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ひかるこうら短編集

ゲームでここまでやんなくったっていいじゃない

 現在からだいぶ時を進めた未来。

 といっても、現在の社会とはほとんど変わりなく、国形態もほぼ同じ・経済も現在と変わらず相変わらずどこも景気が悪い・大した戦争も起きていない。強いて言えば技術は進歩していたということだろうか。


 そんな未来である時、皆が求めて止まなかったVRMMORPGというジャンルのゲームが発売されることになった。このゲームは専用のベッドに寝転がり、目を瞑ればVRの世界に入ることができるものだ。


 そのゲームはいわゆるネット小説で書かれてきたようなRPGだった。様々な職業に就くことができ、様々なプレーヤーと協力しながらクエストをこなしていく、というものである。このゲームは『リアルファンタジーオンライン』というどうしようもないタイトルだったが、初のVRMMORPGというのと、公式HPで紹介された数々の情報により注目を集めた。


 この話は、そのゲームのβテストに運よく参加できることとなった主人公のゲーム体験記である。





 ■■■


 俺は三条(さんじょう)(まこと)、またの名前をサードという。俺は枯れ果てた荒野で仲間と共に剣を構え敵と対峙した。敵はとぐろを巻く大蛇だった。その蛇はシャーと口を広げて威嚇していた。


 俺も仲間も、敵の蛇も無傷ではない。互いにいくつもの傷を抱えていた。

 俺は痛みを抱えながら、剣を支えとした。あと少しで、敵の蛇を倒せるだろう。

 後少し、それだというのに俺は痛みに屈しそうになった。



 なぜなら……


 「くっそ、なんで毒状態でこんなに腹が痛いんだよ」

 「仕方ねぇだろ……それがこのゲームなんだからよぉ」

 「もっと毒消し買ってくるんだったぜ」


 そう、僕らはみんな毒状態に悩まされていた。

 普通のゲームの毒状態は継続ダメージを受けるとかだろう。正直そこまで辛い状態異常ではないのだが、これがVRとなると話は変わってくる。というより、このゲームだとかなり様相が変わる。

 このゲームの毒状態は継続ダメージはもちろんのこと、まるで下痢のような感じになる。お腹がぎゅるると音を立てて収縮し今にもトイレに駆け込みたくなるのだ。しかしこの状態は毒消しとかでしかすぐに解消しないのだ。時間が経てば自動的に治るのだが、すぐに治す方法は限られていた。少しの間なら我慢出来るのだが、毒消しが尽きたような今の状態になると……


 「戦闘に集中できねぇ!」

 「あの蛇の小馬鹿にした顔がむかつくわー」

 「今すぐにでもログアウトしてトイレに駆け込みたくなるんだけど…!」


 俺達は今もHPを削ってくる毒ダメージよりもお腹に抱える痛みの方がずっと辛かった。早くこの身を蝕む痛みをどうにかしたかった。そして、毒状態にした蛇のことを何よりも憎んだ。


 「お前なんてさっさと消えちまえ!」


 そして、俺達は怒りを蛇にぶつけ、なんとか戦闘を終わらせ足早に街へ帰った。正直毒消しが尽きた状態でこの場にいることは無理だった。腹痛はもうごめんです。




 ■■■


 『リアルファンタジーオンライン』。その名の通り、ファンタジーの世界の中まるでそれがリアルであるかのように感じられるゲームである。目に映るものは、これがゲームであるとは気付けないほどの解像度を誇り、音声・匂い・感触・はたまたは第六感までもが完全に再現されているのである。

 そんなゲームにおいて、製作陣が面白半分に状態異常を設定した。例えば、状態異常『酔い』がある。これは酒アイテムを服用した場合に発生し、現実通り酩酊し飲みすぎると泥酔してしまう。他には『箪笥の角に小指を打ち付けたような状態』という状態異常がある。足払いを仕掛けてくるモンスターからの攻撃などで発生し、この状態異常にかかると激痛が走りしばらくまともに歩けなくなるのである。

 さすがにこれはやりすぎだと言ってクレームが出たが、このゲーム会社は『たしかにやりすぎと感じられるかもしれないが、これは現実でも起こることだし限度はちゃんと考えてある。ショックにならない程度に調節してある』と回答した。それにより人気が少し落ちたが、それは仕方ない。

 話によると最初の段階では、『骨折』や『部位欠損』などの状態異常もあったらしい。さすがにやりすぎだと考えてなくなったそうだが、それ以外もやりすぎの感は否めない。

 それでも、俺はこのゲームをやめることなんて考えなかった。それだけこのゲームの“リアルさ”に惹かれていたのだ。


 でも、やっぱり……


 「状態異常にかかるもんじゃないな」


 俺は絶賛状態異常『麻痺』にかかっていた。

 麻痺にかかると体が重くなる。咄嗟になんか動けやしないし満足に腕を振ったりできない。それだけでなく、体が重くてまるで自分の体じゃないように思えてくる。幸い声だけはまともに出せるのだが。


 「早く麻痺直し使ってくれ」

 「はいはい」


 麻痺攻撃をしてくるモンスターをすべて倒し仲間が俺に麻痺直しを使ってくれる。それで俺の体から痺れは取れ体がすっと軽くなった。


 「それにしても一々凝りすぎだよな」

 「あぁ……やべっ、もう少しで飢餓状態になるところだったぜ、早く食べ物食べなきゃ」


 状態異常『飢餓』というものもあり、食べ物をしばらく食べていないと発生する状態異常でものすごいおなががすくのだ。やる気がなくなるくらいに。



 「それでも止められないよな」

 「もしゃもしゃ……えっ、何が?」

 「このゲームが、さ」

 「まだβテストだけどな」

 「発売が楽しみだぜ」

 「あぁ!」


 俺達はそれから再び道を進んでいくのだった。


 「くそっ、今度は状態異常『ものもらい』かよ!目がかゆい!」





 余りにもクレームが多すぎて、修正のためゲームの発売が延期したというのは後の話である。

 何事もやりすぎはいけない。

 ゲームはあくまでもゲームでないと。




 

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