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第43話 試合終了

 ――10月中旬。

 爽やかな秋晴れの下、いよいよ因縁のF大PIRATESとの最終戦の日を迎えた。

 ここまで全勝中の2チームによる、事実上の優勝決定戦。

 客席は他校のアメフト部員をはじめ、沢山の観客で埋まっていた。


 試合開始直前、チーム全員でいつも試合前に行っている円陣を組む。

 背番号が書かれた光沢のある黒のジャージ、シルバーのパンツ。凛々しいユニフォーム姿のみんなが、章吾先輩、司先輩、そして相馬先輩を中心に体を寄せ合う。

 今までにない緊張感と昂揚感のなか、章吾先輩が気迫のこもった眼差しで全員の顔を見回した。


「いいかお前ら! 創部五年目にしてとうとうここまでたどり着いた! 全員持てるものすべてを出しきり奴らを潰せ! 目指すのものはただ一つ、全勝優勝のみ!」

「「「おぅ!!」」」

「行くぞっ!!」

「「「ウォォォォー!!」」」

 全員で空を指さし、叫んだ。



 試合は予想通り、全く気の抜けない緊迫したものとなった。

 第1クォーター、S大BLACK CATSは相馬先輩へのロングパスで先制点を得たものの、F大PIRATESも得意のパス攻撃ですぐさま同点に追いつく。

 第2クォーターではF大PIRATESが先にランで得点を加え、その数分後に今度はS大BLACK CATSが司先輩のランで同点に追いついた。

 第3クォーターは双方ともに無得点。


 そして迎えた、最後の第4クォーター。

 開始直後にF大PIRATESがロングパスでタッチダウンを決め、その後のトライフォーポイントは失敗。6点が加算されて現在の得点は14対20。

 タッチダウン1つ分の僅差ではあるけれど、F大ラインの壁は厚く、なかなかそのチャンスを与えてくれない。

 時間ばかりが過ぎ、焦りと疲れで少しずつみんなの動きが精彩を欠きはじめた。


 S大BLACK CATSオフェンス、ファーストダウンの攻撃で残り10ヤード。

「セット! ハットハット!」

 QB山下先輩がセンターからボールを受け取り、素早く後ろに下がる。

 前方へと走りこんだレシーバーにパスを投げようとするけれど、レシーバーにはぴったりとF大のディフェンスが張り付いていて投げられない。

「危ない!」

 ライン際の攻防から抜け出したF大ディフェンスが、山下先輩めがけて突っ込んでくる。

 激しく倒された山下先輩の手からボールがこぼれ、それをF大の選手がすかさず抑え込んだ。

「ターンオーバー!」

 ボールを奪われてしまったので、この地点で攻守交代だ。

 F大の選手が力強くガッツポーズをし、ベンチから大きな歓声が沸きあがる。


「まずいな。ここで交代か」

 間宮君が喜びに沸くF大ベンチを睨む。

「うん、時間が厳しくなってきたよね……」

 両チームとも、ディフェンス、オフェンスが入れ替わる。

「すみません!」

 ベンチに戻ってきた山下先輩が頭を下げた。

「気にするな、つぎ必ず取るぞ!」

 泰吉先輩が励ますように背中を叩き、これからの攻撃について話し始めた。


 フィールドではF大PIRATES の攻撃が始まった。

 今年のF大は肩が強くコントロールのいいQB二宮さんを中心とした、ロングパスを得意とするチームだ。

 二宮さんはかなりの俊足で、自らが持ってのランも巧みに織り交ぜてくる。


 F大オフェンスのファーストダウン、セカンドダウンの攻撃はともに時間をたっぷり使ったランプレー。

 ディフェンスのみんなの頑張りでほとんど前進を許さなかったものの、残り時間はどんどん減っていく。

 ベンチにいるみんなが何度も時計に目を向け、残り時間を確かめる。

 ――章吾先輩、育太、みんな頑張れ! お願い、できるだけ早く止めて!


 F大PIRATES サードダウンの攻撃。残り8ヤード。

「セット! ハット!」

 F大QB二宮さんがRBに渡すふりをして大きく下がり、WR(レシーバー)が走りこむのを待ってボールを投げる。

 F大の得意とするロングパス。決まれば一発タッチダウンかというところだったけれど、ギリギリのところで二年生DB(ディフェンスバック)の今田君がボールをはじき、それを阻止した。


「よっしゃあ!」

「今やん、ナイスカット!!」

「いいぞ、今田!」

 ベンチのみんなが声を出して盛り上げる。


 いよいよ、最後のフォースダウン。

 F大のファーストダウン獲得までは残り8ヤード。タッチダウンがとれるエンドゾーンまでは、残り26ヤード。

 普通はフォースダウンの終わった地点で攻守が交代してしまうため、ここは攻撃をあきらめパントでボールをけり、できるだけ遠くから敵の攻撃を開始させようとすることが多いのだけれど……


「フィールドゴールを狙う気だ」

 ディフェンスの侵入を阻止するため、F大PIRATESキックチームの選手たちが緩い円を描くように横一列に並ぶ。

 それに守られるように、7ヤードほど後方でホルダーと呼ばれるボールを地面に置く役目の選手が膝をつき、さらにその少し後ろにキッカーが構えた。


 試合終了まで、残り約2分。

 ここで3点の追加点を許してしまうと、タッチダウン一つでは追いつけなくなるため、逆転するのはかなり難しくなる。

 ベンチのみんなが固唾をのんで見守る中、ホルダーの合図でスナッパーが股の間からボールを大きく後ろに投げ渡した。

 章吾先輩、育太、雄大君たちがキッカーへプレッシャーを与えるべく猛烈な勢いで突っ込むけれど、間に合わない。

 F大のホルダーがキャッチしたボールを素早く地面に置き、キッカーが高々と蹴り上げた。


 ――お願い、外れて!!

 ボールはぐんぐん伸びていく。

 それはわずかにゴールポストを逸れ、地面に落ちて大きくバウンドした。


「やった!!」

「よっしゃ! 行くぞっ!」

 オフェンスのみんながフィールドに飛び出していく。

 大丈夫、まだ勝つチャンスは十分にある! ここからは時間との戦いだ。


 S大BLACK CATSオフェンスのみんなが、サイドへのラン、そしてタイムアウトなどを使い、上手く時計を止めながらファーストダウンを更新する。

 思うように阻止できない焦りからか、今度はF大PIRATESディフェンス陣にほころびが出始めた。

 

 S大BLACK CATS セカンドダウンの攻撃、残り4ヤード。

「セット、ハット!」

 パス攻撃の時によく用いられる、ショットガンフォーメーション。

 あらかじめセンターより少し下がったところでボールを受けとったQB山下先輩が、全力で前へと走る相馬先輩めがけ速いパスを投げる。

 敵のマークを振り切った相馬先輩がめいっぱい手を伸ばしてそのボールをキャッチし、ディフェンスに倒される直前にサイドラインから外へ出た。


 ベンチと観客が、わっと沸き返る。

「相馬先輩、すごいっ!! ナイスキャッチ!」

「あぁ、これは本当にいけるかもしれない!」

 またファーストダウンを更新し、エンドゾーンがぐっと近くなる。

 時計が示す残り時間は、もうたったの18秒。

 それでも点差はわずか6点。最後の瞬間まで、結果は誰にも分からない。


 S大BLACK CATSオフェンス ファーストダウンの攻撃、残り10ヤード。

「セット! ハットハット!」

 山下先輩がセンターからボールを受け取り、後ろに下がる。

 守が右サイドに走って敵ディフェンスをブロックする。

 自分よりずっと体の大きい相手を必死に食い止める守の横を、山下先輩からボールを受け取った司先輩が素早くすり抜けた。


「行けっ、司!!」

「抜けろっ!」

 オフェンスのみんなが司先輩のため、全力で敵を食い止める。

 司先輩が巧みなカットで敵をかわし、倒れこむ選手を飛び越え、ただ前へと突き進む。

 執拗なマークとエースに課せられるプレッシャー。そのすべてをはねのける最高の走りをしっかりと目に焼き付けておきたいのに、どうしても涙が止められない。


 ――あぁ、すべてはここから始まったんだ。

 この走りに魅せられて。大切な居場所と、仲間を得て――


「頼む、司!」

「行けっ、抜けろ!」

「司先輩、取って!!」

 ベンチのみんなが声を張り上げる。

 先輩が最後のディフェンスをかわし独走態勢に入る。そしてそのまま、エンドゾーンに駆け込んだ。


「よしっ!!」

「やったぁ!!!」

 めずらしく喜びを露わにした司先輩めがけ、オフェンスのみんなが大声を上げて飛びついていく。


 これで20対20の同点。もしこのまま引き分けに終われば、2校同率優勝ということになる。

 もう時間はほとんど残っていない。

 逆転して単独で全勝優勝を決められるか、引き分けで2校同率優勝に終わるか――

 すべては、小太郎のトライフォーポイントにかかっている。


「小太郎、頑張れ!!」

 あれだけ練習したんだもん。落ち着いていつも通りにやれば、絶対決まる!


 会場にいるすべての人の視線を一身に受け、小太郎が落ち着いた様子で位置につく。

 F大PIRATESの選手たちが何としても止めようとプレッシャーをかけてくる。

 スナッパーの投げたボールをホルダーが素早く地面に置いた瞬間、小太郎が綺麗なフォームでそれを蹴り上げた。


「入れ!!」

「お願い、入って!」

「いけっ!」

 綺麗な弧を描き、ボールがゴールポストのど真ん中を通過する。

「「「ワァァァァー!!」」」

 歓喜の声が、晴天の大空へと響き渡った。



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