その時、彼の身に何が起きたか
いくつもの小国から成るフォルセス連合王国。ここに属するフォード公国の公子、アーク・ティル・フォードはまったりと暮らしていたが、家の事情で彼のゆとりライフは幕を閉じた。舞い込んでくる見合い書の始末の褒美に遠乗りを許され、愛馬に跨って近隣の町を散策するアークだが、その帰りに猛烈にトイレに行きたくなり、偶然立ち寄った家のトイレを借りることに。だが、それは彼の受難の幕開けであり、壮大なプランの始まりであった。
その家の家主である萎びた柿のような老人・タローはフォルセス屈指の大魔術師。彼に言いがかりを付けられ、アークは彼の弟子である五人の魔術師の中から嫁を選ばされることになった。与えられた猶予は七日間。その間皆と過ごして、これだと思う女性にプロポーズしろという。
五人の女魔術師たちは個性豊かな者揃いだった。長女シャリーはおっとりしっとりした貴族の娘で、妹でした地の面倒見もいいが、料理の腕は壊滅的。そして誰も、彼女に逆らうことはできない。
次女のリンリンは豊満なボディを誇る辺境の国の王女様。豪快で楽天的。アークをからかうのが楽しいらしく、何かといじり倒していた。そんな彼女も、祖国での立場では悩むことが多かったという。
三女のユイは頭脳明晰、真面目で勤勉家、そして無類の観察好き。生まれ育ちの都合で、感情表現や喜怒哀楽に乏しい面があり、研究心に周りの者が巻き込まれることも多々あるが、最近は少しずつ温かい心を持ち始めたようだ。
四女のテディは魔術よりも運動大好き。武術が得意なアークでさえ、彼女には一切敵わなかった。明るく自由奔放、自由人であるが根は強く、物わかりもいい方。アガタ王国という武道の国出身で、祖国のことはあまりよく思っていない模様だ。
五女のサランは苦労人で真面目。姉たちの尻ぬぐいやとばっちりを受けることも多々ある。心優しくて家事や裁縫も得意だが劣等感が強く、姉たちの影に隠れて引っ込みがちな面が多い。いろいろと、分かっているようで分かっていないようだ。
そんな五人と過ごしたアーク公子。皆個性があってすばらしい娘ばかりだが、やはり誰か一人を選ぶなぞ、不可能だった。アークの逃亡を提案したサランの計画も早々に潰され、誰を嫁にするのか問いつめられたアーク。まあ、その後いろいろあり……枯れた老人と結婚させられそうになったり、サランが土下座したり、云々云々。
結局、アークは一番自分のことを思ってくれる優しい女性にプロポーズ。彼女を屋敷に連れて帰ることになりましたとさ。
だが、これらも全て、偉大なるタローの計画の内だった。後日、屋敷を訪れて事の真相を明らかにするタロー。打ち明けられたことに驚きつつも、彼女を思う気持ちは変わらないと断言するアーク。
まだまだ二人とも結婚なんて愚か、恋人と呼ぶのすら憚られる状態。だが、これから少しずつ少しずつ、歩んでいくのだろう。
二人が共に暮らすようになって、しばらく時が流れた。