Misery
=======================================================
時計が頂点を指して、20分。
ようやく身体の構築を完了した自分は、
周囲を見渡す。
見たところ、4畳半のボロアパート。
壁にはヤニが染みつき、畳は一部黒く変色している。
振りかえると、モニターの小ささ故か、出るときに些か苦労したPCのモニターがあった。
これですから七型はいけない……と思いつつ、よく見てみると
何故か、キーボード部分と分離していた。
恐らく、出ようともがいていたところ、壊れてしまったのだろう。
まぁ、どちらにせよ問題ないでしょう。きっと後数時間のうちに、この部屋は襲撃されてしまうから。
その時に、奪われるなり壊されるなりするはずですし……
……後ろめたい気持ちがないといえば、嘘になりますが……
視線をそのまま上にあげると、型の古い……ブラウン管のテレビが一台。
老朽化の進んだ木製ビデオデッキに乗せられていた。
その中と、脇には雑誌類が積まれており、
近づいて見てみると――
――あぁ。先ほど観た通り、女性の脚部をピックアップした
嬌本が積まれていた。
ソレを上から順にとっていきめくっていくと、ところどころ開かないページがあった。
……これは、しっかり手入れをしなくては。
他にも、乳房を取り上げたものや……これは、男性が女性に襲われている?
……おや、一番下に隠すように置かれているのは、
未成熟な女児のポルノですか。
……ふむ、やはり、かなり偏った……手広くやっている?性癖をしていらっしゃるのですね。
それらを元通りに置いて、流し台に目をやると、何やら食後のゴミが放置されていた。
……まぁ、中身が変色していないだけ、よしとしましょう。
置きっぱなしにされている布団は、恐らく一度も干していないのか……?
……ふむ。これは、大掃除しなければ、いけ2ないようですね。
少女はひとり、部屋を見渡し溜息をついた。
===================================================
……歩きはじめて10分。以前周囲は高層ビルに囲まれており、歩道、車道には途切れる事のない人、車の波が続いている。
「流石、復活都市……」
やはり、ここに引っ越してきたのは間違いではなかったようだ。
人ごみにもまれつつ、過去の懐かしき記憶を掘り起こしていった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「親父!!俺、高校出たら、復活都市でビッグになる!!」
高校3年の、秋が終る頃の事だった。
「莫迦野郎!!お前如きがビッグになれてりゃ、今頃俺は大統領だ!!」
一般的家庭は冬支度を終え、これから来る冬将軍に向け、臨戦態勢を取っている頃か。
そんな中。自分は茶室で親父と口論になっていた。
「なんでだよ!!親父だって俺が小さいころ言ってたじゃねぇか!!男がビッグになるためには、それなりの舞台が必要だって!!」
俺は下座に正座をして、
「じゃかしい!!ビッグになるとはなんだ!?一体どうやってビッグになるつもりなんだ!!」
親父は上座に胡坐をかいて座っていた。座布団を三枚重ねて座る彼の背後には、奇妙奇天烈と書かれた掛軸が掛けてある。
「それは……!!」
無論、全くの無計画であった。
自分は、この辺鄙でさびれた町に嫌気がさして飛び出すチョイ悪青年……
ではなく、
宝をさがしに、戦艦犇めく大海原に、小舟で舵を切ろうとするバカだ。しかも、全力で。
家は、存命中の祖父、皇后崎導爺が起業した、過去の技術研究を家業としていて、
無理に大海原に手の込んだ自殺をせずとも、よかったのだ。まぁ、自分に研究できるほどの脳みそがあるとは、どの角度から見ても思えないが。
「……別に、家業を継ぐことを強制するわけじゃぁない!!あれは、親父が趣味で始めたようなもんだ……!!むしろ、外に出て行こうとする好奇心、向上心、そして野心たるや一等賞!!……だけども!!」
握りこぶしで畳を叩き、叫ぶ。
「パパは手の込んだ自殺を一切認めません!!」
「だから自殺じゃねぇって!!ビッグになるだけだって!!」
「だったら具体的な策を三十字以内に簡潔に述べろォ!!」
「自然現象。」
「なるほどなるほど。よくできましたね……って、莫迦やろう!!自然現象でビッグになれてりゃ、今頃俺は世界征服完了してるわァ!!」
「え……世界征服目指してるん?ちょっと詳しく教えて」
「たとえ話じゃァ!!こんのアホンダラがァ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
……ごめんよ、父さん。もしかしたら僕、この町に骨を埋めることになるかもしれないよ……
……餓死で。
大通りの信号を待ちながら、暇つぶしに周囲を見渡していると、
「やぁ、後輩君」
隣から、女性的な、艶のある声を掛けられた。
「ぁれ?髭、剃ったんだね」
妙になれなれしい声に、脳内で適当にアタリをつけながら、首だけそちらに向けると、腰元まであるさくら色の髪が、赤く染まった並木をバックに生えている。そこには、ヤハリ、見慣れた、想像通りの顔があった。
「ぁあ、こんにちは、オルドマン先輩」
「フフ、こんにちは。……それより、いつも言っているでしょう?後輩君。オルドマンじゃなくて、ユーリアで良いって」
腕を組んだ、背の低い童顔女性。
黒いPコートに、白いミニスカートを履いた彼女は、年齢不詳のバイト先の先輩だ。
アーモンド型で、やはりさくら色の瞳が、不満そうに自分の目を、半目に見据えている。
「はは……すみません……ユーリアさん」
軽く、会釈する。と、
抱えた袋から、缶詰が零れた。
「それでよし……おっと」
それをすかさず、ユーリアさんが落下中に拾った。……なかなかの反射力だ――じゃなく、
「あ、ありがとうございます、ユーリアさん」
「あ……いやいや、いいわよ。別に」
恥ずかしげに毛先を弄りながら、手を振る。
「……そんなことより、後輩君」
「ん?なんですか?」
自らの毛から手を離し、後ろに手を組み、前のめりに見上げてくる。
「君、結局振り込んだの?」
「へ?」
余りに唐突な、確信をついた言葉に一瞬、場の空気が固まる。いや、周囲は依然として昼の都会の喧騒に包まれている。
「結局、お金振り込んだの?」
「……振り込んだって、……何にです?」
おいおい……出会って数秒後に、普通出る話題じゃねぇぞ……まさか……?
彼女のいい香りに包まれつつ、喉から声を絞り出す。
当たっていないでくれ、頼むから俺の予想とは別な方に……
「ん?エッチなサイトに。もっと深く言えば、ワンクリックに」
――周囲の空気が、固まった。
そして目の前が、真っ白になった。
「……なんで知ってるんだよ……ォ!!!」
自分のうめき声にも似た叫びは、高く、青い空へと吸い込まれていった――
みじめというか、可哀そうですねぇ。
どうも、遠坂です。
息抜き的に筆を進めていたら、
いつの間にか公開している作品は二つ、
未公開だけど執筆中なのが二つと
爆弾を抱えている気がします。
……せめて、せめて最初のバトルまで……
いや、まぁ、そこまで行ったら話はトントンで進んでいくと思いますしね……
それでは、また。