あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ
ピピーッッッ。試合終了のホイッスルが鳴った。汗を流しながら笑い合う仲間たちを僕はベンチからぼんやりと眺めていた。
この大学のサッカー部は弱くはないが強くもない、中程度のレベルだ。しかし僕は、そんな部活でさえ、二年になった今でも一度も試合に出たことがない。では、なぜこんな下手くそな奴が入部して、まだ辞めてないのか。理由はたったひとつしかない。あかりがいるからだ。
合格発表の時、「あなたも受かったのですね。」そう言って、微笑む彼女を一目見て目が離せなくなった。流れるような黒髪に、少し茶色がかった瞳、桜色の頬が上気していた。彼女がサッカー部のマネージャーをすると噂で聞いたとき、僕は迷わず入部を決めた。
真夏の太陽もここ、ベンチには降り注いでいない。隣に座っているあかりを見てみると、試合が終わったにもかかわらず、まだ食い入るようにしてフィールドを見つめていた。僕は彼女に向かって呟いた。「今の試合みんなすごかったね。」彼女は上の空でうなづいた。僕はかまわず喋り続ける。「特にフォワードの佐々木、あいつ本当に上手いよね。」何気なくはなった言葉に、あかりは弾かれたように僕を見た。
「うん!めちゃくちゃかっこよかった!」頬を赤らめ僕の大好きな太陽のような笑顔でそう言った。
その瞬間、僕の世界は色をなくし、目の前が真っ暗になったような気がした。なんだ、そうだったんだ。あいつは顔もいいしサッカーもうまい。彼女があいつに惹かれるのもわかる。でも、僕は彼女とはよく言葉を交わすし、もしかしたら、と淡い期待も抱いていた。
僕はああだか、うんだか適当な相槌をうち、静かに目を閉じた。あいつを想って笑う彼女はいつにも増して最高に可愛かった。決して僕を想って作られはしない先程の彼女の笑顔。僕の目にじわりと熱いものがにじんだ。
あの夏の数かぎりなきそしてまたたつた一つの表情をせよ