START OF THE DAY
小説初心者です。
だいたい中二病成分で構成されております。
現代の日本が題材です。
以上、それでもよろしいという方は、お読みください。
薄暗い、部屋の中。
四畳半の、部屋の中。
小型冷蔵庫のモータ音だけが支配する、殺風景な、部屋の中。
桐ダンスに乗せられた招き猫は埃をかぶり、
入り口脇にある、申し訳程度の流しには、
食べ終わったままのカップ麺の残骸が放置されている。
寒暖を操る類の物は、扇風機と石油ストーブだけ。
――それも、ゴミ箱と一緒に隅に置いてあるだけで、出しっぱなし。
畳まれた布団は、外の光をさえぎる様に窓際に積まれている。
テレビは一昔の型で、
脇と古びた木製ビデオデッキの中に、種類様々な雑誌が積まれていた。
部屋の中心のちゃぶ台に置かれた開きっぱなしのノートパソコン位が、
目新しい物――最近の文明の利器、だった。
と、……その部屋に、新たに音が加わった。
それは、パソコンのファンの音。
人知れずついた、ノートパソコンの電源。
誰にも触れられず、誰にも操作されず……いや、
≪意図的に操作されて≫、ついた電源。
薄暗い部屋が、明る照らされる。
数回、瞬きをするように画面が点滅したかと思うと、
モニタは、パスワード入力画面へ移行せず、
代わりにブルースクリーンになり、フリーズ。
チキチキと、ファンから妙な音が零れ、暫くすると、おおよそ人間には理解できない、文字、数字、記号の羅列が流れ始めた。
ちゃぶ台の上に乗ったノートPCは、
時折、危険なまでに激しくモーター音を鳴らせ、
画面一杯に、上から下へと『羅列』を流し続ける。
――壁に掛けられた針時計が、ともに頂点をさした時、
『Load complete……』
『羅列』が流れ終り、代わりに『文』が表示された。
『Language=Japan』
≪ポン≫という、跳ねるような、高い電子音とともに、『文』の続きが表示される
『……Confirming the transfer。Information disclosure』
そして、そのままこのPCの主である『男』のプロフィールも表示された。
『性:皇后崎 名:響耶 年齢:18 背番号:28.7.24.4971』
ふてぶてしい、顎鬚を生やした髭面の顔写真とともに。……ミディアムカットの黒髪と、半開きの黒目が日本人らしい。
『身長:178cm、体重:67kg、住所:復活都市……』
もっとも、ふてぶてしいのはその顔写真が学生証の物であるからか。
プロフィールには、三親等、学歴、前科――この場合は『彼』には無いが……といった、様々、ありとあらゆる『彼』――皇后崎響耶についての情報が載っている。
画面下に現れたゲージが、右から左へ一杯になると、
プロフィールは下から虫に食われるようなエフェクトとともに、消えた。
そして、
≪welcome to the world≫
一つの文章を表示し、まるでモーターが疲れ切ったかのように音を失っていくと、
画面がゆっくりと光を失っていき、
――完全に電源を落とした。
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再び戻った
冷蔵庫のモータ音だけが支配する世界。
しかし、それには変わった事が一点ある。
それは、モニターの中から生える、
一本の、ヒトの腕。
それはゆっくり、拳を握った。
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青年は、両腕一杯に、中身の溢れたビニール袋を抱え、スーパー西園寺の自動ドアを抜けた。
秋の柔らかい光に包まれながら、一歩足を踏み出す。雲一つない空が、蒼く高い。
もっとも、周囲は高層ビルに囲まれた、コンクリートジャングルだが。
青年のミディアムカットの髪の毛は、一切の整髪剤を使っておらず、
赤いTシャツを着こんだカッターシャツには、奥陵高校と、銘打たれていた。
黒いゴムパンの先には、古びた赤いバスケットシューズを履き、
いかにも高校生感を漂わせていた。
まぁ、すでに彼は高等科は修了しているのだが。
恐らく、服を買う金がないので制服を着たままなのだろう。
一歩踏み出したはいい物の、目の前を往来する人ゴミを見ると、抱えるビニール袋を見やり、青年は顔を顰めた。
袋には、Your seller saionji と、環状にプリントされており、
その輪の中には、やたら笑顔の、顔の四角い白髪の老人がプリントされてる。
リーゼントに、白いちょび髭が、苛立たしい。むき出した白い歯も。
「……ぁあ、この中歩くのシンドイな……」
営業中のサラリーマン、学校をさぼった高校生、買い物中のおばさん。
それらが織り成す人の海に、かさばる荷物を持って特攻とか、アリエナイ。
そう思考する自分は、皇后崎響耶。18歳。
今年、高校を卒業したばかりで……大学に行かずに親の元を離れ、新天地で生き抜いていこうとしている、冒険野郎だ。
そんな、取れたてのマグロのごとく、イキの良いピッチピチの高卒は、
コンビニでバイトしつつ、あこがれの一人暮らしを目下満喫中。
しかし、冒険野郎故か、将来の見通しは甘く、あわよくば、今のバイト先に正規雇用してもらおうと思っている始末だ。
……ちなみに、胸の内に秘めた将来の夢は、≪社長≫だ。
何かの社長ではない。≪社長≫だ。
小さい子供が、「ぼく、おおきくなったらシャチョーさんになる!!」
って言ってるアレと同じ、
≪社長≫だ。特に、何の社長といった、こだわりはない。
……そして、親という天敵存在のいない今。
水を得た魚のごとく、バイトで稼いだ金で、エロ本を買いあさる日々を送っていた。
もっとも、今日は食料品を買いに来ただけだが。
……しかし、メインイベントは、それでは無い。
もうすでに済ませてしまったが、
バイト先の後輩により引き起こされた、ちょっとした面倒の後始末が、メインイベントだった。
それは、
――有料エロサイトに、金を振り込こむ事。
そう、何故、有料と無料の差が大きいのか。
それは、きっと無料には無いエロスが有料にはあるんだと。
細かにジャンル分けされたなかでも、至高の作品が選ばれているのだと。
そうに、きまっている。
特殊コマンドを撃ち込まずに、
きっとあの邪魔者は消えるんだと。
画面を下から見ずに、スカートの中が見えるんだと。
このエロス、プライスレスではない。
このエロス、諭吉3枚だ。
しかし、心の清らかなヒトじゃなくとも乳首が見えると信じて、
そんな、桃源郷を夢見て、金を振り込んだのだ。
ギブ&テイク。その素晴らしい関係となるためにも――
――ワンクリック詐欺に。
遠くで、クラクションの音が聞こえる。
けたたましい、クラクション。
それは最初、一つの車から発せられる、単発的なものであったが、
時間がたつにつれ、それは
二重奏、三重奏、四重奏……と、
波が広がる如く、壮大な演奏会となって行った。
無秩序にならされているが、どこかリズミカルに感じるそれは、
一人と一匹に向かって、鳴らされていた。
若い兄ちゃんと、一匹の犬。
どうやら、愛くるしい犬が突如、その場……幾多の車が往来する交差点のド真ん中で、立ち止まったらしい。
――背中を丸めて、小刻みに震えながら。
……つまるところ、≪夢と希望と少年の思い出の残りカス≫を出そうというのだ。
――そう、それは大便。
人はそれを、≪現実≫と呼ぶ……
……じゃなくて、待ってくれ、待て。うん、そうだ。俺は別に、愛くるしい小型犬の公開便所もそれの羞恥心にもだえ苦しむ若者が見たいわけじゃない。
今俺の中でホットなニュースは、自分がワンクリに金を振り込んだ事だ。
「……」
立ち止まったまま、顔を抱えた荷物にうずめる。
……バカかと、思うかもしれない。ワンクリに金を振り込むなど。というか、実際バカだ。
高校の頃など、因数分解の事を、
「そっとしておいてやれよ、なんで自然のままじゃダメなんだ。そいつはすでに、式として、数字として成り立っているだろう?俺たちのくだらないエゴのために、分解なんてしちゃいけないんだ。10は、2×5じゃない。10は10なんだ。もともと、数字なんてモンは、終りの無いラビリンス、ネバーエンディングストーリーだ。つまり、10は、2と5を内包して、始めて10なんだ。それを曝け出さそうとするなんて……だいたい、2と5は、そんな簡単な奴らじゃないんだ。つまりどういう事かというと……(以下略」
とまで言っていたほどだ。
……まぁ、当時の担任の必死の努力によって、なんとかダブらずに卒業できたわけだが。
まさに、宇宙規模の奇跡。
それだけは感謝してもしきれない。ありがとう、銅八先生。
まぁ、その教師は俺が卒業した後、情報の時間中児童ポルノを楽しんでいたとして懲戒免職されたそうだが。
……で、
自分は別に、金を振り込む必要性は全く無く、
そのサイトのURLを教えてきたケンジという、バイト先の後輩を締め上げればよかったのだが、
結果自分はそのサイトに金を振り込んだ。……なぜか。
自分をいざ振り込まんと駆り立てた理由。それは……
……想像以上にそのサイトの出来がよかったから――だ
お試しと称されて出てきた動画は、今までで一番エキセントリックで刺激的で、
もぅそれはそれは。思わず尻を叩きながら小躍りしたほどだった。
……だから、諭吉先生に、サヨナラを言ってきた。
これがお試し程度なら、他のは一体どれほどなのかと思って。
そして、今月、――残り2週間を、
3千円で生き抜かなければならないことに気付き、絶望している。
はたして、塩パスタでも生き抜けていけるか。
……そして、そんな中、果たしてオトナの乗り物タクシーを使うしかないのかと、ボンヤリと自動ドアの前に立ち尽くしている訳だ。
どうあがいても、両手に荷物を抱え、この人ゴミの中を歩くのは、無理があり過ぎる。
サンマの群れにマグロが突撃するようなものだ。
はたして、同じヒト科の動物だからと言って、同化できるとは思えない。
水族館でも、小魚の群れに大型の魚が突撃すると、群れの隊形が悲惨なことになっている。
自分ははみ出物になって、
「俺は周りとは違うんだ。いや、むしろ、周りが俺の素晴らしさに置いてきぼり……」
というような、厨二病時期は、もう終わった。
これは、本格的にオトナな乗り物に乗るしか……
絶望を抱きつつ、顔を埋めるのを止め、前を向く……と。
往来する人皆が妙な顔をして見てくるのに気が付いた。
――なるほど。ずっとスーパー前で立ち止まったまま、袋に顔を埋めたりと奇行を行っていたら、そりゃ注目を浴びるわな……
「……ぅう」
……よく考えれば、タクシーに乗るほどの金の余裕があれば、ゲームかエロ本に回した方がいい。
貯金という言葉を知らない男は、結果、そのままいても店の迷惑だし、仕方ないので人ごみの中を歩く事にした。
……予想通り、抱えた荷物が人にぶつかりまくり、はみ出した缶詰などが、数回落ちたが、
そのたび周囲の人が拾ってくれたので、当初予想した『取ろうとしゃがんで荷物ダバァ』な事にはならなかったのは、実に僥倖だった。
「……ぁ、すみません、ありがとうございます」
どうも、初めまして。
遠坂浮雲です。
大体見切り発車なこの作品。
文章拙く、読みにくいところも多々あるかとは思いますが、
宜しければどうぞ、ご愛読してください。
では。