Episode3 助けに来た機械
―――――K-2地点
「おーーーーい!!」
俺はヘリにいるオペ男に向かって大声で叫んだ。
もともと作戦が終了次第オペ男に機体の回収をしてもらう手筈ではあったが、こちらから連絡ができないため、オペ男がわざわざ回収に来てくれるかはオペ男の判断に任せるしかなかった。
やがて傍らの木の少ない場所へヘリは着陸した。山岳地帯中心の北国の輸送ヘリと同タイプだから悪条件の着陸もお手の物だ。
「心配しましたよ“マスター”」
「異常事態だったんだ許してくれ“オペ男”」
パトやロイアなんて心配しすぎて敵の中枢をハッキングして心中自殺しようとか言いだして大騒ぎだったんですからと言いながら
ヘリから降りてきた“オペ男”は救助道具一式を持って近づいてきた。
「マスターは無事みたいですね」
「お陰様でな」
オペ男はそれからゆっくりと大破した“1番機”に視線を向けた。
「キャシーなら無事だよ、そこで寝てる」
俺は少し離れた木の下に寝かせておいたキャシーを指さした。
「よかった……」
オペ男は目を細め、ホッと胸をなでおろしたような仕草をした。
「それで、コイツにやられたわけですか」
「あぁ新型らしい」
「新型ですか……」
察するに相討ちといったところですか?とオペ男は首をかしげた。
「いや、完全に俺の負け。生き残ったのはコイツがいきなり急停止したおかげ」
絶体絶命だったのよと俺はため息をついた。
「パイロットは?」
「話すより見たほうが早そうだ、ちょっと来てくれ」
コクピットを覗いたオペ男は、ほぅと一息ついて内部を眺めた。
「これはすごいですね」
「そういう割にはあんまり驚いてなさそうだな」
「いえいえ、驚きすぎてゼロコンマ2秒ほどフリーズしてましたよ」
同じ機械とは思えませんねと眺め続けた。
「このパイロットは?」
「おっかないからそのままにしてる」
「いいんですか?意識はないようですが」
いい加減にその人間嫌いは何とかしてくださいよとオペ男はパイロットに手を伸ばした。
「おい、やめろ!噛まれるぞ!」
「噛みませんよ」
オペ男はパイロットに巻きついたベルトを一つ一つ外していった
それにしても……
「これだけベルトに巻かれていると、シートベルトというより拘束具だな」
「まったくその通りですね、ほら腕にまで巻かれてますよ」
最後のベルトを外し終えると、パイロットは重力のなすがままこちらへ倒れてきた。
それを支えたオペ男だったがどうにもうまくいかないようだ。
「どうした?」
「マスターこれを」
呼ばれるままにパイロットの首元を見てみた。
「なんだ……これ?」
プラグだ、シートから首の裏側にチューブ状のプラグが繋がっていた。
背もたれも部分から伸びたチューブは確かにパイロットの首へと向かっており、くっついていた。
「マスター、すみませんが“それ”取ってくれませんか」
「え?」
そのせいでこの人を引きづり出せないんですよ、私は支えるので手いっぱいなのでとオペ男はパイロットを抱えながら言った。
「……わかった」
本当は近づくだけでも嫌なんだが。
俺はそっと首へ手を伸ばし、プラグを外す突起を見つけ、そのまま首から引き抜いた。
「ワッ!」
引き抜いた瞬間パイロットの体が一瞬ビクンッと痙攣した。
「大丈夫ですか?」
「頭撃った、いててて」
完全にオペ男にもたれ掛ったパイロットはそのままゆっくりと外へ出された。
「これがコイツのパイロット」
俺を落とした奴か。
地面に横たわるあまりにも小さなパイロットを見てそう思った。
俺はそっとヘルメットに手をかけ、脱がせた。
「ッ!!」
女の子だった。
白い肌をした髪の短い女の子だった。
「これが、…こんなものが敵の新型に俺を落としたっていうのかッ!」
「……ここまで来たら次に何が来たって驚かない自信がありますよ」
まったくだがこれ以上来られたら堪ったもんじゃないな。
「ではその次が来る前に撤収しましょう」
まだまだ調べたいことはたくさんありますが、とオペ男は少女を担ぎなおした。
「そうだな」
「私が回収に来たということは、敵にも同様の可能性があるのですから」
そういってオペ男はヘリへと歩き出した。
「あ、そうだ」
どうしました、とオペ男が振り返った。
「せっかくだからこの機体鹵獲したいんだけどいいかな?」
「もちろん、敵の新型がそこに倒れてるのに持っていかない手はないでしょう」
思わぬ収穫とでも思いましょうとオペ男はさらりと言った。
「手伝うよ」
「結構です、マスターは中で休んでてください」
「でも……」
「その左肩の打撲では満足にロープも扱えないでしょう、機体が大破したというのにそれだけ動ければ大したものです。ですが」
ここからは私の仕事ですとオペ男は言った。
「それに、“彼女”が先ほどから寂しそうにしていますので」
そう言ってオペ男は近くの木を向いた。
「……そうだな」
木陰に寝かせておいたキャシーを抱きかかえ、俺はヘリへと向かった。
『Machine Hart』 Episode3
To be continue……