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公子様と魔女の日常  作者: 瀬尾優梨
小さな一歩、始めよう
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見目麗しき来訪者2

 さてはて、私を残して部屋を出て行かれたリンリン姉様。姉様の覇気で棚から落下したクマさんのぬいぐるみを元に戻しながら、私はただ、待つことしかできませんでした。そういうわけで、この先に何があったかは後にメイドさんからお聞きすることになったのです。

 ウワサ好きのメイドさんたちの話を集約すると、こんな感じです。


 サランの部屋から勢いよく飛び出したリンリンことマ・リンラはまっすぐ、一階の応接間に下りた。既に公爵夫妻は言いくるめていたため(しかもなぜか、夫妻にも気に入られた)、すんなりした美脚を振り上げて遠慮無く応接室のドアをばーんと蹴り開ける。

 そこにいたのは、ちょうどフォルセスの伯爵と話し合っていたアーク公子。突然の、羅紗のような美女の登場に目を剥いたアークと伯爵だが、まず、マ・リンラはお得意の魔術で伯爵を眠らせた。本当はこの場から追放したいくらいの勢いだったが、せめてもの彼女の気遣いだったと言えよう。

 で、とんでもない口論が繰り広げられた。

「おい、いきなり入ってくるな! そして何のつもりだ、マ・リンラ!」

 当然のごとくき反応をするアーク。いくら彼女が屋敷に来たことは了解していても、これはいただけなかったようだ。まあ、当然と言えば当然だが。

 しかし、天下のマ・リンラはそれくらいでは動じない。ことさら立派な胸を張って言ったそうな。

「はっ、嫁も抱けないような男に言われたくないわ!」

「……何?」

 不可解そうな顔の公子殿に、怒り心頭のマ・リンラ。

「サランからさっき聞き出したわ。あんた、サランを蔑ろにしているでしょ! 抱かない触れないキスしない。サランを何だと思ってるの? あんたの将来の嫁でしょ!」

「なっ……! これは俺とサランの問題だ! いくらサランの姉弟子だからって、俺たちの関係に首を突っ込まないでくれ!」

「はぁ? 俺とサランの問題ぃ? よく言うわ! ろくにあの子とコンタクト取らないくせに、二人の問題だって言うのね。あんたが独りよがりしてるだけでしょ」

「何を! だいたい俺もサランも互いのことをよく知らないのに、そんな手出しなんかできるわけないだろう!」

「互いのことをよく知ろうと努力もしないのに、よく言えるわね!」

 うっ、と返答に詰まる公子。ドアの外で立ち聞きしていたメイドたちも、さすがにこればかりは公子に同情できなかった。常々彼女らも感じていたことだったから。

 と、ここで、部屋に留まっていたメイドが逃げるように退出したので、ここから先は二人の口論のみをお伝えする。

「サランの性格ぐらいは知っているでしょう? あの子は人一倍寂しがり屋で、引っ込みがちなの。こんな屋敷に連れられて、本当は寂しくて仕方がないのよ!」

 では、なぜここまで連れてきているのだ? と疑問に思うメイドだが、真実は主犯であるタロー魔術師とその四人の弟子、そしてアーク公子しか知らないことであった。

「それなのに、独り寂しく部屋に放置して! さてはあんたの××××は××××じゃないの? それで×××××も×××××できないと!」

「おまっ……! 放送禁止用語をそこまでしゃあしゃあと……!」

「んー? 言い返せないってことは本当に××××だったということ? あー、それなら残念だわぁ……サランを取り返そうかしら」

「違う! 変な疑いをかけるな!」

「ふーん? じゃあ、どうするつもり?」

「どうするって……」

「金鉱問題だか、外交だかの事情でこれから先もサランを放っておくのか、少しは考えを改めて、あの子と仲よくなろうと努力するのか」

「……」

「サランに任せる、ってのはナシよ。あの子のことだから……『アーク様はお仕事を優先なさってください』と言うに決まっているわ」

「……それは、分かる」

「そう、物わかりはよくて助かるわ。で、どうするの?」

 しばしの沈黙。はらはらと見守る(いや、聞き守る?)メイドたち。十分に間をおいて、ようやくアークの声が。

「……心がけるようにする」

「ふーん、心がけるだけ?」

「あ、いや……ちゃんと、話すようにするぞ、うん!」

 情けないぞ、アーク公子! ドアの外でメイドたちは嘆息するのであった。


 その後、つらつらと文句を述べてようやくサランの部屋に戻ってくれたマ・リンラ。それと同時にずっと催眠魔法をかけられていた伯爵ははっと覚醒した。

「……おお! すまない、うっかり居眠りしていたようだ……だが、さきほど大変な美女が現れたような気がするが……?」

「……そうですか? きっと気のせいですよ」

「おお、そうか……ん? 心なしか顔色が悪いようだが、大丈夫かね、公子殿?」

「……だいじょぶです」



 リンリン姉様が帰られた後、興奮しきったメイドさんからこのように報告をいただきました。

 やはり、アーク様はお忙しいのです。でも、それなのに私のために時間を割いてくださるということです!

 私にとっては、身に余る光栄です! だって私も、アーク様とゆっくりお話ししたいと願ってましたもの!

 私はメイドさんにお礼を言い、姉様が使われたカップを洗うべく、流しに向かいます。 メイドさんが手を貸してくれると言いますが、丁寧にお断りしました。

 なんだか、少しだけこれからが明るくなったような気が、しました。

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