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第3話 余計すぎるおせっかい

 アフターの練習もひと段落つき、ベンチへと飲み物を取りに戻る。

 いつの間にか先輩の姿が見えなくなっていたことに気付き、近くにいた小太郎へ問いかけた。


「ねぇ小太郎、司先輩どこへ行ったか知ってる?」

「さっき、先に上がるって言って帰ったよ」

「えっ、ほんとに?」

 先に帰っちゃうなんてめずらしい。いつもだったらRBの後輩全員が上がるまで、どんなに遅くなっても待っていてくれるのに……。


「ねぇ、小太郎。司先輩、やっぱりさっきの守とのことをまだ怒っているのかな?」

「うーん、怒っているっていうのとは、少し違うと思うけど……」

 小太郎がはっきりしない言い方をして、苦笑する。


 あの冷たい表情……怒っているんじゃないのなら、呆れていたのかな。

 守とふざけて遊んでいるように見えちゃった? ――ううん、多分違う。司先輩は真面目な人だから、私が部活に恋愛を持ち込むのが嫌なんだよね。

 『いちいち男の裸を見たぐらいで顔を赤らめるな』って言われたんだから、司先輩を意識しすぎて赤くなっちゃったのが、いかにも「私は女の子です」「先輩が大好きです」って言っているみたいで嫌だったのかな?


 ――どうしよう、へこんできた。こんなことしてたら、やっぱり部内恋愛は無理って言って振られちゃうかもしれない。


「ねぇ、小太郎。どうしたら赤くならないようになれると思う?」

「いや、香奈ちゃん。たぶん問題は――」

「おい香奈、これを見てみろ」

 泰吉先輩の声に振り向くと、先輩がなぜか守のシャツを捲りあげて立っている。

「これって、これですか?」

「いでっ!」

 守のポコンと飛び出たお腹に指をさす。

「やっぱり何ともないな。じゃあこれは?」

 泰吉先輩が今度は小太郎のTシャツを胸の上まで捲りあげる。

「うわ、小太郎ますます腹筋割れてきたね! ……じゃなくて。泰吉先輩、何がしたいんですか?」

 意味が分からず問いかけると、泰吉先輩がやっぱりなといった顔で頷き、ニヤリと笑った。


「香奈、お前エロいな」

「え?」

「お前、今はもう司の裸だけがダメなんだろ?」

「そっ、それは!」

「なに思いだしてんだか知らねーけどよー」

「ぎゃっ! そんなこと言わないでくださいよ! 泰吉先輩のエッチ!!」

「いやだから、エロいのはお前だって」

 エロいのか? 私ってエロい女だったのか!?

 そ、そう言えば最近、司先輩とのアレコレを思い出して、一人で興奮したり叫んだりしちゃってるかも!?


「司のだけなら簡単な問題じゃねぇか。つまんねぇことで落ち込むな。オラさっさと上がるぞ、急げ!」

「え、でも荷物が」

「小太郎、後で持って来いよ!」

「はい」

 相変わらず苦笑いの小太郎に見送られ、泰吉先輩に引きずられるようにして部室へと急いだ。






 泰吉先輩と一緒に部室に駆け込むと、ちょうどそこでは部室棟内のシャワーを浴び終えた部員たちが着替えの真っ最中だった。

 上半身裸で腰にタオルを巻いた先輩たちが、次々と部室に帰ってくる。


「ふん。間に合ったようだな」

「間に合ったって、何にですか?」

 私からの質問など当然のごとく無視し、泰吉先輩が右手を差し出す。

「香奈、お前の携帯出せ」

「携帯?」

 深く考えることもなく、ジャージのポケットを探り先輩に手渡す。

 受け取った泰吉先輩は、なぜか手慣れた様子でカメラ機能を操作し始めた。

 なんだろう……なんだかすごく、嫌な予感が。


「や、やっぱり返して下さい」

「うるせぇ、触んな!」

「嫌です! お願いですから返してくださいよー! ――いっ、痛たたたた!!」

 先輩の脇にがっしりと頭を挟まれ、身動きが取れなくなる。ちょうどその時ドアがガラッと開き、シャワー帰りの司先輩が部室に入ってきた。

 司先輩は泰吉先輩にヘッドロックされる無様な私に冷たい眼差しを向けたあと、そのまま無視するように着替え始める。


「ちょ、ちょっと泰吉先輩! 痛いですって!」

「しっ! うるさい揺らすな! 撮れねぇーだろうが!」

 騒がしい部室の中、なぜか小声になった泰吉先輩となおも争っていると、カシャンという小さな音……これって、まさか?


「よし香奈、とりあえず出るぞ」

「い、痛い痛い!」

 また引きずられるようにして部室を出る。

 少し離れた場所まで来ると、泰吉先輩が携帯を覗き込み満足げに笑った。

「ふん。上出来じゃねぇか」

「こっ、これは!」

 そこに写っていたのは、物憂げな顔で着替えをしている司先輩の姿。

 無造作にかき上げられた、濡れた髪の毛。

 惜しげもなくさらされる、引き締まった裸の上半身。

 履きかけのジーンズはボタンが止められておらず、セクシーすぎる腰のラインが思いっきり見えている。


 ――うわぁ、ま、まぶしい! カッコよすぎて直視できないよ!

 それになんだか……すごくエッチじゃない? コレ。

 思わず、ごくりと唾をのむ。


「これを毎日眺めてりゃ、嫌でも平気になるだろう?」

「で、でも泰吉先輩、これきっと犯罪ですよ? 盗撮ですよね!? 早く消さなきゃ!」

「おい、絶対消すんじゃねーぞ! だいたい自分の男の写真撮って、なんで犯罪になるんだよ。ナニが写ってるわけでもあるまいしよー」

 ひいっ! ナニって何だ!

「でもでも、司先輩に見つかったときになんて言えば!?」

「ばーか。こういう時の決まり文句は一つだろ?」

「決まり文句?」

 首を傾げた私の前で、泰吉先輩がニヤリと笑う。

「つい出来心で、だ」

 そんなぁ!



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