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第19話 新歓コンパ(2)

 間宮君の笑いがやっと治まった頃。

「楽しそうだな。みんな飲んでるか?」

 柔らかな声に顔を上げると、相変わらずスーツの良く似合う小太郎が、ビール瓶とお茶のグラスを手に立っていた。


「小太郎先輩!」

「俺も参加させてもらってもいい?」

「はい、もちろん!」

 小太郎が空いていた私の隣に腰を下ろす。

「香奈ちゃん、大丈夫?」

「ん、何が?」

「今日はゆっくりペースで飲んでいるみたいだったけど、もうそろそろ止めといた方がいいよ。ほらお茶」

「あ、ありがとう」


 本当に優しいなぁ、小太郎って。

 去年もたしか、先輩たちに思いっきり飲まされて弱っているところを小太郎が救出してくれたんだよね。司先輩の所に避難させてくれて、お茶もとってきてくれて……。

 この一年、もう何度酔っ払って迷惑をかけたか分からないというのに、いつだって変わらず気にかけてくれる。

 こんなに格好良くて優しい人はなかなかいないよ。それなのにどうして彼女を作ろうとしないんだろう。小太郎はコンパに誘われてもすぐに断ってしまうって、前に聞いたことがあるけれど。


「なんか香奈先輩と小太郎先輩って仲いいですよね。同じパートのせいかなって思ってましたけど、実は香奈先輩の彼氏って部外の人じゃなくて小太郎先輩だったりするんじゃないですか?」

「そうだったら嬉しいんだけど、残念ながら違うんだよね」

 三村君の問いかけに、小太郎がくすりと笑って答える。

「俺の口から誰とは言えないけど、男の俺でも惚れそうなぐらいのすごい人だよ。ね、香奈ちゃん」

「……小太郎?」


 1年生以外のみんなが知っていることとはいえ、口の堅い小太郎がこんな風に話を振ってくるなんてめずらしい。ちょっと酔っているのかな?

 もう望ちゃんたちはいないのだから、先輩とのことを隠す必要はないのかも。だけど私が言った『部外の人』って嘘をみんないまだに信じてくれているだけに、本当のことを言いにくい。

 それに――

 あの女の子3人組や先輩たちに「ブサイク」「パシリ専用」と評される私の相手が司先輩だなんて知ったら、みんなはどう思うんだろう。

 司先輩は私だったから付き合いたいと思ったって言ってくれたけれど、きっとみんなは『何で香奈先輩と?』って驚くよね……。


「私のことよりさ、小太郎はどうして彼女作らないの? 絶対めちゃくちゃモテるはずなのに」

「あ、俺の話に逃げたな」

 小太郎が苦笑する。

「そう言えば、小太郎先輩は大学に入ってからずっと彼女つくってないって聞きましたよ。どうしてですか?」

 どうやらこの手の話が大好きらしい三村君が、興味津々な眼差しで問いかける。

 小太郎はしょうがないな、とでも言いたそうな表情で頬杖をついた。

「うーん……付き合いたいと思うほど好きになれそうな人がいない、って感じかな」

「小太郎先輩なら、コンパに行けばいくらでも出会いがあるんじゃないですか?」

 間宮君の言葉に私も大きく頷く。

 あるある。いくらでも出会いがあるはず。むしろどの子でも自由に選べるって感じだよ。


「出会いはあるかもしれないけど、今はそういう気分じゃないから。――それより聞いたぞ、三村。お前大学入って1カ月足らずで、もう3回もコンパ行ったんだって?」

「えっ! なんでそれを!?」

「お前に参加を断られた腹いせに、守がみんなに言いふらしてたよ」

「げっ! 守さーん、勘弁してよ! だから最近、先輩たちにやたらとコンパ持って来いって言われるのかぁ」

 あらら。こんなところにも守のわがままの被害者が。


「どうして守のことを断ったの?」

「守さん一人をオッケーしたら、多分他の先輩たちにも連れて行けって言われるんじゃないかと思ったんですよ。さすがに入部したての部活の先輩たちと一緒じゃ、緊張して楽しくコンパができません」

「なるほど。――それにしても、断られた腹いせに言いふらすって」

「さすが守って感じだよな」

 あまりにも子供っぽい行動に、小太郎と二人して笑ってしまう。

 部屋を見回しその姿を探すと、守はご機嫌な笑顔で一年生にお酒を飲ませていた。





 中華料理店での1次会が終わると、今度は大学の近くにあるカラオケ店へと移動することになった。

 団体向けのパーティルームの中では、完全にお酒の回った部員たちが派手にお祭り騒ぎをしている。

 人気アイドルグループの曲を完璧な振り付けで踊る先輩たちと、なぜか上半身裸でネクタイを締め、声援を送る部員たち。新入生のうち数人はすでに限界をむかえたらしく、ソファーで丸くなって眠っている。

 こんな光景はきっとどこの部の飲み会でもよく目にするものなのだろうけれど、その可愛らしくウインクして腰を振っているアイドルですら100キロ級のマッチョたちなのだから、迫力満点だ。


「おい香奈、来い! お前にセンターの座を譲ってやる!」

「遠慮しときます!」

 しつこく絡んでくる先輩たちから逃れ、部屋のすみっこへと移動する。

 まだ終わらないのかと何度も時間を確認していたけれど、ほろ酔い加減のせいかだんだん眠たくなってきた。

 必死にあくびをかみ殺すけど、瞼が重くて今にも目を閉じちゃいそう。

 ちょっと散歩でもして眠気を覚まそう――そう決めると、目立たないようにこっそりと部屋を出た。


「うーん、あまり飲みすぎないように気をつけたつもりだったけど、そこそこお酒が効いているのかなぁ? ふわぁぁぁ」

 静かな廊下に出て思いっきりあくびをすると、あてもなくぶらぶら歩きだす。

 時折ドアのすきまから聞こえてくる調子はずれな歌声を楽しみながら、お店の中をぐるりと一周。トイレに寄って冷たいお水で手を洗ってみたりしたけれど、やっぱりあまり効果はなかった。


「……もう無理。今すぐ帰ってお布団に入りたい」

 あきらめてあのハイテンションな部屋に戻ろうかとも思ったけれど、静かな通路に白いベンチが置いてあるのを見つけ、そこに一旦腰を下ろす。


 ――2次会、何時までだったっけ? 3次会はさすがに勘弁してほしいなぁ。でも先輩たちはまだまだ余裕そうだったし、きっと一緒に連れて行かれちゃうんだろうなぁ……。

 大きなあくびをして、ずるずると背もたれに寄りかかる。

 どうにも抗いがたい睡魔に負けて、少しだけ、と目を閉じた。





 ―――――………‥・

「―――香奈」

 心地よい眠りから、わずかに意識が浮上する。

 誰か……呼んだ?

 そう思ったのも一瞬で、また引きずり込まれるように、深く、深く意識が沈んでいく。


 今度は頬を、ひんやりとした何かが滑る。

 やだなぁ、まだ寝ていたいのに……。

「ん……」

 逃げるように顔をそむけると、ふっ、と誰かが笑ったような吐息。

 そして、唇に柔らかなものが重なった。


「せん…ぱ……?」

 重い瞼をこじ開ける。

 視界に映ったのは、互いの息がかかりそうなほど間近で見つめてくる綺麗な瞳。

 だけどそれは――私が思っていた人のものじゃない。


「……間宮、君? ……えっと……なんで?」

 今、確かに触れたよね?

 震える手で、自分の唇を押さえる。


 次の瞬間、ものすごい音をたてて間宮君が壁に激突した。


◎ここで質問です。間宮駿を吹っ飛ばしたのはだれでしょう。


1 司

2 育太

3 小太郎

4 雄大

5 まさかの泰吉


……すみません、ちょっと遊んでしまいました。

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