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てらけん  作者: あんぱん
3/10

出会い

暗黒組に配属の決まった私は、自分でも驚くほど現実から目をそむけていた。配属先が決まった瞬間禁煙生活に終止符を打ち、同じく暗黒組が確定してしまった友人と共に煙草を買いに行った。

「世の中本当に間違っている。」

煙草をぷかぷかと吸いながら、私はぼんやりとつぶやいた。愚痴と一緒に吐き出された煙は、ゆっくりと空気中に溶けていく。この様子を見ていると、その間だけ自分の中にある不満も一緒になくなるような気がしてくる。煙草がやめられないのはきっとこの感覚から抜け出せないからだろう。

「学校やめようかな」

そう切り出した彼もまた、私とは異なる暗黒組への配属が確定している。否定も肯定もすることなく吸い切った煙草を目の前の下水道に投げ捨てた。

「久野君、留年しなければいいという私たちの考えは酷く愚かだったね。」

久野君は、大学一回生からの友人である。所属していたサークルが一緒ということもあり、私たちはすぐに打ち解けた。テスト期間も常にお互いを助け合いながら勉学に励み、同じ科目を落とし、一部の人だけが受けられる英語の補修授業も約一年間一緒に受けてきた。要は付き合いが長いのである。そして私も彼もアホ四天王にノミネートされていた。同じ四天王でも久野君と私の間には越えられない壁のようなものが存在する。彼は講義の間中後ろの席で陣取ることが多く、そしてほとんど授業を聞いていない。対して私は意欲だけは人一倍いあったため、いつも講義は前の方で黒板にかじりつきながら聞いていた。先生の板書もほぼ完ぺきに書き写していた。しかしいざ試験となると途端に、溜めこんでいたと思われた知識たちは頭の引き出しから出ることをかたくなに拒んだ。結果として私と久野君はいくつか単位を落としてしまった。同じアホ四天王でも私の方が格は上なのである。全く持って嘆かわしい。「留年しなければいい」という考えは私と久野君がテスト期間中学ぶことに疲れた際よく用いていた言葉である。主な用法として「神様、優なんて贅沢なことは言いません。留年さえしなければいいので、どうか可で通してください」というものがある。神様は私たちの願いを聞きとめてくれたから、最悪の事態は免れたのかもしれないがこの仕打ちはないだろう。

 久野君はどこを見つめるでもなく、ぷかぷかと煙草を吸っている。そして唐突にこういいだした

 「あんぱん…バンド組むか、芸人になるか、死ぬかどれがいいと思う?」

 私はしばらく言葉が出なかった。偶然私も同じことを考えていたのである。本当に四天王の思考は似る傾向があるようだ。私はバンドかなと言って彼と別れた。お互い一人で冷静に思考を整理する必要がある。大学のメインストリートのそばには申し訳程度の大きさの池がある。この池は大学の見栄えを良くするために作られたもので、なんと底はコンクリートらしい。外見にこだわって中身が伴わないのはこの大学の悪い共通点である。私はそんなことを考えながら、池のほとりをぶらりぶらりと歩いていた。少し傾斜のある道を上り、十字路のようなところについた。まっすぐに行けば大学食堂、左に曲がれば教育学日エリア、右に回れば忌まわしき工学部エリアである。マイナス思考に陥るのはおなかがすいていることに起因するというのが私の持論で、少しでも前向きになるために食堂に向かうことにしたその時だった、工学部エリアの方から誰かが私の名を呼びながらかけているのを見つけた。そいつは今の私が最も会いたくない者の一人だった。成績上位者の本田君は別に特段悪い人間ではないのだが如何せん傲慢というか、要は人を見下す傾向が彼にはある。特に学力面での扱いのひどさと言ったら人外である。彼は浮浪者のようなぼさぼさの髪を揺らしながら私に近づいてきた。これだけでも不快極まりないのだが、今日の彼はさらにたちが悪かった。

「よお、暗黒組」

「うるさい、誰からその情報を聞いた。私はまだ久野君にしか話してないぞ」

「お前みたいなやつ引き取るなんて、暗黒組しかないだろう」

と彼がここまで話した時点で、高いと自負していた限界付近まで怒りが込み上げてきた。このような精神的な言葉の暴力がまかり通るなら、私が今から右の拳から放つ物理的暴力が規制されるというのは酷くおかしいことだ。そう思うや否や、私は彼のにやけた面に照準を合わせ、わからないように重心を低く落とした。彼が病院に輸送され、私が退学するまであと十数秒。

「アンパン君?」

私の学生生活の終わりと、どうでもいい本田君の病院生活の幕開けを先延ばしにしたのは、奇しくも同じ暗黒組に配属される柿本くんだった。暗黒組と聞くと大抵はアホ四天王が思い浮かぶのだが、柿本君は全く違う。むしろ彼は学科の頂点、本当の意味での四天王にノミネートされる成績優秀者である。話題性は置いといて、今この場で優等生代表と劣等生代表がであうという夢のコラボが実現されたのである。彼はニコリと笑ってこう続けた

「あんぱん君はサトシ研?」

「え、ああそうだが」

「だったら僕と一緒だね、これからよろしく」

掲示板にサトシ研の人用の連絡用紙が張り出されていることを教えてくれた柿本君は、軽く会釈をした後、大学生正門の方に向かって歩いて行った。一種春風が私と本田君の間を通り抜けた気がするが、おそらく木の生であろう。これがエリート、これが真の四天王なのである。私はにわかエリートの本田君に別れを告げ、掲示板の方へ向かった。彼のような人がいれば暗黒組でも生きていける、そのような幸せな考えで頭はいっぱいだった。

 


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