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第13話 新歓コンパ(2)

「香奈のヤツ完全に潰れたか。しかし、今時男の裸見たぐらいであんなに叫びまくる女がいるとは驚きだな」


 泰吉先輩が楽しそうに笑う。

「趣味悪いですよ。来年にはこの伝統消えますから」

 もともと酔うと脱ぎたがる先輩がいたからこそ生まれた伝統だ。あの人たちが卒業すれば、もう誰もやろうと思うものはいないだろう。


 トイレに平川を担いでいった育太が一人で戻ってくる。

「司先輩、泰吉先輩、香奈もう限界みたいなんで連れて帰ります」

 小太郎とともに、今年の新入部員の中で最も即戦力になると期待されている男。悪役レスラーのような外見に反し、こいつは本当に仲間の面倒見がいい。


「分かった。気をつけて帰れよ」

 そう言ってタクシー代を渡そうとした時、泰吉先輩が話に割って入ってきた。

「おい、お前はまだ帰るな。平川は司に送らせる」

「は?」

「平川はお前のパートの後輩だろう? リーダーが責任を持つのはあたりまえだ。お前が送っていけ」

 確かに通常はそうだが……そもそも平川をつぶしたのはお前だろうが。

 抗議の視線を向けてみても、泰吉先輩は一向に気にするそぶりがない。

 しょうがない。あいつをRBのパートに入れると決めたのは、この俺だ。


「わかりました。――育太、俺が行く。平川はどこだ?」

「トイレの前のベンチです」


 育太とともにトイレへ向かう。平川はベンチに寝そべり、完全に熟睡モードに入っていた。

「おい平川! 家に帰るぞ、起きろ!」

 ゆすっても叩いても起きる気配がない。仕方なく肩に担ぎあげる。

「軽いなこいつ。ちゃんと飯食ってんのか?」

「これでもアメフトに入って太ったって言ってましたよ」

「これでか?」

 よくこんなに軽い身体で、男に混ざってあれだけ走れるものだ。


 店の外で育太から荷物を受け取り、タクシーに乗り込む。マンション前で降りると、平川を担いで階段を上がった。

「おい、平川起きろ、家に着いたぞ」

 平川の部屋の前で背中を叩くと、やっと平川が目を覚ます。

 俺の肩の上で身体を起こし、目をこすりながらあたりを見回している。

「あれぇ? 何でここに?」

「いいから鍵出せ、鍵」

「バックの中ですー」

 女の鞄を勝手に見てもいいものなのか? まぁ、本人がいいと言っているのだし、しょうがないか。

 平川を下ろし、鍵を見つけてドアを開ける。


「ここからは一人で大丈夫だよな? ――おい、玄関で寝るな!」

 家の中に四つんばいで這っていった平川が、玄関でそのまま丸くなって目を閉じる。

「冷たくっていい気持ち……先輩も良かったらどうですかー?」

 だめだ。このまま放っておけば、こいつは確実に朝までここで寝るだろう。

「上がるぞ」

 玄関に入り、再び平川を抱き上げる。靴を脱いで、ついでに脱がして、部屋に続くドアを開けた。


「――おい、なんだこの悪趣味な部屋は」

 カーテンはピンク。ベッドカバーと枕は白で、そのどちらにも大量のレースがビラビラとついている。

 フローリングに敷かれたマットは花柄。やはりそれも甘ったるいレースで縁どられていた。

「はい、悪趣味? ……あぁ、これは幸子の呪いです」

「呪い?」

「うちの母親幸子はですねー、女の子なら可憐なお嬢様系っていう育児の絶対の方針があってですねぇー、運悪く女に生まれてきてしまった私を、何とか可憐な少女にしようと全力で呪いをかけたわけですよ。これは、その名残です」

 こいつをお嬢様系に? 絶対無理だろ。

 確かにここまで徹底されると、呪いの域に達しているかもしれない。


 腕に抱えたままの平川が、また眠そうに目を閉じる。趣味の悪いベッドにそっとおろすと、無意識なのかもぞもぞと布団にもぐっていき、猫のように身体を丸めた。

「鍵はかけていく。明日目が覚めたら俺の部屋に取りに来い。……平川?」

 返事がない。すでに眠っているようだ。

「スーツのままだが、まぁいいか」

 目に付いたメモ用紙に、鍵の件を書いてテーブルに置く。

 そのまま部屋を出ようとした時、テレビの横に置かれていた写真立てが目に入った。


 陸上部の仲間に囲まれ、その中心で笑う平川。首にはメダルを下げ、その手には賞状とトロフィーを持っている。

 異常に速いとは思っていたが……ここまでの結果を残しているやつだったのか。


 あの一件を機に、俺の持つ平川への印象はだいぶ変わった。

 突然の勝負だったにもかかわらず、男に引けをとらないスピードと体力を根性で証明してみせた平川。あの結果は並大抵の努力で出せるようなものではない。男、女に関係なく、その努力は十分尊敬に値する。


 ――なぜここまでの成績を残したやつが、マネージャーなんかやっているんだ?

 あれだけの力を持っていれば、どんな部に入ったとしても立派に活躍できるはずなのに――


 平川は布団の中に潜ったまま、気持ちよさげに鼻を鳴らして眠っている。

 写真立てを元に戻すと、鍵を手に部屋を出た。






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