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てらけん  作者: あんぱん
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学会ー舞台裏ー

学会と聞くと華やかなイメージがあるかもしれませんが、それこそ水面を泳ぐ白鳥と一緒です。

大学研究室において、最も大事なイベントはもちろん卒業論文発表会である。

ホワイト研究室、ブラック研究室関係なく、一年間の集大成の場と呼ばれることが多い。

その次くらいに大事なのが、学会である。卒論発表会ほどの重みはないが、発表会に費やす労力は下手をすれば卒論発表を凌駕することもある。



研究室の教授たちは両方とも重要視するが、学生側からしてみれば、前者は死に物狂いで頑張るが、後者に関してはそれほど頑張らなくてもよいのではないかと思ってしまう。


特に、暗黒組に配属された学生にしてみれば、ただでさえ苦痛な研究発表の機会を増やされいい迷惑だ。


もちろん学会に参加すること自体は、知見の幅が広がるため、将来『科学者』を志す人からすれば、絶好の機会である。読者諸君が研究室に配属された暁には積極的に参加することを強く勧める。



大学内の桜の花が完全に散ってしまい、新入生歓迎ムードもひとしきり落ち着いてき頃、私は研究室の窓からぼんやりと外の景色を眺めていた。

今日は月曜日で、『狩り』の日だ。既にラボメン(ラボメンバー)はまな板の上の鯛状態なのに、サトシの姿は見えない。生殺しとはこのことである。

私たちには時間について厳しく指導するのに、サトシが時間を守ることは少なかったし、

理由なく英語の輪読会に遅れるなんて日常茶飯事であった。

しかし、ある日、私がたまたま1分遅刻した時はものすごい形相で汁を飛ばしてきた。



『一分とはいえ遅刻は遅刻です。皆を一分待たせたということは、あなたは皆の時間を1分奪ったのとおんなじや!あなたは時間ドロボーさんなんですよ!』



時間ドロボーという造語に反論したい気持ちはあったが、口に出すことなく謝罪をした。

こんな理不尽なことがあってたまるかと、私は学生相談室のお世話になろうかと思ったが、柿本君に『遅刻はいけないことだよ』と諭され、踏みとどまったのである。




M2の相山先輩が、背伸びをしながら今日先生休むんじゃないかなーと眠そうな声で言った。

確かにそうかもしれませんねと私が言うと、相山さんはぶつぶつと呪いのような言葉を口にしだした。

心なしかラボメンの表情に生気が戻ってきたように見える。


「げりになれー」とぶつぶつ呟く相山先輩。

「トイレの神様~先生をトイレから出さんといてー」と海路さん。他のラボメンも口々にゲリゲリとつぶやく。この姿を何も知らない人が見ると実に狂気じみて見えること間違いなしである。先生の体調不良を心の底から願う学生たち…これも暗黒組の成せる業であろうか。


そんな中、唯一柿本君だけはやれやれとあきれている。彼は今日まで、数回ほど狩られているはずなのだが、一向に堕落しない。狩の後に「今日も貴重な情報を知ることができたよ」と笑顔になるほどである。


「柿本君、これはイレギュラーな祝日だよ。今週は滑り出し上々、私はカラオケに行くとする。失敬。」


後でトイレの神様にお礼を言わないとな。そう思い私は荷物をまとめ、研究室を抜け出そうとした刹那


ガラッ!

「みんなそろってるか!?すぐ週報と学会発表練習するから用意してくれ!!」


一瞬時間が止まった。トイレの神様は我々の願いを聞き入れてくれなかった。

いや、この表現は語弊がある。


「遅れてごめっ、恥ずかしい話なんやけど下痢が止まらんくてな」と言って巣に入っていった所を見るに神様は叶えてはくれていたのだ。

サトシの週報に関する執念が神の力を上回ったのである。


ちらっと相山さん、海路さんの方を見てみると、二人とも先ほどとは打って変わって暗い表情をしている。

他の先輩方もため息をつきながら、プロジェクターの準備を始めた。


サトシがトイレの神に打ち勝った日は、最高に機嫌が悪い。これは研究室の常識だった。

この状態のサトシは、普段なら気にも留めない些細なミスを的確に突いてくる。

トイレの神様への祈りは諸刃の剣である。


しかも今日は、週間報告会の後に学会の予行練習を行うと言っていた。

先輩たちにしてみれば地獄のような時間であろう。

ま、参加しない私にとっては退屈極まりない時間なのだが。


つづく。


次の話は早めに書き上げるようにします。

※連続する話なので

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