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マシンハート~機械の心~  作者: 林目凌治
こんにちは機械
1/3

Episode1いままでの機械

 人型機動兵器


 人を乗せ、戦場を駆る鋼鉄の塊


 鉄壁の防御力、多彩な武装を自在に操る鋼鉄の塊


 各国の覇権争いが絶えないこの世界で、最も高い戦闘能力を持つ兵器






 ――K-2地点、森林地帯



 「出力どうだ?」


 《現在索敵モードニツキ、全出力ノ10%ヲ機体維持ニ、5%ヲ肩部レーダーニ使用シテイマス》


 「索敵状況は?」


 《周囲R5000マデノ範囲デ異常ハ確認サレマセン、探査衛星カラノ索敵ニモ異常ハ確認サレマセン》


 「今何時だ?」


 《午前2時デス》


 「作戦終了時間まであとどんくらいある?」


 《作戦終了時刻ガ、翌日ノ午前7時デスカラ、残リ5時間デス》


 「あーー、暇」


 人型機動兵器の狭いコクピットに押しこまれてから、もう10時間が経つ

 俺の愛機である、四足人型機動兵器「1番機」の中にいることは嫌いではないが、何分狭い

人型の中では満足に脚を伸ばすこともできない

いくら途中でトイレ休憩を挟んだりしていたとしても、これじゃあ、あれだ、エコノミークラスなんちゃら?だかになってしまいそうだ

まぁ個人的にはコックピットの居心地はファーストクラスだ……と思いたい


 「にしても……」


 ただの拠点防衛任務、しかも敵が現れる可能性が否定できないと言うだけの、保険のような任務だったので、機動兵器とドンチャンやらずにすむと喜んでいたのだが


 「まさか森林のど真ん中で待ちぼうけとはなぁ」


 《暇デスネ》


 「暇だなぁ」


 《暇ツブシニ“シリトリ”デモヤリマセンカ?》


 「無理、AIのお前に勝てる訳ないだろ」


 《“キャシー”ハ、ズルナンテシマセンヨ?》


放って置いてもうるさいだけなので、付き合ってやることにした


 「……しりとり」


 《リウマトイド因子!》


 「キャシー、やっぱりお前ダメだわ」


 《ナ、何デデスカー!》


 このさっきからうるさいのは

 1番機の戦闘支援型AI「CA-C17855(俺魔改造ver)」通称:キャシーだ


 《何デデスカー!》


 元々は二世代程前の旧式AIだが

造りが簡素であるため改造しやすいという理由から、安価で購入


 《ネー、チョットー》


 俺の改造技術とは罪なもので

 そのまま改造したところ、支援型AIどころか一端の人工知能クラスと同等の性能を持ち

 今や戦闘支援は勿論のこと情報収集やハッキング、果てや“人型”の軽い操縦まで出来るようになってしまった

 更に、自我まで持つようになり、人間にともまともにコミュニケーションもとれる優れものである


 《ネーネー》


 まぁ欠点といえば、何処を間違えたのか暇さえあればペラペラと要らん話を話すことと、旧式がゆえに、キャシーの発する音声は大昔の音声再生ソフトのように声に抑揚が全くないことだ

正直俺も慣れるまでにかなりの時間を要した


 《ネー無視ー?》


 「……。」


 《……。》

 《警告(ワーニング)警告(ワーニング)!》


 コックピット内が赤い警告ランプに染まり、メインモニターには大きく『警告』の文字が点滅し出した


 「うっさい!」


 コックピットの壁を思いっきりぶっ叩いてやった


 《イタッ!ドウシテ叩クンデスカ!》


 「おお!流石旧式、叩いただけじゃ壊れないか」


 《アタリマエデス!チョット振動与エレバ壊レル、既製品ノメスブタドモトイッショニシナイデクダサイ!》


 「ならもっと叩いても大丈夫だな、おらっ!」


 今度は反対側の壁を殴ってやった


 《ヤ、ヤメテクダサイ!ホントニ!チョッ、アッ、ダメッ、アンッ》


 コックピットの警告ランプがより明るくなった


 「やめい!変な声出すんじゃありません!」


 注:キャシーは旧式AIなので声に抑揚はありません


 《ダッテ……マスターガアンマリ激シイカラ……"》


 おい、メインモニターの文字変わってんぞ、なんだよ『♡警告♡』って


 《モウ、オ嫁ニ行ケナイデス……》


 「この場合お前を作ったのは俺だから、親父は俺ってことになるけどな」


あと、別に機体を叩いたところでお前は痛くないだろ


 《エッ?ト言ウコトハ、コレッテ近親相「よしわかった、俺この任務終わったらしばらく“1番機”には乗らないわ」


 《ソ、ソンナー、ヒドイデスヨ、マスター!》


警告ランプがやっと鳴り止んだ


《ソンナコト言ッテ、前回ノ出撃デ、キャシーガサポートシテナカッタラ、マスターハ、丸焦ゲニナッテタンデスカラネ!》


そういえばそうだ、前回の最終防衛ラインを死守せよなどという馬鹿げた任務では、キャシーが味方の司令官の通信を盗んでいなければ、拠点自爆の炎で他の敵味方とともに焼き豚になっているところだったのだ


「あ、いや、その節はお世話になりまして」


《マッタク、ソノ癖ニシバラク乗ラナイダナンテ、モウ知ラナイデス!》


「まぁキャシーさん、本人も反省しているようですし、ここは一つ許してやってはくれませんか?」


AIに謝っている姿はなんとも滑稽に見えるかもしれないが、コレがまた重要なのである

AIは俺にとってすでに只の機械ではない、共に命を預けあう立派な相棒だ

だからこそ俺はキャシーとは仲間のように接するよう心がけている

俺が”人型“に乗っている限り、俺たちは運命共同体なのだから


《仕方アリマセン、今日ダケハユルシテアゲマス!》


それに


「いつもすまないねぇ」


《ソレハ言ワナイ約束デスヨ》


コイツだって分かっているのだ



メインモニターから見える景色は、相変わらず森林地帯特有の闇だった、月明かりが無ければ本当の暗闇だろう

今日が満月でよかった


「正直もう暇すぎて任務の内容とか忘れそうだなー」


すっかり闇に耽った森を目の前にしながらそんなことをつぶやいた


《アッ!マスターマタソンナコト言ッテ!マサカ本当ニ忘レタンジャナイデスヨネ!?》


俺の不真面目な発言を聞いてキャシーがまた騒ぎ出した


「ちょっと外に出てくる」


《コラ!マスター。何処ヘ行クンデスカ!逃ガシマセンヨ!》


生憎ハッチの開閉操作権はこちらにある

俺はハッチを開けた


 《アッコラ!》


「ちょっとションベンだよ」


 森林独特の冷たい空気が、よく温度調節されていたコックピットの中をかき混ぜる


《ナ、ションベンダナンテ。乙女ノ前デナンテ汚イ言葉ヲ!》


「……見るなよ?」


《誰ガ見マスカッ!》


降機用のロープを取り出し、コックピットから足を下ろした


 「なんかあったら教えてくれ」


《マッタク仕方アリマセンネ》


俺は機体からそっと降り、柔らかい地面へと着地した

ついでに言うと作戦内容はしっかりと覚えている、こんなのでもれっきとした傭兵のつもりだ


今回の任務は、我軍の拠点へと続くこの森林地帯へと入ってきた敵の排除だ

どこでもらってきたのやら、敵軍が今日K地点の拠点を攻撃するという情報を得たらしく

信憑性は薄いが万が一のことを考えて敵が現れた場合、敵か拠点に到着する前にこの森林地帯で食い止めろということで、特に拠点の防御力が下がる夜間に注意を置きたいらしい

だが、信憑性の薄い情報に正規軍を出すわけにもいかないので、末端の傭兵である俺に白羽の矢が立ったというわけだ


「ふぅ……」


少し伸びをして、長時間の固定姿勢からの開放を身体に味合せる


ふと、さっきまで自分の乗っていた“四足人型機動兵器”を眺めてみる

四本の足のついた下半身から人型の上半身がくっついている奇妙な形をしている

今は機体自体が待機中のため、全体的にうなだれたような姿勢だ

索敵中の左背部につけられたレーダーがせわしなく動いている


上からの情報によると、敵は小型高速機動兵器地上型が複数機である可能性が高いとのこと

小型高速機動兵器地上型というのは、機動兵器の一種で、地上ならばどんなところでもチョロチョロとそれなりの速度で移動し、攻撃を仕掛けることが出来るやつだ

そんなもんだから、通称“ネズミ”なんて呼ばれている


俺の機体は今回の任務用に換装されている

“ネズミ”の移動速度は速く、近づかれると厄介だ

そのために右背部に折りたたんである高出力長距離ビームスナイパーライフルを装備させている、R1900を誇る優れものだ

こいつを使えば敵に探知される前に撃破が可能である

そして、その長距離射撃を可能にしてくれるのが、現在絶賛索敵中の長距離型高性能レーダーだ

こいつのお陰で敵より先に目標の発見が可能となる

そして万が一接近を許した場合に備えて、両手には近距離戦闘用のマシンガンを装備している

加えて、“ネズミ”の主武装がミサイルであることも考えて両肩にはミサイル迎撃装置を装備、念には念を入れて、機体表面は爆発反応装甲で固めた

正直やりすぎといっても過言ではないほどの、ミサイル対策だと思う

更に重要なのは現在立っているこの位置だ

木こそ生えてはいるが、少し小高い丘になっている、ここなら樹木が狙撃の邪魔をすることを軽減することが出来る

ついでに、なぜ四足の機体を選んだのかというと、元々俺が四足が好きだったことに加え、四つ足があったほうが射撃時に機体が安定するからだ


「フッ……」


我ながら完璧な仕様に、思わず腰に手をあて胸を張ってしまう


《前方ニ熱源ヲ感知!》


“1号機”の外部スピーカーからキャシーが叫んだ


「来たか!」


俺は機体をよじ登り、コックピットへ滑り込んだ


「やっぱりな、この暗闇なら探査衛星からは確認することができない」


 ハッチが閉まり、再び狭いコックピットへと戻ってゆく


「上の判断はドンピシャリってわけだ!」


プッシュっと音が鳴り、コックピットの密閉が完了した


《上モタマニハ役ニ立チマスネ》


「いつもこうならいいんだけどなぁ」


ヘルメットを被りいよいよ仕事が始まる


「キャシー、システム“狙撃モード”!」


《メインシステム“索敵モード”カラ“狙撃モード”ヘト切リ替エマス》


 うつむいていた一番機が狙撃姿勢へと動き、機体が大きく揺れた


コックピット内では一部の計器たちが、稼動を始める

狙撃モードでは相手からの熱探知を避けるため、できるだけ機体から発せられる熱量を抑えようと、通常出力の半分ほどで稼動させるためだ


「敵の数は?」


《熱源反応ヲ四機確認、高速デコチラヘ向カッテキマス》


「距離は?」


《敵、距離R34000》


モニターのレーダー表示に映る四つの赤い点はずつこちらへと近づいていた

流石は高性能レーダーだ、高いだけはある


「この速さ“ネズミ”か、我が軍の情報部には感謝感激だな」


機体がまたひとつ揺れた


《射撃モードヘノ切リ替エヲ完了シマシタ》


《“長距離ビームスナイパーライフル”ヘノエネルギー充填ヲ開始、発射可能マデ残リ五秒、二、一、発射可能デス》


レーダーが更新され、四つの赤い点は少しずつこちらへ近づいている


「距離R2900か、まだ遠いな」


メインモニターの暗視機能を起動させる


「しかし暗いな、これじゃ目視は無理か」


暗視機能によって緑色に染まったモニターを見ると、より森林の闇の深さが伺えた


「熱源ロックしかない、キャシー補助頼んだ」


《了解シマシタ》


ヘルメットを狙撃モードへ切り替えると、バイザーに右肩のスナイパーについているスコープからの映像が映し出される


「キャシー、もっとも近くにいる熱源を追え」


《R2400ヲ移動中ノ熱源ヲ追跡》


バイザーの映像が大きく動き、熱探知映像が映し出される


その中心には“ネズミ”の熱源反応を示す赤い模様が動いていた


「ネズミが射程圏内に入ったと同時にロック」


《目標、間モナク射程圏内ニ到達シマス……到達、捕捉シマシタ》


赤い模様の周りを、オレンジ色のロックサイトが囲む


「まずは一匹……」


トリガーを引くと同時に、一瞬バイザーモニターが光った


一筋の閃光が一直線に進んでゆき、目標の赤色が一層広がって、消えた


《目標ノ撃破ヲ確認シマシタ》


「次、ロック!」


《R1820ノ目標ヲ捕捉シマシタ》


パシュン、パシュンと、ビームライフル特有の発射音がコックピットまで響いてくる


光の矢が二つ、三つと確実に、敵の反撃を許すことなく撃破する


そして、最後の一匹を仕留め終えた


「これで最後か」


《マスター、オ疲レ様デス》


「いや、まだだ」


《エ、ドウシテデスカ?》


「数が少なすぎる」


さっき来た“ネズミ”たちの目的はこの先にある拠点制圧のはずだ

いくら夜襲をかけるといっても、たったの“ネズミ”四匹で落ちるほど柔な防御ではない

相手方もそのくらい分かっているはずだ


ということはやはり


《前方ヨリ熱源反応ヲ確認!》


第二波が来る


「数は?」


《一機デス》


「一機!?」


レーダー画面を見ると確かに、赤い点が一つだけ表示されていた、ただし移動速度は“ネズミ”それを遥かに超えていた


「単機での制圧?“人型”か?いや、この速度は……」


 現在の状況、単機での突入などを考えると、敵は“人型”である可能性が高い

 だが、その速度は“人型”にしてはあまりにも速すぎた、高機動機体でもここまでは出ない、特別な改造が施されているのか、そもそも“人型”ではないのか、あるいは……


《敵機、距離R3000デス》


迷っている暇はない

先ほどの戦闘でこちらの手はすでにばれている

というか、向こう方もそれを狙って“ネズミ”を先発させたはずだ

相手がわからない以上、後手に回ればやられる!


「キャシー目標を追え、射程圏内入ったと同時にやるぞ!」


再度レーダーを確認すると、敵はすでにこちらの有効射程範囲のすぐ傍まで近づいていた


「何だってんだ畜生」


再びバイザーを射撃用に切り替え、敵の影を追った


 「避けるなよ」


モニターにはこちらに向ってくる赤い模様がはっきりと映し出される、その形から察するに、敵は確かに“人型”だった


《目標ノ射程範囲到達マデ、残リ五秒、二、一、到達、捕捉シマシタ》


「当たれ!」


トリガーを引き、ビームはが目標へと発射され、命中した


《目標ヘノ命中ヲ確認シマシタ》


確かに当たった、確かに当たったのだが


《目標、未ダ健在デス!》


バイザーの映像中央にははっきりと敵の熱源が示されていた


「外した!?」


いや、確実に当たったはずだ

砲身から出た光は、敵を捉え、命中している


《目標距離R1600》


 敵がなにをしたのかは知らないが、こちらを近づいていることは事実だ


「メインシステム戦闘モードへ切り替え、急げ!」


《メインシステム、射撃モードカラ戦闘モードヘ切リ替エマス》


眠っていた計器たちが一斉に輝き始め、薄暗かったコックピットが明るくなる


《ジェネレータ出力、戦闘モードヘ切リ替エ、臨界点マデ残リ20秒》


フル稼働を始めたジェネレータの低重音が、コックピットまで伝わってきた


ありとあらゆるメーターが急激に増加する


《ジェネレータ出力、臨界点マデ、残リ10秒》


俺は被っていたヘルメットを座席の後ろに投げ捨てる

“1号機”のメインカメラに光が灯り


《残リ5秒、2、1》


排熱ダクトから、蒸気が吐き出される



《メインシステム、戦闘モード起動シマス》



 同時に後退用のブーストペダルを思い切り踏み込んだ

 機体前面にあるバックブーストから炎が吹き出る

強烈な衝撃が身体を襲うが気にしている場合ではない


 敵はこちらの思う以上の速度で近づいてくる

 それだけの機動力を有しているのなら、それに劣る“1番機”が近接戦闘を行うのは得策ではない

 後退しつつ、ビームスナイパーライフルで狙い撃つ!


「キャシー、敵までの距離は!」


《R1000デス》


「よし、射程圏内だ」


 右背部のビームスナイパーは戦闘モードのオートロックでも射撃姿勢時ほどとはいかないが、長距離射撃が可能だ

 ビームスナイパーが敵“人型”を捕捉した


「捕らえた!」


こちらが全力でバックし、敵がそれを追う形で、“一番機”からビームが発射される


ビームは突っ込んでくる敵“人型”を貫かんと進んで行き、敵に当たる直前で弾けた


「なっ!?」


 それは暗視モードの薄緑色のモニターからでもはっきりと目視できるほどだった


《マスター、目標ハ“電磁バリア”ヲ装備シテマス!》


 電磁バリアとは、機体の周りに強力な磁場を発生させことによって、ビーム兵器を拡散、無力化する装置だ

だがこの技術はまだ実用化されてから日が浅く、小型化がされていないため、大型兵器に詰むのが精一杯だ


それが、なぜ“人型”に?


「くそっ」


森林の間を縫うように後退してゆく、敵を狙いながら、木を避けながら後ろに下がることは、少し気を抜けば、致命的な隙を与えかねない

 徐々にこちらとの距離をつめられているが、なぜか敵が攻撃を仕掛けないことが唯一の救いであった

その時だ


《目標、レーザーロック照射!》


「ミサイルだと?」


ここに来て反撃を始めた

敵機の背部から大量の熱源が放出され、一つ一つがこちらに向って突っ込んでくる

 ミサイルに反応した両肩のミサイル迎撃装置が、それを防がんと迎撃ミサイルを発射する

 しかし、敵の放った十数発のマイクロミサイルは、こちらのミサイル迎撃装置の迎撃機能を超えていた

 機体を旋回させ回避を試みるが間に合わない


 コックピットに衝撃が加わった

 モニターにはノイズが走った


 《爆発反応装甲ガ発動シマシタ、胸部被弾、機体防御力が5%低下シテマス》


 やりすぎといってもいいミサイル防御が役に立ったらしい

 機体表面に貼り付けた爆発反応装甲は、ミサイルが着弾すると同時にそれ自体を爆発し、ミサイルの機体主装甲版板への侵入を防ぐ

 それによって機体本体への損害を最小限に食い止めることが出来た


 だが気の休まる暇は無かった、再びコクピットに衝撃が走る


《胸部被弾!機体防御力ガ20%低下シテマス!》


 爆発反応装甲が離れた主装甲を敵から発射された銃弾が突き刺さる


恐らく今のは対“人型”用のライフルだ、通常兵器よりも強固な“人型”の主装甲板容易く貫いてくる

敵の目的は拠点征圧であるはずだが


「どんな敵にも対応出来ますってか、ちくしょうめ……「


敵は更に追い討ちをかけてくる、樹木に囲まれてはこちらも逃げるので精一杯だ


漆黒の森の中には、小刻みに吹き出るブーストと敵が放つ発射炎だけが光る


 ビームライフルが使えない以上、もう残された兵装は一つだ

「右背部の武装を武装解除(パージ)


右背部の武装と機体との接合部のロックが外れ武装解除される

敵機までの距離R500

こちらには、近接戦闘しか選択肢がない

両手のマシンガンを当てるには、更に接近する必要がある


「出来る!」


木と木の間を縫いながら敵に接近する

その時、コックピットに衝撃が加わった


ミサイル対策の爆発反応装甲をつけるために、通常つけている追加装甲を剥がしたせいで、機体の損傷率が激しい


「あと少し!」


更に数発被弾しながらも敵機へ接近する

そしてついに、マシンガンで捕捉できる距離まで近づいた

両手のトリガーを引き、弾丸の雨がはじけ飛ぶ


「落ちろおおおお!」


だが、いくら撃ったところでかすりもしない

手ごたえが全く無い

まるで一つの生物のようにヒラヒラとかわされる


“電磁バリア”、ありえない機動性、これはやはり……


「敵の新型かッ!」


敵の放った一発が、右腕部をえぐった


《左腕部破損!機体防御力50%低下、左腕部兵装使用不可デス!》


《マスター危険デス、ココハ退却シマショウ!》


「それが出来てりゃもうとっくの昔に逃げてるよ!」


右腕に唯一残されたマシンガンで応戦を続けるが、“新型”を前に、ロックさえままならない


その時、敵機がメインモニターから忽然と姿を消した

サブモニターにもその姿は映らない

慌ててレーダーを確認すると、自機を示すはずのレーダーの中心に、敵機を示す赤い点が重なっていた


《マスター上デス!》


“人型”にとって、頭部メインカメラの範囲外である真上は最大の死角だ

全くの無防備な状態で放たれる攻撃に俺はなすすべも無かった


「チッ……」


銃弾が脚部を破壊し、頭部が潰され、駆動系が爆散した……



――――《機、体防御、、力限界値ヘ到、達……マスタ、ニゲ、脱、、出、、、、ヲ》


無数の計器が破損し、もう火花も上がらないコックピット内で、キャシーが途切れ途切れにそう言った


奇跡的に残ったサブカメラから映し出されるノイズだらけのメインモニターには、左腕から輝く刀身を伸ばしこちらへ突っ込んでくる敵“人型”がかろうじて見えた


「とどめのレーザーブレードか……」


 傭兵を始めた時点で覚悟は出来ていたが


「キャシー悪い……次の出撃はなさそうだ……」


左目が血でかすんで、モニターがぼやけた


《イ、ヤダ、、、マ、、、―、脱出、シ、テ、、オネガ、、、、、生キ、テ!》


光が目前に迫り、損傷に耐え切れなくなったメインモニターがその役目を終えた


唯一の光源を失ったコックピットは、真っ暗な棺桶へと姿を変える


俺はそっと目を閉じた……





――――それから数分が経った


もう二度と開くはずのない目蓋がなぜか開いた

依然として当たりは暗闇のままだ

しかし、全身を駆ける痛みが

それを現実のものだと確信させてくれた


「生きている、のか?」


状況を確認しようにも、光源の無いコックピットではどうしようもなかった


「キャシー!おい聞こえるか?キャシー!」


返事が無い、スピーカーがやられたのか、それともキャシー自体がもう……


動かない機体ではどうしようもない

とにかく外に出ようとハッチ開閉レバーを手探りで引くが、予想通り反応は無かった


「しかたない」


 開かない以上無理やり開けるしかない

俺は座席の下から脱出用のレーザーカッターを取り出した


レーザーがハッチの接合部を切断してゆく

ガタンッと音が鳴り、ハッチの隙間から薄く光が漏れ出す

いつの間にか夜も明けだしていたらしい

ハッチを蹴落とすと、薄暗い地面がそこにあった

 完全に機能を失った四本の足では機体を支えることが出来ず、しりもちを着いているようだ

「っしょっと」


機体胸部下についている搭乗口から飛び降り、再び柔らかい地面に降り立つ


着地すると、うつむいていても分かるほど近くに白い柱が現れた


「なんだ……これ?」


見上げると二足の “人型”がブレードで今にも切りかかろうというそのままの形で聳え立っていた



見たことも無い、真っ白な“人型”だった……


『Machine Hart』 Episode1


To be continue……

この文字達は某F社のロボットゲームに非常に影響を受けています。後述ですがご了承くださいませ

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