第1話 出会い
憧れの「小説家になろう」様、初投稿です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけますように。
桜がすっかり葉桜に変わりつつある、4月のとある日。
私は大学に入学して初めての授業を終え、一人で昼食を取るため、校内見取り図片手に学食を探してさまよっていた。
私の名前は 平川 香奈 18歳
身長154センチ 性別は一応女の子。
高校までは陸上をやっていたため身体は細くて筋肉質で、髪はまったくおしゃれとは言いがたいショートカット。
中学から出始めたニキビはいまだ根強く残っていて、本当に女の子らしさとか可愛らしさとかが欠片もないと自信を持って言える。
ここ私立S大学は、この辺りではそこそこにレベルの高いマンモス大学だ。
学部数10を誇り、法学部、商学部、経済学部など文系の学部の他に、薬学部、医学部、体育学部なんてものまである。
人数はいったいどれだけいるのか知らないけれど、広大なキャンパスには緑が溢れ、大学と言うより一つの綺麗な町といった雰囲気だ。そこに惹かれてこの大学を選んだようなもの。
ちなみに私は法学部。
私は今、大学のメイン広場ともいえる場所にいるけれど、今日は異様に人が溢れ、変な熱気に包まれている。
なぜかというと、新年度を迎えたばかりの今日から1週間は、各部活動やサークルによる新入部員獲得のための勧誘活動週間となっているせいだろう。
初日の今日、必死に新入生を勧誘している先輩方の顔は気迫に満ちていてちょっと怖い程だけれど、きっと私は大丈夫。
こういうとき真っ先に声を掛けられるのは、女の子らしい可愛い新入生と決まっている。
18年も生きて来たらね、女の子としての自分の置かれた位置ぐらいはわかりますから。
ようやく発見した一番近くの学食が大混雑しているのを見て早々にお昼ごはんを諦めると、次の授業までの暇つぶしのつもりで、あちこちに用意された各部の特設ブースを覗いてまわった。
いろんなサークルや部活があるんだな。
私は中学・高校と陸上部に所属していたけれど、大学に入ってまで続けるつもりはない。
もともと陸上が好きでやっていたってわけでもないし。
本当にやりたかったものは別にあったのだけれど、わたしの頑固な母、幸子(さちこ)の反対にあって許してもらえなかったのだ。
うちの母、平川幸子は子育てに絶対のポリシーを持っている――――いや、持っていた。
女の子なら可憐なお嬢様系。男の子なら爽やかスポーツマン。
そしてたまたま生まれてきたのが、一人娘のこの私。
持って生まれた私の性格なんて気にすることなく、母は私を可憐な少女に育て上げようと全力で努力した。
ところが肝心の私は小さい頃からとにかくおてんばで、隣の家に住んでいた格闘技命のおじいちゃんに懐き、いつも遊びに行っては昔のカンフー映画やプロレス、柔道、空手などの試合を見せてもらっていたこともあって、すっかり「強い女」に憧れる少女になってしまった。
『空手か、柔道か、剣道か、少林寺拳法をならいたい!』
そう言い出した私を慌ててピアノ教室に連れ込んだ幸子との攻防はその後10年以上続き、その間許してもらえたスポーツは唯一陸上だけ。
これは私がもともと小さな頃から足が速かったことと、球技と違い、つき指などをしてピアノに影響することもないだろうと考えた幸子の苦渋の決断だったようだ。
気付けば私も18歳。
格闘技を極めるための黄金期|(子供時代)はとっくに終了しており、いまさら強い女性を目指そうという気持ちはない。
だけど、やっと今頃になって諦めのついたらしい幸子は、大学入学と同時に一人暮らしをしたいという私の願いを聞き入れてくれ、晴れて私は自由の身となった。
今にして思うけれど、私は多分、格闘技には向かなかっただろうな。
身長はたったの154センチしかないし、太りにくい体質なのか身体はガリガリで、6年間の陸上部生活で得た筋肉がアンバランスに付いているだけ。
努力して自分を高めるのは好きだけど、人と揉めたり争ったりするのは、本当はあまり好きじゃない。
どう考えても、強くなれそうにない。
身体を動かすのは好きだから、また何かしらのスポーツはしたいけれど、個人競技はもういいや。
仲間との友情を深められるような団体競技で、ポジション争いの激しくないやつってないのかな。でも、この歳で一から始めるとなるとなぁ……。
そんな気持ちでぶらぶらしていた時、ふと一つの集団に目がいった。
うわっ、でかっ!!
やたらと筋肉質なでっかい男の人たちが、お揃いのスタジャンを着て集まっている。
その周りで、同じスタジャンに身を包んだ下級生と思われる若干細身の部員たちが、道行く新入生の男の子に声をかけ、勧誘活動を行っている。
「なんて書いてあるんだろう? AMERICAN FOOTBALL TEAM……BLACK CATS……黒猫?」
そう呟いたのと同時に、集団の中心にいたひときわゴツイ人と目が合った。
やばっ、じろじろ見てたのバレちゃった!?
焦る私をよそに、その人はじーっと目を逸らすことなく私を見つめたあと、すくっと立ち上がってこちらに向かって歩きだす。
なっなんで、こっちに来るの? 『見てんじゃねーよ!』とかって怒られる!?
そこでハッとして、今日の自分の服装を上から見下ろす。
ビンテージのジーンズに、お気に入りのTシャツ、足元は履きなれたスニーカー……ああっ、やっぱり!! これってもしかしてっ!?
焦っているうちにも、男の人はずんずん近づいてくる。
完全に視界をふさぐような巨体が目の前で立ち止まった瞬間、私はガバッと頭を下げた。
「ごっ、ごめんなさい! 私、男です!!」
「……は?」
「い、いや、間違えましたっ!! ごめんなさい、私こう見えて、実は女です!!」
うわぁー、恥ずかしい! でかい声で間違えちゃった!!
多分耳まで真っ赤になっているはず。もともとニキビだらけで、顔は真っ赤だけどさ!
「すっ、すみません! そういうことですので、私、アメフトは多分無理かと……い、いやいやいや、やって見たい気はもちろんあるのですが、多分どんなに頑張っても女の私じゃ細マッチョが限界です! せっかく勧誘に来てくれたのに、ごめんなさいっ!!」
申し訳ない気持ちいっぱいで、全力で謝る。
本当に申し訳ない。こんなブサイクな私にまで声をかけてくれる親切な人なのに!
そのまましばらく待ってみたけど、なんの反応も帰ってこない。おそるおそる顔を上げると、そこには巨体に似合わぬキョトンとした間抜け顔。
あれれ? この反応って一体……。
次の瞬間、その人はお腹を抱えて笑い出した。
「お前っ……最高!!」
あっけに取られる私の前で、その巨体さんは苦しそうにヒィヒィ言って笑い続けている。
騒ぎを聞きつけ、他のマッチョたちまで「なんだ、どうした」と集まってきた。
筋肉の塊に四方を囲まれ、きっと私の姿は周りから見えなくなってしまったに違いない。
うわーん! 私ってば、一体どうなっちゃうのっ!?