第六話 取り調べ 二回目
一週間経ち、取り調べで呼ばれた。取調室には困った顔をしたマーカス団長が待っていた。
「えっと・・・。お久しぶりです。どうかしました?」
「うむ。君の身元だが、いっこうに確認が取れん。どうしたものか・・・やはり保護観察官を誰かにお願いするしかないか・・・」
まあ、少女から産まれました。なんて言っても、信じてもらえないだろうし、邪神教団の一味と思われてしまう可能性が高いので、あくまで邪神教団に誘拐されたのちに記憶を無くした青年でいなければならない。邪神教団側の取り調べで、私が彼らの一味じゃないというのはわかっているようだ。邪神教団側全員が私のことを「破壊神様です。」と言っていたそうなので・・・
幸いなことに騎士団は私のことを破壊神とは思っていないそうだ。まあ、そりゃそうだろう。ステータス確認でただの人間どころか、スキルなしの超凡人に見えるし。二十歳でスキルなしってかなりやばいみたいですけどね・・・。それに、特殊スキルが確認できていたら、完全にアウトですけど・・・
「ふむ。このまま調べても恐らく身元確認できないだろう。村ごと誘拐されたり、他国から連れて来られたりしていたら完全にお手上げだ。被害者だということはほぼ間違いなさそうだから、保護観察官を任命することにしよう。」
「あの、その保護観察官というのは、一定期間を私の仮の保護者と監視役として生活する人ってことですかね?」
「ああ、そういうことだ。まあ、保護観察官を出すということは、ほぼ無罪確定者なのだがな。ただ、身元確認が出来ない人間をいきなり街に出しても、住む場所はもちろん、働くのも困難だからな。監視は建前で、本音は保護だな。一人で生活できるようなら、かなり短い期間で保護観察を終えることも可能だからな。」
「なるほど。それで、どんな人を保護観察官に任命するんです?若い女性だったりすると一緒に生活とか気恥ずかしくて難しいんですけど・・・」
「その辺はさすがにな。若い女性は保護観察官に選ばれたことはないな。選ばれるとしたら、保護対象が若い女性の時くらいだ。男性の場合はほとんどの場合は隠居した軍関係者の夫婦の場合がほとんどだ。」
「なるほど。ちょっと安心しました。べ、別に女性が苦手というわけじゃないんですけどね。ただ、距離感が欲しいと言いますか。一緒に住むのはちょっとね・・・」
「なんだ?お前、その歳で女を知らんのか?普通は十五歳の成人記念に仲間と娼館に繰り出したりするものだぞ。そして、大概一人は年増が当たって、げっそりして出て来たものだ。」
マーカス団長が豪快に笑いながら遠い目をする。初めての相手でも思い出しているのかね。
「まあ、女は知らないですけど・・・たぶん。記憶にないのではっきりとは断言できないのがあれですけどね。」
産まれたばかりなので経験なんてあるわけないんですけどねぇ。前世ではバリバリですけど。あ、転生したら前世はノーカンですよねぇ・・・
「そうだな・・・前に約束した酒場の後にでも、連れて行ってやるか?」
「いえ。誰かと一緒に娼館というのはちょっと・・・」
「そうか?普通は仲間内で日を合わせて行ったりするものなのだがな・・・」
前世では結局、娼館に行かないうちに結婚したからなぁ。仲間と一緒に行くものなのかぁ・・・
「まあ、そういうのは後々考えるとして、まずは保護観察官のほうをひとつお願いします。」
「うむ。そうだな。なるべく早く決めてやりたいが・・・。そういえば、牢番から聞いたのだが、魔法が得意らしいようだが?スキルを持っていないから、知識だけはある感じなのか?」
「あー。そうですねぇ。魔法はなんとなく使えていましたねぇ・・・」
「ふむ。なら、魔術師で誰かいないか探してみるか。使えるなら、スキル習得も早いだろう。」
「魔術師ですかぁ・・・。どんな人が多いんです?」
「そうだな。良く言えば真面目。悪く言えばくそ真面目な奴が多いな。」
「あの、それって真面目だけしかわからないんですけど・・・」
「それ以外にやつらを説明する言葉が思いつかんな。」
「そうですか・・・」
果たしてどんな人と暮らすことになるのか・・・
転生してから不安なことばかりだな・・・
小さい不安ですけどね。戦闘面では無敵だけど、人間関係が壊滅しそうな不安なのでしょう・・・