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手すり
「いいか、このようにあちこちにある手すりは、こういう状態の時使うことになるんだ」
船の中にある、1部屋の左右上下の様々な場所に点在している手すりの一つを掴み、そっと後ろに押し出す感じで鰆は手を離す。その押し出す力と同じ力で、ゆっくりと鰆の体は等速直線運動をはじめた。その方向に向かって、同じ速さで動き続けているというわけだ。そして、数秒で反対側の別の手すりを掴むと、動きを止めた。
「これが無重力状態での移動の基本。これを応用すると……」
鰆は、言いながら一旦船の頭のところまで行き、そこから手すりをいくつか掴んでは離しを繰り返して、止まることなく動き続けた。
「これが応用。まあ、応用と言うほどではないけどね」
「これって、作用反作用の利用なんだね」
ジェニーは、目をキラキラさせて話している。鰆は、そうだよ、と簡単に答えた。ちょうど、目的地へと船が近づいたことを知らせるブザー音が聞こえてきたからだ。




