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第37話 戦線離脱

 8月下旬。章吾先輩たち4年生にとって最後となる秋季リーグ戦がいよいよ開幕した。


 昨シーズンはF大相手に念願の初勝利を収めたものの、その後司先輩以外にもけが人が続出したため、リーグ優勝は惜しくも逃してしまった。そのせいもあり、今季の目標はもちろん初のリーグ優勝だ。


 2試合を終えた今現在、司先輩への激しいマークにも負けずランとパスをバランスよく織り交ぜた攻撃で得点を稼ぎ、全勝をキープ中。

 今日のK大GOLD LIONS との試合を含め、残すはあと3試合。その最後を締めくくるのがS大最大のライバル、F大PIRATESとの一戦だ。


 試合開始時間になり、心地よい緊張感のなか試合が始まった。

 今日の対戦相手K大GOLD LIONS は、去年の主力選手の大半が卒業してしまったため、今年はかなり戦力的に厳しい状況となっている。

 その力の差を見せつけるように速いテンポでS大BLACK CATSの攻撃が進められていき、前半終了時点ですでにかなりの点差をつけていた。


 ハーフタイムを終えた、第3クォーター。

 この後半はT大のキック、私たちのリターンでプレー開始だ。


 T大のキッカーが高く蹴り上げたボールを間宮君が上手くキャッチし、周りのみんなに守られるようにして敵陣めざして走りだす。

 ボールを止めようと突っ込んでくるT大の選手を、育太や章吾先輩たちが闘志をむき出しにして排除していく。

 間宮君の少し前を、その盾となるべく司先輩が突き進んだ。


 ――すごい。間宮君、また上手くなってる。

「行け、間宮!!」

「あと少し!!」

 司先輩がブロッカーとなり走路を切り開く。その後ろをすり抜けた間宮君はさらに何人かをかわし、ゴールライン目前で敵のタックルに止められた。


「ナイスリターン!」

「すげぇ、間宮!」

 沸き起こる歓声の中、間宮君が先輩たちにメットやショルダーを叩かれ賞賛を受ける。


「しかし惜しかったなー! あと少しでキックオフリターンタッチダウンだったのに!」

 守が興奮したように言って、フィールド上の間宮君へと声援を送る。

「本当だよね! あと何ヤードだろ……5ヤードかぁ」

 リターンチームのうち数名がベンチ戻り、代わりに泰吉先輩からの伝令を受けたオフェンスメンバーがフィールドにいる仲間の元へと向かう。

 この後は、さっきボールが止められた地点から私たちBLACK CATSオフェンスの攻撃が開始されることになる。

 タッチダウンまで、あとたったの5ヤード。


 山下先輩を中心にハドルを終えたみんなが手を叩き、急いで自分の配置に向かう。

 ファーストダウンの攻撃は、Iフォーメーション(アイフォーメーション)でいくみたい。


 オフェンスラインの先輩たちが横一列に並び、その左サイド一番奥にレシーバーで副将の相馬先輩。逆の右サイドの端、一歩下がったところに2年生レシーバーの深田くん。

 そしてオフェンスラインのほぼ中心、センターの選手の真後ろにQB山下先輩。その少し後ろに間宮君、さらに後ろに司先輩が縦一列に並んだ。

 このフォーメーションって、オフェンス全体の配置を上から見るとアルファベットのTの字みたいに見えるんだけど、QBとRB二人が縦一列に並ぶところからIフォーメーションと呼ぶらしい。


「セット ハットハット!」

 QB山下先輩がセンターの股の間からボールを受け取り、素早く後ろに下がる。

「行け、間宮!」

「突っ込め!」

 間宮君が山下先輩とすれ違いざまボールを受け取り、そのまま一直線にラインにあいた穴へと飛び込む。少し前進したけれどその後大きく押し戻され、結局1ヤードのロスになった。


「あー、ダメか!」

「頑張れ、間宮君!」

 息つく暇もなく、次のハドルへ。

 セカンドダウン、残り6ヤード。

 今回もQB山下先輩とRB間宮君、司先輩が縦一列に並ぶIフォーメーション。


「セット ハットハット!」

 QB山下先輩がセンターからボールを受け取り、素早く下がる。

 レシーバーの二人はそれぞれ左右からエンドゾーンをめざし、間宮君も山下先輩とすれ違うように右前方へ。

 司先輩が山下先輩からボールを受け取ったふりをしてディフェンスを引き付ける。

 その隙に山下先輩がエンドゾーンめがけて鋭いパスを投げ、振りむいた間宮君がそれを危なげなくキャッチした。


「やったぁ! 間宮君、初タッチダウン!!」

「よしっ!!」

 6点が加算され、34対0。

 タッチダウン後に与えられる追加点のチャンス、トライフォーポイントのキッカーはもちろん小太郎だ。

 きれいな弧を描いたボールは二本のゴールポストの間、サイドバーの上を通り、さらに1点が追加。35対0となった。


「お疲れ様です!」

 戻ってきた先輩たちに、お水の入ったボトルを配る。

 足を痛めたらしい中野先輩が、ほかの先輩に支えられるようにして戻ってきた。

「中野先輩、大丈夫ですか!?」

「イテテテテ! つった!」

 地面にごろりと寝転がった中野先輩の足を一年生がつかみ、ストレッチをする。

「香奈ちゃん、悪いけどコールドスプレーとって!」

「はい」

「おい、テーピング!」

「あっ、はい! 今行きます!」


 あちこち慌ただしく動き回るうちに、時間はどんどん過ぎていく。

 隙を見て、一年生と一緒に急いでお水を汲みに行く。その帰り道、フィールド上に人が集まり誰かが担架に乗せられているのが見えた。


「あれ? うちのチームの選手ですね」

「……間宮君!?」

 お水を抱えたままベンチまで走る。

「どうしたんですか? ……間宮君!!」

 担架で運ばれてきた間宮君が、膝を抱え痛そうに顔をゆがめていた。


「おい、足伸ばせるか?」

 いつの間に来ていたのか、OBの清田元主将が怪我した方の足に触れ様子を見る。

「くっ……!」

 動かそうとした間宮君が、苦しげな声を漏らした。

「すぐ病院に行った方がよさそうだな。章吾、俺が車を出そうか?」

「すみません、よろしくお願いします。香奈、お前もついて行け。詳しい状態がわかったら電話しろ」

「はい!」


 フィールドでは、今も司先輩たちBLACK CATSオフェンスの攻撃が続いている。

 ――みんな頑張れ。どうかこれ以上、ケガ人など出ませんように……。

 急いで自分と間宮君の分の荷物を用意すると、間宮君に肩を貸すOBの先輩たちと一緒に駐車場へと向かった。


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