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月見草  作者: 北川瑞山
優子の場合
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プロローグ

 栃木県下都賀郡壬生町。中央に黒川が流れるこの町は、度重なる市町村合併により、今では県内で最も人口の多い町となっている。といっても、この町に華美な様相は全くない。殆どが住宅、あるいは田畑であり、国道沿いに数件のファミリーレストランがあるくらいである。宇都宮近辺で働く人たちの、ベッドタウンと言っていいだろう。なるほど、東部宇都宮駅から壬生駅まで、宇都宮線で二十分ほどの距離であるから、生活に差し当たって不便はなさそうである。

 しかし壬生駅を降りると、そのあまりにも閑散とした町並みに思わずぞっとしてしまう。スーパーや飲食店はおろか、コンビニの一軒すら見当たらない。少し奥まで行ってみると、あちこちに水田があり、絶えず家畜の糞尿の臭いが立ちこめている。黒川にかかる橋を渡り、さらに行くと、舗装されていない道路には脇に生えている樹木の枝が鬱蒼と垂れ下がって行く手を阻み、土だらけの道路は雨が降るととたんに足場が悪くなるであろうことが容易に想像できる。といって自然が豊かな景観であるかと言えばそうでもない。周りは企業を誘致してできたのであろう工場や倉庫がいくつも並んでいる、何ともうんざりする程人工的な、無表情な景色である。土地の人には申し訳ないが、かなり過酷な環境と言わざるを得ない。

 そんな土地のずっと奥の方に、栃木県立壬生高等学校がある。その壬生高校に向かって、悪路などものともせずに歩き続ける一人の女子高校生がいた。名前は優子という。美人である。が、垢抜けない田舎臭さが漂う。そのあどけない表情と小柄な体格から、ともすると中学生に間違われそうである。それくらいに子供じみた可愛らしさがある。しかし、彼女の精神は、見た目から想像もつかないほど強靭である。彼女が後に日本中の人々を魅了する事になるその根本は、この強靭な精神にしかあり得ない。こういった環境が、彼女の精神を育んでいたのだと考えると、この土地の殺風景さにも何やら不思議な力を感じるのである。


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