隷に対する人権のようなものはこの世界には無いみたいだな。奴隷の主人も、奴隷が大けがをさせられるか、殺されない限りは特に何もしないそうだ。しかも、そうなったとしても、弁償させるだけで終わるとか、物扱いされているのね・・・
ちなみに奴隷は獣人族か、罪人として刑罰奴隷、借金や生活費を得るために子供を売るなどしてなるそうだ。獣人族はほぼ奴隷って、どういうことなのだろうと聞いてみたら、獣人族の国と人族の国との戦争で獣人族の国が亡びた結果だそうだ。その戦争も100年くらい前のことらしいのだが、いまだに獣人族は奴隷から解放されていないようだ。その後、大きな戦争は起きてないので、人族の戦争奴隷はそんなにいないようだ。
戦争奴隷は子や孫になっても、奴隷の子は奴隷という状態で解放されない限り奴隷のままで、刑罰奴隷や売られた子供などは罪の重さや売られた時の値段によって年数が決まっている。
戦争奴隷は使用人や小間使いなどで貴族たちに買われて、それ以外は鉱山や土木作業などの力仕事関係や娼館に買われるそうだ。ただ、使用人や小間使いと言っても、人族の使用人や小間使いとは別でかなり扱いがひどいようだ。
そんな状態でよく戦争奴隷が暴動なり、逃亡なりしないのか訊いてみたら、衣食住が保証されていて、もしもそれが不十分だとわかれば、奴隷商人に無償返還されるそうで、生活に困る事が無いというただそれだけのことが、彼らを押さえつけているようだ。まあ、人族でも仕事にありつけずに道端で物乞いをして飢え死にするようなので、衣食住が保証されているというのはとても大事なようだ。
生活用品やら、ちょっとした食料品やらを購入して、家に一度戻った後、奴隷商人の店に行くこととなった。初めての奴隷購入である。なんだか、緊張してきた・・・