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マシンハート~機械の心~  作者: 林目凌治
こんにちは機械
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Episode2 新しくて不思議な機械

森に夜が明ける。

白い霧の中へばりつくような冷たさがパイロットスーツを通り越してくる。

体中が痛かった、全身を覆う鈍痛が今までもあったかのように痛む。


白い機体だ

白くて見たこともない

今まで自分と戦闘を繰り広げていたことも忘れさせる

真っ白な“人型”


長い脚、短い胴は“二足人型起動兵器”の最大の特徴だ。

それが今にも切りかかろうとしている格好で止まっている。

まるで今までずっとそうしていたかのようだ。


「キャシー……」


目の前の不思議な出来事に現状を忘れていた

助けなきゃ

俺の命より大切な、俺のパートナーを


完全に沈黙した“1番機”のコックピットをよじ登り光を失った内部へと入った。

シートの裏側、底のほうにキャシーの入った箱がある。

“キャシー”元々1番機に搭載されていたAIにプラスした補助AIという形で搭載されている。

オペレーションAIのオペレーションAIといった形で、元々のAIの演算機能はそのままに指令機能を乗っ取っているのだ。

そんなAI二台付けのような構造でキャシーは極端な人格形成に加えて高度な機体オペレーションを可能としている。

そのキャシーの基盤がそこにある。


薄暗いコクピットの中を手探りと感だけで何とかキャシーを見つけた。

もしそこに損傷があった場合はまさしく終わりだ。

バックアップはあるが主基板がやられたらキャシーはもう……。


震える指を押さえながら、キャシーを機体から取り外す。

ゆっくりとゆっくりと取り外す。

コクピット奥から光の当たる入口へキャシーを連れて行った。

よかった、思わず安堵の声が出た。

キャシーには目立った損傷は無い、寝蔵にもどって確認しなければよくわからないが。

おそらく問題はないだろう。頭の中では内部の損傷の可能性をクラクションのように心配していたが、いまは納得しなければやっていけなかった。問題ないと思いたかった。


俺はコクピットからこれから使えそうな目ぼしいものをかき集めた後自爆用の固形燃料の粉末を振りまいて外に出てから火をつけた。

1番機はもう修復不可能だったし、内部には国の内部に多少かかわりのあるデータとともに俺自身にかかわるデータもある。目の前に敵の機体がいるのだ鹵獲されて覗かれたらおしまいだ。

ボウッと火の手が上がり軽い爆発音が響いた。


「にしても……」


この広い密林地帯だ。

機密保持より自分の身のほうが数倍危ないだろ。


今更逃げても動いても仕方がない、目の前の機体が再起動を起こしたら確実に俺は死ぬし、逃げ回ったところで助けが来るのは作戦終了後だ。

ちなみに作戦終了まで残り1時間ほどある。

向こうに連絡がつけばいいのだがあいにく通信機もビーコンも無線機も機体と一緒におじゃんしていた。


「というか、このままあいつが助けに来ちゃったら逆に不味くないか」


目の前には機能を停止したもののいつ再起動するかわからない敵の機体、生身な俺。機体回収に来るあいつ、敵機再起動、あいつ撃ち落とされる、俺も死ぬ。

いや、耳を澄ませてみると低い重低音のようなものが聞こえる。

でもこの静けさは……敵の新型はここまでのステルス性を持っていたのか。

じゃなくて!


「やっべ」


完全に止まってないということは、いつでも再起動するってことじゃないか。

……まぁしゃあない。今更あわてたところで何が変わるってわけじゃない。

ここは国境付近、最前線だ。近くの村までも40km以上あるし、下手にぶらついて反政府組織んもゲリラにでも捕まったらそれこそ終わりだ。

人としてまともに死なせてもくれない。

こちとら完全に白旗状態だ。だったら目の前に敵機のパイロットにでも投降したほうがまだ生への道が……あるのだろうか?

そんなことよりもだ。


こいつをどうしたものか……。

形状は“二足”、でも電磁バリアやあの機動性は明らかに新型だ。

そしてそれはシルエットを見ても十分に分かった。

通常人型の主ブースターは背中のバックパックについているが、コイツはさらに首寄りの肩部から下にかけて正面っから見ると“X”字に補助ブースタがついていた。

これじゃあ明らかに機動性が高いぜって言ってるようなもんじゃないか……。

よくみると脚部や方向回転用補助ブースターの数も通常の人型より目に見えて多かった。

とことん機動性を追求した機体なのだろうか?

でもそうなると装甲が減って耐久性が……あ、そのための電磁バリアか。ん?でもその肝心な発生装置はどこに?いくら小型化したといっても限度が、しかも実弾兵器に対する対処は……。


寝起きの鳥がピピッと鳴いた。

ハッと現実に帰ってきた。ついメカニックの血が……。

こうしている場合じゃない、今から助かる方法を。

……ないな、うんあきらめよう。

そんなことよりもこの機体は依然として沈黙を保ったままだ、イロットに何かあったのだろうか。

俺は好奇心の赴くままにその白い人型に近づいた。

ハッチを開けられないだろうか。もしこの機能停止がパイロットの異常であった場合、あばよくばこの新型を鹵獲し寝蔵へ持って帰れるかもしれない。

思わずのどを鳴らした。

白い人型は立ったままなので、地面からハッチまで数メートルある。


「はて、どうしたものか」


何とかしようとウンウン唸っていると、あることに気付いた。


「そういえばこの機体は、どうして“この格好”で止まっているんだ?」


まさしく切りかかろうとする“この格好”で。

機体はマスターシステムを起動しているとき以外では、人工筋肉に通電がされないため関節をロックしなければ機体はその体制を維持できない。

つまり全身に力が入らない状態だ。

今目の前にある“人型”はおそらく何らかのトラブルでパイロットが気絶でもして動けないのであろう、というのが一番有力だ。

つまりこの機体は実質コントロールを失っているわけだ。

この状態でマスターシステムがダウンでもしたら関節ロックのされていないこの機体は重力に任せて倒れてしまうわけだ。

ところで。

さっきから微かに聞こえていた“低重音”が聞こえないんだけど。

どういうことだろうか?

そういうことだろうか?


「やっべ」


目の前の“人型”はぷっつりと糸が切れたようにその体を崩し始めた。


「そういうことだった!」


静かな森に広がる爆音。

立ち込める土埃。

木々に止まっていた小鳥たちがピッピッピと空へ逃げて行った。


「セーフセーフセーフ!」


間一髪機体の下敷きになることだけは避けられた。

キャシーを離れたところに置いておいてよかった。


泥とか落ち葉とかでぐちゃみそになった体をパンパンと払い口の中に入った土をペッと吐いた。

しかしこれで分かった。

敵機の機能停止の原因はパイロットの異常だ。

しかも外に出てこないことを考えると、おそらく意識はないだろう。

意識があれば俺みたいに脱出用のカッターで出てくるはずだ。

と、なると……やることは一つ!


「レッツ鹵獲タイム!!」


幸いコクピットハッチは開けられそうだ。

無理にでも開けさせてもらってちゃっかり貰ってしまおう。1番機を壊された賠償だ、安くあがっと思ってもらいたい。

ついでにパイロットには退場してもらおう、俺は人間が苦手なんだ。


さてと、とりあえずハッチ開閉スイッチはっと。

基本的に人型のハッチ開閉スイッチは機体の股下にある。どうやらこの機体も例外ではないようだ。

レバーを引くと、バシュッと空気の入る音がしてハッチが空いた。

後は頂くだけだ。と、悠々とした気分でコクピット内を覗いてみた、が。


「なんだ……これ……」


新型とは聞いていたがこれは……おかしい。


薄暗いコクピット内に見えたものは何もなかった。いや、パイロットらしい影以外には本当に何もなかった。

唯一あるとすればパイロットの目の前にある制御コンソールのようなものだ。それ以外にはなんもない、計器も、無数にあるはずのスイッチも。ただシートとパイロットとどう見ても操縦レバーのようなものだけだ。

そして何よりも。


「これがパイロット?」


微妙な光だけが差し込むコクピットに確かにパイロットはいた、いたのだが。

小さすぎる。

黒のパイロットスーツに身を包み不格好で無骨なヘルメットのを被っている、子ども。どう見ても子ども。


何から何までわからなかった。

これが、敵の新型。

新型と言わせるにふさわしい本当の新型。


目の前のあまりにも衝撃的な光景に思わず息をするのを忘れた。

その時だ。

バラバラと遠くからヘリの近づく音が聞こえた。

敵か味方か、まあこれほど大胆に狼煙を上げていれば目立つことこの上ないだろう。

ヘリは徐々に近づいてきて、やがて上空で静止した。

そのコクピットに確かにあいつの顔があった。


「おーーーい!」


助かった、と安堵をこれでもかとねじ込んだ声であいつを呼んだ。



『Machine Hart』 Episode2


To be continue……

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